第11話 10回の裏

水森恭子はデートしたい日を一日に1回は伝えてきて、デートは1ヶ月に10回を超えるペースであった。憲介はもはや部活感覚で予定通りにデートに出席していった。

憲介はこの依頼を受けている間は仕事を最小限にしていたため、いつでもデートに行けた。

憲介がこんなに毎回毎回その日が暇なのを水森恭子は1度も不審がらなかった。

しかも会ったとしても、

会う→少し世間話→ご飯だべる→解散

とゆうデートの最軽量モデルを繰り返すだけだった。

デートを重ねるほどに、その奇妙さは増していっていた。

付き合って2ヶ月ほど経ったその日もまた、都内のカフェで待ち合わせをした。

毎度の如く憲介が先に着いて待ってると、もう見慣れた姿の女性が歩いてくる。

「見慣れた」とゆうのはその大人っぽさに見慣れたのと、彼女が着ている服を憲介が見慣れてしまったとゆう意味だ。

大袈裟じゃなくて憲介は2パターンくらいしか彼女のコーディネートを見ていない。貧しい生活ゆえだと思うが、それがまた奇妙さをかもし出していた。

デート場所がほぼ街中カフェなのも金銭的問題であろう。憲介が他の場所へと誘ってやれば来てたかもしれないが、憲介は水森恭子とゆう存在を仕事以外の場所で考えていなかったのでやろうと思っても毎回忘れていた。

それに対して、水森恭子を結婚へと導く方法については何度も考えた。水森恭子はそもそもかなり結婚したそうであったが、念には念をと様々な嘘をついてきた。

憲介は広告代理店である程度の収入を得ているとゆうこと。とても結婚欲が強いとゆうこと。初恋の人に似ている。など多種多様だ。


「すみません。また遅かったですね。私。」

これも定型文となった。いつもならこの後、最近のニュースとかの話をして、ご飯を頼んで、解散だ。

しかしこの日は「いつも通り」ではなかった。

「あの、」

水森恭子が何か思い出すように話し始めた。

「私たち、結構デートも重ねてきましたし、会って2ヶ月も経ちます。」

あーなるほどな。と憲介は思った。水森恭子がこの話をするときはいつも言い訳臭かったからだ。水森恭子の中には結婚する定義みたいなのがあって、多分「2ヶ月付き合ってなきゃダメ」とか「デートを何回も重ねなきゃダメ」って思っているのだろうと憲介は思っていた。

「だから、そろそろ。そろそろ結婚しませんか。」

あれだけ焦っていたんだからそろそろ来るだろうと思っていた。でもこれはチャンスだと憲介は考えていた。彼女の嘘を暴くチャンス。

「もちろんいいです。嬉しいです。」

その時水森恭子はプロポーズが受け入れられて嬉しい人みたいな顔をしていた。

憲介は「でも、」と言い、1拍おいてからもう一度こう言った。

「でも、その前に恭子さんの両親に会わせて欲しいです。」

憲介は確信を付くつもりでインコースギリギリに放った。

しかし水森恭子は余裕をもってカットしてきたのだった。

「はい、いずれはそのつもりです。私の両親も喜ぶと思います。でも今は2人とも体調を崩してしまっているので、またにして欲しいです。

じゃあ、逆に憲介さんのご両親に会わせて貰えますか?」

カットしただけかと思ったら、それどころか打球はフェアゾーンに入って来た。

けれどもそこは憲介の守備範囲だった。


「はい、いいですよ。今週中にでも合わせたいです。」

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