◆グループの崩壊 友情の再確認

 二人してモデルウォークで教室まで戻ってくる。

悠聖ゆうせいまでモデルウォークする必要はあるの?」

李奈りなにだけモデルウォークをさせるのは不自然だろ」

「一人より二人の方が不自然だと思うけど」

「みんなでやれば怖くない!」

「一人でやっても怖くはないよ」

「じゃあやめるか?」

「このままでお願いします」

 まったくさみしがり屋さんめ!

「二人ともどこ行ってたの?」

 教室の扉を開けると美波みなみが近づいてきて不思議そうに訊いてきた。

「もうすぐ検査始まるよ」

「わるいわるい。ちょっと二人で話し込んでた」

「何をそんなに話し込む話題があったの?」

「ごめんねクリちゃん。それは話せないの」

 やんわりと李奈が断る。

 何を話していたかは言えないよな。言ってしまったら秘密がバレてしまうから。

「こうやって私たちは疎遠になっていくのね」

「「?」」

 オレと李奈が同時に首をかしげる。

「グループが崩壊する!」

「崩壊するの?」

「それはただことじゃないな」

「男女入り乱れるグループではグループ内の男女が恋人関係になるとそのグループは自然消滅するの」

「入り乱れるは表現としてどうかと思うよクリちゃん」

 入り乱れるってなんかいやらしいからな。

「大丈夫だよ。消滅なんかしないよ」

 李奈は美波の頭を優しく撫でながらなだめていく。

 まるで聖母のように。

 オレですら撫でられたことはないのに。ちょっとうらやましい。

「グループの集まりより恋人である悠聖を優先したりしない?」

 美波は瞳を潤ませながらそんなことを訊いてくる。

「悠聖を優先しないよ」

 どうでもいいが悠聖を優先というのをやめてほしい。

 なんだかつまらない言葉遊びに聞こえる。

「彼氏としてはショックだがオレもグループがなくなるのは嫌だからな」

「二人が言うなら信じるけど、やっぱり不安」

 不安を解消するためにか美波は李奈をギュッと抱きしめる。

 ところどころうらやましいことをするな。

 女の子特有の距離感というやつかな。

 おとこの娘特有の距離感ではないな。そんな距離感知らないが。


「もうみんな廊下に並んでいるぞ。…… ってなに抱き合ってるんだよ」

 教室の扉を開けて廊下からヌエが入ってくるなり驚いた声を上げる。

「友情の再確認らしい」

 ヌエの疑問に抱き合っている二人ではなく独り身のオレが答える。

「抱き合うことで友情を確認できるのか?」

「あいつらはできるらしいぞ」

 女の子の不思議だよな。

「…… ヌエ。なんで両手を広げているんだ?」

 ヌエに視線をやると両手を広げていつでも抱きつける体制をとっている。

「俺たちも友情を確認しないか?」

「しない」

 それは女の子だから許された行為なんだよ。男同士でやるものじゃないんだよ。

「あっ!おいっ!ちょっと待て!」

 オレの言葉を無視していきなりヌエが抱きついてきた!

 男らしくガッチリとした筋肉質な体に包まれる。

 力は強いはずなのに抱きしめる腕からは優しさが伝わってくる。

 これはきっとヌエの心の優しさが筋肉にまで到達しているのだろう。

 ……まずいな。このままだと変な性癖に目覚めそうだ。

 だが、なんだか振りほどくのも悪い気がしてきてオレはヌエにこの身を預けるのだった。

「ヌエ。友情は確認できたか?」

「ああ、悠聖。俺たちの友情は本物だ」

 耳元で優しく囁いてくれる。

 ヌエってなんだかいいにおいがするな。

 シトラスの香りとは違うさわやかな香り。

 この香りに包まれるのもなんだか悪くない。

 だが、そろそろ離れてもらわないとな。

「確認できたのなら良かった。…… そろそろ離してくれないか?」

「もう少しこのままでいいか?」

「まったく」

 甘えん坊さんめ!

「青春しているところ悪いんだけどぉ~。四人ともそろそろ廊下に整列してくれないかしら」

 視線を横に向けると水鳥みずどり先生が興味深そうに左手を頬に当てながら注意してきた。


「「「「すみませんでした」」」」


 オレとヌエ、李奈と美波はそれぞれ離れて頭を下げたのだった。

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