第128話 別れと同行

 タルタロスで数日過ごして体を休めた。ウルたちの方は色々と何かあったようだが、追及する元気も無かったし、追及したところで言ってくれることは無いと思い、何も聞くことはしなかった。

 数日の間、なぜかみんなのスキンシっプが異様に増えていたが、特に凄かったのはアリアだ。片時も俺と離れようとしない。今でも俺の腕にくっついてきていると、何が何でも離れたくないようだ。食事や休憩、寝るときはもちろん、風呂にまでついてくる。

 俺は朴念仁という訳でもないし、さすがに裸の女性と一緒にいるのは恥ずかしすぎたんだが、彼女に戦闘力で敵うわけもなく、強制的に混浴することになった。

 混浴を知ったニーアとクロノスはアリアと乱闘騒ぎになり、ウルやメリナたちは自分も入ると騒がしかった。

 それなりに休んで体力は全快したが、色々と大変な数日だった。



 その後、俺たちは帰路につくことになった。リナーテ、メリナ、メジーマはウェスト支部所属なので、別々の道で帰ることになった。


「うああああああん。カイツと離れるの嫌だあああああ!」


 リナーテは泣き叫びながら俺にしがみついていた。


「いや。お前ウェスト支部所属だし、俺たちと一緒に帰るわけにもいかないだろ」

「だったら私もノース支部に行くううう! カイツとこれ以上遠距離になるのやだあああああ!」


 なぜか知らないが、彼女がやたらと俺と離れるのを嫌がってる。


「やけにくっつくけど、なにか理由でもあるのか?」

「だってえ。これ以上カイツと離れたらやばいもん。カイツは普通の人とは価値観違うし、女引掛けまくるし、このままじゃまずいと思って」

「どういう意味だ。別に女引掛けまくった覚えはないし、価値観はそんなに違わないと思うが」

「うー、やっぱりカイツは馬鹿でで天然だ〜。そんなんだからアリアに裏切られたりネメシスに刺されたりするんだよー」


 今俺を馬鹿にしたよな。というかこいつ、ネメシス関連とかのかなりデリケートな部分にも普通にズカズカ入り込んできてる。こういうところは騎士団に入っても全く変わらないようだ。こいつが誰かに刺されそうな気がするのは気のせいだろうか。


「落ち着けリナーテ。気持ちは分からなくもないが、そういうのはまた後だ。今はやらなきゃいけないこと盛りだくさんだからな」


 そう言ってメリナがリナーテを引き剥がす。


「メリナの言う通りですよ。あなたがノース支部に転勤するのは自由ですが、それには書類やら諸々の手続きが必要です」

「うううう。すぐに書類終わらせてノース支部に転勤してやるうう。カイツー! 首洗って待ってなさいよ!」


 そんな捨て台詞を残し、メリナはリナーテたちに連れられ、馬車にぶちこまれて行ってしまった。


「ほなら、わっちも帰らせてもらうわ」

「そうか。ありがとな。お前のおかげで色々助かったよ」

「わっちもあんたのおかげで色々助かったわ。短い間やったけど、一緒に戦えたりして楽しかったで。今度わっちのいる所にも遊びに来てな~」

「お前のいる所って、どこにいるんだ?」

「わっちはヘルヘイムのナイトキャッスルにおるでえ」

「な!? お前ヘルヘイム出身だったのか!? じゃあ、橋姫と知り合いだったりするのか?」

「橋姫? いや、そんな名前の子は知らんなあ」

「てことは、あいつのいるヘルヘイムとは別の世界なのか」


 にしても凄いな。まさか彼女がヘルヘイム出身だとは。


「これは驚きね。まさか別の世界。それもヘルヘイムに住んでるとは思わなかったわ」

「あははははは! あんな場所に住んでるって凄いねえ。君の世界にも行ってみたいものだ」

 暗闇神社ってところにゲートがあるから、いつでも遊びに来てええで。あんたらとまた会いたいからな。待ってるで〜」


 彼女はレベル1の悪魔を作り出し、その上に乗ってフワフワと飛びながら帰っていった。


「さてと。俺たちも帰るか」

「ええ。支部へ帰るのも久しぶりに感じるわ」

「いやー。ここも色々あって楽しかった! また来たいものだね」

「そういう風に考えられるのは貴様だけだろうな。我は2度とここへは来たくない」

「ふう。ようやく帰れますか」


 騎士団のみんなが次々と馬車に乗っていって……ちょっと待とうかー。


「ニーア。なにさらっと私たちの馬車に乗ろうとしてるの?」


 アリアが殺気を込めてニーアにそう質問する。ここ最近の彼女はいつもこうだ。他の女への敵意や殺意がえげつない。俺に近づいてくる女全員に殺気を飛ばしている。その都度注意はしてるが、直る気配は一向にない。どうしてこうなったんだ。


「馬車はまだ空きがあるから問題ないと思うが」

「そういう問題じゃない。なんで俺たちに同行しようとしてるんだ」

「私はこれから兄様たちと共に戦いたいと思ってな。そのために、まずは騎士団の支部に行こうと思ったんだが」

「お前が行ったら襲撃になるんだよ」


 事情があったとはいえ、彼女はヴァルキュリア家の1人として活動していた。そんな奴がいきなり騎士団支部に来たらみんな混乱するだろうし、大事になるのは目に見えてる。


「心配するな。多分だが、あっちは受け入れざるを得ないさ」


 彼女はそう言って横を見る。同じ方を向いたが、何かがいるようには見えないし、その気配も無い。何を見ているのだろうか。


「へえ、私が縛られてる間にあんなの来てたんだ。これは予想外かも」


 この言い方からして、アリアもニーアと同じものが見えてるのだろうか。


「カイツ。多分大丈夫だと思うよ。あいつらは受け入れてくれる。もしだめだったら私が追い出す」

「……そうか。分かった」


 追い出すことはともかく、アリアも言ってるのなら信じるとしよう。多分アリアとニーアは、俺には見えない何かを見て判断しているんだ。


「じゃあ帰るか。行くぞニーア」

「ああ。馬車に乗るときは、私が膝の上に乗っても良いか?」

「良い訳ないでしょ。調子に乗んなクソ女。カイツの膝の上は私の特等席だ」

「言ってくれるな。ベタベタくっつくしか能のない畜生風情が」

「喧嘩すんなら置いてくぞ!」


 なんでこの2人はここまで仲が悪いんだ。俺が知らない間に何があってこうなるんだよ。というかアリアの口が悪すぎる。俺と戦ったときに元の性格に戻ったと思ったが、どうやらまだ凶暴な性格のままのようだ。どうすればこの性格が直るんだろう。

「カイツー。何してるのー。早く乗ってー」

 馬車の方を見ると、既に全員乗り込んでいて、後は御者が馬を走らせれば出発できる状態になっていた。


「悪いな。すぐ行く」 


 俺がニーア、アリアと一緒に馬車に乗り込み、座席に座った。すると、アリアやニーアが来るよりも先にラルカが膝の上に乗ってきた。その直後、周りの空気が5℃くらい下がった。


「おいクソチビ。お前は誰の膝の上に乗ってるの?」

「右腕の膝の上だ。我は今回とても頑張ったからな。これくらいの褒美はあってもいいと思うが」

「はははは。調子に乗んなあ!」


 アリアが攻撃しようとした瞬間。


「やめろアリア!」

「カイツ……でも!」

「殺意や敵意を持つのは……千歩譲って許す。だが攻撃するのだけはやめろ。それをしたら、俺はお前を絶対に許さないし、殺す気で戦う。仲間に手を出す奴の末路は碌なものじゃないからな。お前は俺と戦いたいのか? その爪を納めろ」

「……わかった」


 本当にわかってくれたかは分からないが、ひとまず落ち着くことはできた。このままだと危なそうだし、何とかしないとな。といっても、どうすれば解決するか全く分からないんだが。


「とりあえず行くわよ。しっかり捕まって。それとカイツ、後で私も膝の上に乗せてよ。私も頑張ったんだから」

「なら私も乗ろう。兄様や騎士団のために頑張ったんだから、私にも乗る権利がある」

「なら私にもありますね。カーリーと戦ったりカムペーを倒したりしたの私ですし。乗る権利はあります」

「なら私もある! 私はケルーナやカイツと戦って筋肉男とか殺したもん! 私にも乗る権利はある!」

「……とりあえず、順番に乗せてやるから待っててくれ」


 あとアリア。お前に関しては色々突っ込みたいところがあるが……まあいいか。彼女があんな風になったのは俺の責任だし、膝に乗せるぐらいのことはするべきだろう。


 こうして、たまに洒落にならないレベルで騒いだりしながら、俺たちはノース支部へと進んでいった。






 馬車が通り過ぎて数十分経った後、森の中から2人の女性が現れた。1人は短い茶髪に青い瞳のミルナ・レイート。もう1人は青い髪の女性。その髪は海を思わせるような色であり、貝殻水着と大胆な格好をしている。


「ひえええ。あのニーアって奴怖すぎにゃん。こっちが必死こいて気配消したのに、なんで簡単に分かるにゃんか」

「ミカエルの器も面白いが、あれも面白いな。偽物の天使をあそこまで強化した人間は見たことがない」

「あんなのがノース支部に入るにゃんか。いやにゃんね〜、計画が進めづらくなっちゃうにゃん」

「かもな。それよりお前、吸い取った血を寄越せ。私はお腹が空いた」

「はいはーい。ちょっと待つにゃんよ」


 そう言ってミルナは手のひらよりひと周り大きい瓶を取り出した。その中には血がたっぷりと入っていた。ミルナが投入した試作品の吸い取った血の8割はその瓶の中に入れられていた。


「……はあ。ずいぶんと少ないな。私の肉片や血を分けてやってこの程度の量か」

「カイツが強すぎるのが悪いにゃんよ。まさか第3解放があそこまで強いとは思わなかったにゃん」

「まあいい。せっかくのミカエルの器の血液。ありがたくもらうとしよう」


 彼女が瓶の蓋を開けて口を上に開けると、血液が勝手に動き始め、上空に上がって彼女の口の中へと落下していく。全て飲み切ると、彼女は口に付いた分を手で拭き取った。彼女の顔は赤くなっており、気分はかなり高揚しているようで目がうっとりしている。


「味はどうにゃん?」

「最高に美味だ。これほどの血を持つものがいるとは思わなかったよ。さすがはミカエルに選ばれた男だ。もっと欲しいな。今から奴を襲うのはだめなのか?」

「それはだめにゃ。今カイツを襲ってもこっちの被害がでかすぎるし、あんたのことがミカエルにバレるにゃ。あいつを襲うのはもう少し舞台を整えてからにゃ」

「そうか。なら期待して待つことにしておこう。あの男の血を啜る日。ふふふふふ、想像するだけでよだれが」


 彼女は口からよだれを滝のように流しており、ミルナはそれを見てドン引きしていた。


「たく。この姿見ると変態にしか見えないにゃんね。とても強そうに見えないにゃん」

「ああ。今からでも襲いたいなあ。あの血を飲みたいなあ」

「勝手に行動するのはやめてくれにゃんよ。あんたはロキ支部長の切り札にゃんから。あんたがいなくなると計画は破綻するにゃ」

「分かってる。契約が続く限りは、私はお前たちに従ってやるさ。こっちが勝手に契約を破るわけにはいかないからな。では、私はそろそろ失礼するよ。器の血をより美味しくするための料理法を考えたいからね」


 そう言うと、彼女は3対6枚の白い天使のような翼を生やし、どこかに飛んでいってしまった。


「ほんとに頼むにゃんよ。四大天使が1体、ガブリエル」

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