第4話



 僕は次の日学校に登校し、昼休みを迎える。

 メイは違うクラスだが、ヒマリは同じクラスで、朝から僕をちらちら見てくる。

 少し居心地が悪い。

 

 3馬鹿の1人、ガリがやって来る

 ガリに引き寄せられるようにマッチョとブタも来る。


 こいつら、今は集まって来るなよ!

 何で3馬鹿が同じクラスなんだよ!


 そしてガリがぬるっと話を始める。

 ガリはそういう人間だ。


「察するにヒマリ殿が妹と一緒にモブの家に遊びに行った。そして、そこで何かが起きたと、そう考えて良いでおじゃるか?」


 名探偵か!

 そういう名探偵はいらないんだ!


 ガリは常に成績はトップな上に暇があると本を読んでいる。

 すべての雑誌に目を通す乱読家で、休日は散歩がてら図書館に行き、一週間分の新聞と雑誌を読破しないと気持ちが悪くなるあれな人だ。


 そして夏休みの宿題は休みが始まる前に片付け、職員室に提出するやばい奴でもある。


「よもや、モブからリア充への道を進もうとしているでおじゃるか?」


 ガリから嫉妬の炎を感じる。


「俺達は同じ道を歩む同志じゃねーのかよ!」


 ブタが吠える。


「筋肉に対する背信行為だな」


 マッチョの言う事はたまに良く分からない。

 何の神だよ!


 まあ、こいつら、偏っている部分はあるがスペックは高い。


 ガリのアドバイスは的確で助かっている。

 マッチョと豚は威圧感がある。


 ブタはただの肥満に見えて実は相撲取りのように筋肉質だ。

 そのおかげで僕はモブでありながら絡まれず済んでいる


 がだ今は来るな!

 来ないでくれ!


「あの双丘を独占しようとするその企み!断固阻止するでおじゃる!」


 ヒマリは自分の胸を腕で隠した。


 ガリは、頭が良いんだけど、残念だよな。

 今はガリが一番怖い。


 でも、いいんだ。

 明日は休日、連休だ。


 休みを挟めば、色々リセットされる。

 人は、忘れる生き物なのだ。


 僕は窓を見つめる。

 空いた窓から風が吹き込む風が気持ちいい。


 僕は窓に両手をかけた。

 僕のぼさぼさの前髪が風でなびく。


 気持ちのいい風だ。


「あれ?モブがカッコよく見える」


 クラスの女子が僕に声をかけてくる。

 僕は急いで前髪を下ろした。


 すぐに猫背になり、前髪を下ろす。

 そして伊達メガネをくいっと上げる。


「気のせいだよ」

「そ、そっか。気のせいかな?……前髪を上げて見てよ」

「僕はトイレに行って来るよ」


 僕は華麗に切り抜けた。

 でも、ヒマリが僕を見ているような気がした。




【放課後】


 僕はすぐに帰宅して、伊達メガネを外す。

 気分を変える為にシャワーで汗を流す。

 髪を乾かし、母さんの飲食店の手伝いに向かう。


 父が経営する自転車屋の隣が母さんの経営する飲食店だ。

 父さんと母さんが結婚し、2つの家は改築されて廊下でつながっている。


 この店の目玉はカレーとケーキで、カレー・ケーキ・ドリンクで店の売り上げの9割以上を占める。

 この田舎には飲食店がここともう一軒あるが、その店の評判は良くない。

 実質独占状態で経営できているのだ。


 更に母さんは童顔で肌がきれいで若く見える。

 たまにメイのお姉さんと間違われるほどだ。

 母さんの人柄や見た目と、店の料理のおいしさで店は繁盛している。


 今はメニューをカレー・ケーキ・ドリンクに特化し、品数を絞った結果、高回転でカレーとケーキを回す高効率経営を実現している。

 店は基本母だけで切り盛りしているので、店が混むと注文してから食事が出てくるまで時間がかかるデメリットもあるが、ここに住む人間はおおらかで、時間をあまり気にしない。


 僕は素早くドリンクを出し、注文を受け付け、キッチンに戻る。

 同じ学校の生徒も来るが、僕がモブだと気づく者は居ない。

 学校では猫背ぼさぼさ髪の伊達メガネで、気を抜いて言葉を発する。


 だが、接客では常に笑顔でお客様の接客をし、スマイルをかかさない。

 伊達メガネは外し、髪をセットし、胸を張り、声ははっきりと発音する。

 決して走らず、急いでいても執事のように落ち着いたまま行動する。

 急に動くとお客様がびっくりしてしまうのだ。


 そしてこのように接する事で、高校の人が来ても僕だとばれない。


 僕は接客が落ち着くと、キッチンに入る。

 ホールに入ると、僕は父から玉ねぎ剣士と呼ばれていた。

 最初は意味が分からなかったけど、ネットで調べると、昔のゲームキャラのようだ。


 僕はキッチンで玉ねぎの皮をむき、業務用のスライサーにセットする。

 これで玉ねぎのみじん切りの出来上がりだ。


 問題はここからだ。

 大きな業務用のフライパンを火にかけ油を引き、なじませる。

 そして、大量の玉ねぎのみじん切りをフライパンに入れる。


 両手でフライパンを煽る。

 そしてへらで焦がさないように、混ぜ、何度もフライパンを煽る。


 そう、僕は飴色玉ねぎを作る工程を一手に引き受けている。

 玉ねぎ剣士なのだ。

 包丁よりフライパンの作業がメインではあるが細かい事はいいのだ。


 母さんは背が低く、力が無い。

 この工程だけは体力が物を言う!


 一心不乱に全身で前後に動きつつ、全身でフライパンを煽る。

 僕はこの作業が好きだ。


 ガチャリ!


 メイとヒマリが入ってきた。

 メイはヒマリに僕をスケッチするお絵描きを見せる為か、タブレットにペンで書きこんでいく。

 昨日はあんなに赤くなっていたメイだが、切り替えが早すぎる!


 いや、この工程に集中しよう。

 一心不乱に鍋を煽る。


 1セット分の飴色玉ねぎが完成した。

 これを僕は繰り返す。

 この工程はカレーの味を決める大事な部分だ。


 昔業務用スーパーで売られている飴色玉ねぎを使ってカレーを作り、うまくいかなかったらしい。

 僕は学校以外の時間を使い、冷蔵庫と冷凍庫に飴色玉ねぎをストックする!

 2セット目を始める前にヒマリを見ると、顔が赤かった。


 僕は、一心不乱にフライパンを煽る……ヒマリとメイが気になる。



「シュウ、メイ、ヒマリちゃんも休んで食事にしましょう」


 母さんは僕の飴玉2セット目が終わると3人をテーブルに案内する。


 カレー・味噌汁・サラダ・ケーキ・ドリンクのセットが運ばれてくる。

 お客様は1テーブルのお母さんグループしかおらず、もう片付けモードに入っていた。


 母さんとメイが食事を運び、母さんが一緒のテーブルに座る。

 そして母さんはヒマリを見て笑いを堪えられなくなって笑い出してしまった。


「ふふふふふふ、ごめんなさい。ふふふふふふふふふ私、変な所で笑っちゃうのよお。ふふふふふふふふ」


 こうなると母さんはしばらく止まらない。


「え?私何かしました?おかしい所あるかな?」


 僕とメイに視線を向けるが、心当たりがない。


「母さんはすぐ笑うから、気にしない方がいいよ」

「そうだよ。お兄ちゃんの言う通りだよ」

「そうね、ふふふふふふふふふふふふふふ」


 母さんが口を押えて笑い続ける。


「なんですか?気になります」

「ん~でも~。年頃の子に言うのも悪いから。それに大したことじゃないのよ。ふふふふふふふふふふ」


「言って欲しいです」

「そお?シュウがフライパンを煽って腰を前後に動いているのを見て、ヒマリちゃんが真っ赤になっているのが可笑しくて、ふふ、そういう想像をしてるのが分かると、ふふふふふふふふふふ」


 母さんがまた爆弾を投げてきた!

 ヒマリが真っ赤になる。


 近くに居るお母さんグループの笑いながらこちらを見てくる。


「た、食べよう。料理が冷めてしまうよ」


 僕の気遣いで母さんはさらに笑いのツボにはまったらしく、笑い続けた。

 ヒマリは真っ赤になりながら無言で食事を摂っていく。

 僕も無言で食事を摂る。

 メイだけが恥ずかしそうに「お母さんもうやめてよ」と言っていたが、母さんは笑い続ける。



 食事が終わるとヒマリの迎えが来る。

 ヒマリの母さんと僕とメイの母さんは仲がいい。


 笑いながら5分ほど談笑をし、母さんが言った。


「もし良かったら食事を食べていかない?」

「そうね、ごちそうになろうかしら」


「早く帰るよ!」


 ヒマリが母さんを強引に押して帰っていく。




 テーブルに3人だけになると、メイが俺におねだりしてくる。


「お兄ちゃん、新しいタブレットが欲しい。今使ってるの、調子が悪くなってきたんだあ」

「駄目よ!お兄ちゃんはいっぱいお手伝いしてるからお金持ちなのよ!メイも接客を手伝いなさい!」


「だって、男の人が来るもん」


 メイは美人で背が小さく、目がクリっとしており童顔だ。

 男から声をかけられやすく、男が怖くなっているのだ。


 それを見ていた違うテーブルのお母さんグループが声をかけてくる。


「メイちゃんは美人で大変ねえ」

「一人で出歩いちゃ駄目よ。危ないわ」


「そうなんですよ~。メイはいつもお兄ちゃんについて来てもらえないと外に出られなくて。本当に心配だわあ」


「それに、お兄ちゃんも学校ではモテるでしょ?」

「ぼ、僕は全然」

「この子は大丈夫ですよ。学校ではいつも伊達メガネを付けて、ワザとぼさぼさの髪で登校していますから」


「お兄ちゃんは賢いのね」

「そう言われると、お兄ちゃんは頭が良さそうに見えるわね。安心して、私達は正体を知っているけど言わないわ」


「あは、あはははははは」


 僕は笑顔でごまかした。

 僕はキッチンに戻り、夜遅くまで一心不乱に玉ねぎ剣士になった。

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