20
鬱屈とする梅雨も、そろそろ折り返した頃合い。
僕の人生初のキスを、不意打ちに奪ってからも…
アイツは何ら変わらず接して来た。
毎日のように朝迎えに来ては、一緒に登校し。
昼休みになれば、あの場所で共に昼食をとるのが日常になり。
弁当も多めに作って…。
美味しそうに顔を綻ばせるアイツを見るのが、
僕の密かな楽しみにも…なっていた。
放課後は決まって図書室でまったりし。
あれからというもの…
ここに誰も居ないときは、甘えるように…キスをせがまれるようになってしまったけど。
素直じゃない僕は、
自ら求める事が出来ないから。
求められる分には…
密かに心地良いとさえ思うほどになっていた。
「そろそろ帰るか…。」
今日は買い物があったから。
いつもより早く切り上げ、席を立つ。
何をするでもなく、ただ僕をぼんやり見ていた芝崎も、当たり前のようにくっついてきた。
制服も夏服へと変わり。
夏直前とはいえ、梅雨もまだまだ居残る季節ではあったけれど。
今日はいつもより雨も小降りで、
嫌な湿気も少なく幾分過ごし易くは感じた。
「相合い傘、する~?」
玄関まで来ると、芝崎がアホなことを言い出したから。構わず傘を差して、先を行く。
こんな遣り取りも、
なんだかもう、慣れてしまった。
買い出しをするために、いつもと違って行きつけのスーパーがある通りをふたりで歩く。
これも既に、日常的な光景。
そうして買い物を済ませると、
決まって芝崎は荷物持ちを買って出てくれる。
それはそれで有り難いのだが…
「ほら、先輩そっちも貸して?」
いくら僕が華奢で軟弱でも、女の子じゃないんだから。
「いい…どうせ片手しか使えないだろ。」
一応、好かれているからなのか…
コイツはすぐに僕を甘やかそうとする。
あまりにも大事に扱われるものだから。
ちょっと、困る…。
「ダイジョーブ!!オレ頑丈ッスから~!」
らしくないと思いながらも。
こんな風に優しくされると、つい甘えたくなる。
求められると、欲しくなる。
あのキスから…僕は何処かおかしいのだ。
芝崎には反射的に、冷たい態度を取ってしまうけど。
それでもコイツが離れていかない事に、
安堵する自分がいて…。
芝崎が求める答えには、ならないかもしれないが。
これは…人見知りな僕にとっては、驚くべき進歩。
それでも一歩踏み出せない場所にいるのは。
自分が傷つかない為の、保険…なのだろう。
僕達は普通じゃない。
この関係だって、いつ壊れるかも解らないのだから。
溺れないように、
崖っぷちでしがみつくしかないんだ…。
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