第3話

「お客様、どうなされました?」

「違う」

「え?」

「全然違う」


「何がですか?」

「シュウのキャラが全然違う!」

「あ、あははははは!人は皆役割を持っていますし、その場その場でキャラを使い分けるものではないでしょうか?」


「そ、そうだけど、全然違う」

「あ、はははははは!」


 笑ってごまかす。


「いつもそうすればいいのに……」 


 そう言ってヒマリはきゅうをもふもふしながら僕の仕事を何度も見ていた。

 僕は黙々と、溜まったパンク修理をこなした。


 僕が店を閉めると、ヒマリとメイはきゅうを連れて家の中に入っていった。

 僕はコーヒーを淹れて、リビングで横になる。


 ソファで横になるのが僕の日課だ。

 目をつぶり、呼吸を整える。


 そして目を開けるとそこには双丘があった。

 ヒマリが上から僕を覗き込む。

 流石双丘。


 立派な物をお持ちで。


「そう言うの良くないよ!胸を見られてるの分かるんだよ!」

「ご、ごめん」


 僕は慌ててリビングを出て行こうとする。

 自室に戻る前に僕はメイに声をかけられた。


「そ、そうだ!お兄ちゃんの部屋で遊ぼうよ!」


 そういう事か。

 メイはお絵描きの趣味がある。


 お絵描きと言ってもエチエチな絵だ。

 メイは紙に書かず、タブレットに書く派だけど、もしタブレットに触られたらまずい。

 

 メイは自室にヒマリを入れたくないのだ。

 メイが小動物のように落ち着きが無くなる。

 リスのメイか。


 確かにリスのようだ。


「分かったよ。僕の部屋を使おう」


 その言葉でメイはほっとした顔をした。

 メイは詰めが甘いな。

 あらかじめ証拠は隠しておくべきだ。


 僕はメイとヒマリを部屋に案内するが、僕の部屋の前にビニール袋に入った箱の束が置かれていた。

 コンドームだ!

 汗が噴き出す。


「2人ともどうしたの?すごい汗だよ?」

「な、何でもないんだ」


 僕は速やかにコンドームの箱を回収しようとする。


「ねえ、それ何?」

「ヒマリ、君は男子が苦手だよね?距離が近くないかい?」


 僕は必至で牽制する。


「そ、そんなことないよぉ」


 そう言いつつ、箱を回収し、メイとヒマリを部屋に招き入れる。


「ねえ、何を隠したの?」

「か、隠してはいないよ」

「うっそー。隠したよね?」


「ヒマリ!早く中に入ろうよ!」

「怪しい~」


 ヒマリはメイに後ろから抱き着いてほっぺに指をつんつんした。

 いつもなら美女四天王のスキンシップにドキドキしていただろう。


 でも僕はこのコンドームをどう処理するかに思考のほとんどを使っていた。

 ヒマリが隙をつくように手を伸ばす。


「え?あ、コンドー、む?」


 ヒマリの顔が真っ赤になる。

 そこには20枚入りのコンドームの箱が5箱。

 計100枚のコンドームが入っていた。


 父さん!100枚ってなんだよ!

 買い物ってこれの事!

 部屋の前は駄目だって!

 部屋の前に置くのは駄目だよ!

 しかも今日に限ってヒマリが居るし!


 僕は恥ずかしさで汗が更に吹き出す。


 僕とメイの関係を気づかれるわけにはいかない。

 僕が罪を被る。

 僕は、男を決める。


「こ、これは僕の自慰行為で使うんだ!」


 ヒマリが真っ赤になる。


「え、あ、その」

「でも、内緒で頼むよ。こういう事は人に言いたくないんだ。僕は健全な男子高校生で、性欲は普通にあるんだ!でもこういう事は人に言ったりしないだろ!?」


 きゅうが声の大きくなった僕に反応してメイの影に隠れた。


「あ、あの、ごめんなさい」

「きょ、今日はやっぱり、お兄ちゃんの部屋じゃなく、私の部屋で遊ぼうよ」

「そ、そうだね」


 メイとヒマリは部屋に入り、きゅうもてちてちと足音を立ててついて行く。

 メイの部屋の扉が閉められると、僕は廊下で膝をついた。


 僕は、コンドームを使って自慰行為をするキャラになってしまった。

 恥ずかしすぎる。

 しかもヒマリは僕に気を使って「どう使うの?」とか聞いてこない。

 気を使われているのもそれはそれで恥ずかしい。


 僕は自室にコンドームを運び、眺める。


「くおおおおおおお!」


 僕は一人、うめき声を上げた。


「だ、だめー!!」


 メイの部屋から悲鳴が聞こえた。

 きゅうが何かやったのか!


 僕は急いでメイの部屋に入った。


「メイ!大丈夫か!」


 そこには真っ赤になってタブレットを見つめるヒマリが居た。

 メイのエチエチお絵描きが、ばれた。


「ご、ごごご!ごめんなさい!あ、お、おか、お母さんが迎えに来たから今日は帰るね!」


 そう言ってヒマリは帰っていった。




 家族4人で食事を摂るが、勘のいい母さんがすぐに何かを察知する。


「あらあら、今日はメイもシュウも元気が無いのねえ」

「色々、有ったんだよ」


「くっくっく、部屋の前に置いたコンドームがクラスメートに見つかったんだろ?シュウの声が聞こえてきた。災難だったな」


「その話は、やめておこう」

「はっはっは、悪かったよ!でもまさかあのタイミングでばれるとは思わないだろ。はっはっはっは!」


 父さんも母さんも笑い出す。

 く、今日は災難だった。


 僕の店員モードがバレた。

 僕のコンドームがバレた。

 メイのエチエチお絵描きもバレた。


 今日はきゅうをもふもふしよう。

 明日も学校か。


 僕は憂鬱になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る