第119話 ヴァルキュリア家の目的
ネメイツを拾ってから3年経った。彼女は更に大きくなっており、俺の方も身長は高くなってるはずなのに、彼女は肩ぐらいまで身長が高くなっており、成長速度が凄まじかった。
「パパー! 今日も一緒に寝よーよー!」
そう言いながら、彼女が俺に抱きついてきた。そこにニーアが割り込んできた。
1年ほど前から、俺と誰かが2人っきりで寝る習慣が彼女たちの間で決まり、順番のように彼女たちと一緒に寝ることになっていた。寝ること自体は構わないのだが、ニーアと寝る日はネメシスが、ネメシスと寝る日はニーアが、ネメイツと寝る日は残された2人が睨みつけて来るので、少しばかり胃が痛くなるのが悩みだ。特にネメシスの方は。
「あの……ネメシス。なんでネメイツを睨みつけてるんだ?」
「別に。大した理由は無いわ」
どう考えても大した理由があると考えるのが普通だ。けど、俺はあえてそこにはは触れなかった。下手に刺激して不機嫌にさせるのも良くないと思ったからだ。
「そういえば、ネメイツは最近勉強頑張ってるみたいじゃないか」
「うん。だって、将来パパのお嫁さんになるためだから! 頭良くないと、パパに迷惑かけちゃうもん」
「そっか。それは嬉しいな」
俺が彼女の頭を撫でると、彼女は幸せそうに笑う。それと同時に2名からの視線が槍のように突き刺さってきたが、あえて触れないようにした。
「あーあ。焼けちゃうわねほんと」
「……同感だ」
2名からの視線から、怨念でも込めたかのようなオーラを感じた。これ以上放置しておくと間違いなくまずくなるので。
「2人とも。こっちに来てくれ」
2人をこっちに呼び、俺は彼女たちの頭を撫でる。
「ひゃう! カイツ」
「あらあら。これは良いわねえ。ニーアと一緒っていうのが気に食わないけど」
「一応言っておくけど、俺はお前らのことも大切に思ってるよ」
「ふーん。そういう割には、最近ネメイツに構うこと多い気がするけど?」
「別にそんなつもりはないけどな。みんなを大事にするよう心掛けてるよ」
「うわー。ニーア聞いた? 今の発言」
「浮気者が言う言葉そのものだな。酷い男だ」
本心から言ってるのだが、なぜかボコボコにされている。しかも顔がにやけてて言ってることと表情が一致してないし。
「むう。パパってヒモみたい。いつか女泣かして喜びそう」
「お前はお前で、俺にどんな偏見持ってんだよ」
「大丈夫よカイツ。あなたがどれだけクズでも、私はあなたをちゃーんと支えてあげるわ。あなたを誘惑する邪魔者も倒してね」
「姉さまにしては、ずいぶん恐ろしいことを言うな。もし私がカイツを誘惑しようとしたら、私は倒されてしまうのかな?」
「……さあ。どうかしらね。そのときになってみないとわからないわ〜」
彼女はおどけるように笑った。だがその時の笑みは、なぜか仮面のような無機質さを感じ、少し不気味だった。
3年で変わったのはネメシスたちとの関係だけじゃない。実験内容も大きく変化していた。
「あぐ……ぐおおお……うぐっ!」
今、俺の背中からは黒くて歪な翼が生えており、それを何人もの研究者らしき奴らが観察していた。その中には眼鏡をかけたスーツ男のプロメテウス、ピンク色の髪に白衣を着た女、スティクスもいた。スティクスや研究者たちはガラスで隔てた装置がごろごろしてる部屋の中にいたが、プロメテウスは俺と同じ実験室にいた。
「ほえー。これは凄いぽよ」
「素晴らしいですね。抗体や強化措置無しでここまでの成果を出せるとは」
痛みと熱で頭がどうにかなりそうだった。おそらく、このときの体内の温度は40度を超えてたと思う。それに加え、体中をナイフで抉られていくような痛みが常に襲い続ける。
正直、死んだほうがマシと思えるくらいには辛かった。
「これなら、次の段階に進めても問題なさそうぽよ。次はどの薬を投与すればいいぽよ?」
「そうですねえ……おっと」
「うがあああああ!」
俺は痛みになんとか耐えながら、奴らが油断してる隙を突き、翼でプロメテウスに攻撃する。しかし、彼の足元から巨大な植物の蔓が生え、攻撃はあっさりと防がれてしまった。
「全く。ここまで反抗的な態度を取れるのも凄いですね。ある意味尊敬しますよ。ですが、この程度の攻撃は私には届きません」
「くそ……」
「カイツ。あなたにはこれからも頑張ってもらう必要があります。ですので、あまり反抗的な態度は控えてください。せっかくの優秀な素体ですから、うっかり殺したくないんですよ」
「黙れ……! お前らは……絶対に殺す。ネメシスたちを……守るためにも!」
「ふん。くだらない理由ですねえ。こういうところが無くなると嬉しいんですが、まあその感情のおかげでここまで成長していることを考えると、なんとも複雑ですね」
「そうぽよね。じゃあ、予定通りの薬をお願いするぽよ」
「わかりました」
プロメテウスは再び植物を操り、今度は俺の手足を拘束してきた。
「ぐうっ!? このおおおお!」
翼で破壊しようと試みたが。
「させませんよ」
彼は足元から細い蔓を出し、それで俺の心臓を貫いた。
「がっ!? く……このお」
「また暴れられても困りますからね。さてさて。あなたがどこまで耐えられるか楽しみですよ」
彼は懐から赤い液体の入った注射器を取り出し、それを俺のうなじに注射した。
「あぎっ……いびげああああああ!?」
その瞬間、俺の体がさらに熱くなった。まるで炎の中に入れられたように、俺の体中が焼けていく。
「あがああ!! はぁ……はぁ……。ぐっ……くそ!」
「ふむ。予想通り、かなり苦しんでるようですねえ」
「おお。想定してたよりダメージは少ないぽよね。おかげでいろんなデータが取れて助かるぽよ」
「ぎswぇ……qrゔeぎ……がろkyqれあ!」
「ほお。これは素晴らしいですね。まさかアースガルズの言語を話すとは。この男のデータを取れば、四大天使の力を手に入れるための大幅な躍進となる」
「rkねぁg……四大……天使?」
「ああ。そういえばあなたは知らなかったですね。良い機会ですから教えてあげますよ。我らヴァルキュリア家の目的は四大天使の力を作り、人類を進化させることです。
四大天使はアースガルズの守護神と呼ばれており、噂では今の人類や文明を作った創世神とも呼ばれています。彼らの力は凄まじく、全員が世界を簡単に終わらせる力をもっています。
その中でもミカエルは化け物の中の化け物。彼女は世界を8回壊し、8回作り変えるほどの力があると言われています。私達はその力を人工的に作り、人類を進化させたいんですよ」
「なんの……ために……gふぇw……あgkうぇqぐげあ……そんなことを」
「ふふふ。ちょくちょくアースガルズの言葉が混ざってきてますね。なんのために、ですか。私の目的は人類を強くし、人間中心の世界を作ることですね。ボスの目的は違うようですが、まあそんなことはどうでも良いです」
「人間中心の世界? そんなことのために、ネメシスやニーア、ネメイツ達を犠牲にするのか!」
「ふふふ。青臭くて面白いですねえ。しかし、世の中はそんな青臭いことでは回らないんですよ。だから、人類を進化させ、どんな魔物にも殺されることのない強い人々を作らないといけないんですよ。
それに、弱者を間引いて強き者を残すのは普通のことなんですよ。これはどこの世界でも当たり前にやってることです。人間とて例外ではない。誰もが理想だの大義だのほざき、弱者を間引いてるんですよ。子供のあなたには分からないでしょうがね」
「だ……い……す」
「? なんて言いましたか?」
「だとしても…お前らを認めるわけには行かない。ネメシスたちを犠牲にする世の中なんざ、滅んだ方がマシだ! だから、そのふざけた理想をぶっ壊す!」
「そんなことをすれば、あなたも私たちと同類ですよ? 理想のために弱者を間引く。あなたが毛嫌いする者たちと」
「だとしても、てめえらを殺す! ネメシスたちを守るためなら、なんだってしてやるよ!」
「ははは。あははははははは! 最高に愉快で矛盾してて面白いですねえ。ははははははは! ほんと、君は退屈させない。あなたが私たちを殺す日を楽しみにしてますよ!」
「目ん玉開いて待ってろ! カス眼鏡!」
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