第81話 お茶会に向けて
お茶会メンバーに選抜された翌日。ラルカとダレスはウルの礼儀作法レッスンを受けていた。俺はレッスンを受ける必要もなく、任務も無いので、クロノスと戦っていた。
「はあああああああ!!」
俺は一気に距離を詰め、2本の刀でクロノスに斬りかかっていく。だが、彼女はその攻撃を全て紙一重で躱していき、当てることが出来なかった。
「ふむ。動きは悪くないですね。第1解放でここまでのスピード。カイツ様はますます強くなっていますね。かっこいいです」
彼女は頬を染め、うっとりとした顔でそう言うが、今の俺にとっては煽りにしか感じられない。攻撃は全く当てられないし、こいつが話す余裕があるくらいには、俺の攻撃は避けるのが簡単だということなのだから。
「うおおおおお!」
六聖天の力を腕に集中させ、さらに剣戟の速度を上げていくが、彼女にはかすりもしなかった。
「なるほど。素晴らしい動きです。しかし」
彼女は俺の刀を素手で掴んで受けとめた。
「まだまだ鍛錬が必要ですね」
そのまま遠くの方へとぶん投げられ、頭から墜落した。
「いってええ……はあ。まだまだダメか」
「いえいえ。ほんの数日でそこまで強くなってるのは素晴らしいですよ。流石はカイツ様。さすカイです」
「この実力だと、あのイシスって奴とどれくらい戦える?」
「うーん。持って20秒ってところでしょうか。あの変てこ仮面はめちゃんこ強いですからねえ」
20秒。話にもならない。もっと強くならないと。
「カイツ様は十分強くなっています。しかし、1日で強くなるのは限度があります。焦りは厳禁ですよ」
「焦るさ。アリアのことに加えて、ワルキューレのお茶会もあるからな」
「ワルキューレのお茶会ですか。そのワルキューレ家ってのは何なのですか?」
「人体実験大好きなヴァルキュリア家の親戚ってことは知ってる。だが、それ以上のことは何も」
「ふむ。にしても、カイツ様はどうしてヴァルキュリア家とやらのことをそんなに知ってるのですか? 昔に関わりがあったとかですか?」
「……ま、そんな所だ」
奴らのせいで俺の人生は滅茶苦茶にされた。大切なものも奪われ、何もかも失って。しかも、奴らはまだ人体実験を続けている。アルフヘイムで妖精族を実験台にしていたし、他にも何かしらのふざけた実験をしてるのだろう。だからこそ、俺はあの外道一族共を殺さないといけない。でないと死んでも死にきれない。
「ひとまず休憩にしましょう。もう6時間はぶっ続けでやってますからね」
「待ってくれ。俺はまだ戦える!」
「いーえ。カイツ様の動きが少しだけ鈍くなっています。これ以上の戦いは非効率です。せっかくですし、デートしましょー♪」
こうして俺は、彼女と一緒に町中を歩くことになった。彼女は嬉しそうに腕を組んでおり、うきうきとした気分で町を歩いている。
「ふふふ。カイツ様とのデートは楽しいですねえ。いつもの景色も違って見えて面白いです」
「そうか」
彼女の態度はまだ慣れないな。ここまで直接的に感情をぶつけられることは……まあなくはないが、彼女の場合はなんでここまで好意をぶつけてるのかもよく分からないし。まあ、ウルもなんで俺に好意をぶつけるのかはあんまり分かってないんだが。
「ふふ。私から好意をぶつけられるのはそんなに慣れませんか?」
彼女は面白そうに俺の方を覗き、さらに腕を密着させて来る。
「まあな。ウルの方はギリギリ分からなくもないが、お前に関しては本当に分からないからな。最初はそこまで好意を持ってたわけでもないだろうに、どういう心の変化があった?」
「カイツ様が私よりもはるかに高い次元に着く人だと分かったからですよ。カイツ様の魂は強い色を持っている。そこら辺のゴミとは比較にならないほどに強い輝きと色を持つ魂。私はそれに惚れたんです」
言ってることがよく分からない。だが魂が見える彼女は、俺とは違う世界が見えているのだろう。だからこそ、こんなよく分からないことを言うのかもしれない。
「あ、カイツ様。あそこの喫茶店に行きましょー。私、お腹がすきました」
「そうだな。もう12時半だし、昼にするか」
俺は彼女が指さした喫茶店へと行った。そこはアンティーク調のテーブルや椅子、シャンデリアが並べられており、木の床や柱が良い雰囲気を出している。席に座った後、彼女はレッドサンドイッチとマウンテンパフェを頼み、俺は赤牛肉のファイヤーステーキを頼んだ。しばらくすると、赤い卵サラダが挟まれたサンドイッチと塔のように高いパフェ。俺の元に置かれたのは小さいコンロの上に乗った大きな皿。その上に皿と同じ蔵に大きな肉と青豆が10粒ほど置いてある。
「はいカイツ様。あーん」
彼女はパフェをスプーンで一口救い、俺に差し出す。それを食べると、ほんのりした甘さとイチゴソースの甘酸っぱさが口の中を満たす。
「このパフェ美味しいな。イチゴソースが良い味を出してるし、甘さもそこまでしつこくないから良いものだ」
「ふふ。こういう風にあーんさせるのも良いものですねえ」
彼女はうっとりした表情でスプーンを見つめ、パフェをまたひとくち掬って自分の口の中に入れる。
「うん。カイツ様の唾液が混ざってとっても美味しいですねえ。これだけで濡れちゃいそうです」
「気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ」
俺が彼女の言葉に呆れながらステーキを食べる。肉が柔らかくて美味しいし、脂もそこまできつくなく、さっぱりした感じもある。それなのに濃厚な肉の味もしっかりあるのだから不思議なものだ。
「カイツ様。そのお肉も食べてみたいです」
「良いぞ。ほれ」
俺はフォークに1口サイズの肉を刺し、彼女に差し出す。彼女は嬉しそうにそれを食べ、ゆったり味わうように口の中で動かしてるようだ。
「ん~♪ このお肉も良いですねえ。カイツ様との間接キスも最高ですし。ふふふふ」
ずいぶんとご機嫌だな。そう思いながら肉を食べ、料理の味に感心していると、クロノスが質問してきた。
「カイツ様。今の貴方が強くなろうとしてるのは、けも……じゃなくてアリアを取り戻すためですよね?」
「それだけでもないが、まあそうだな。あいつを取り戻すためには、今の俺は弱すぎる。だから強くならないといけないんだ」
「なるほど。しかし、アリアがどうしても戻りたくないって言った時はどうするのですか? あれが裏切った理由。納得は行きませんが……まあギリギリ理解は出来ます。いくら鈍いカイツ様もなんとなくは察しがついてるでしょう。あれをどうやっても説得できず、取り戻すことが出来ず、ウルとかを殺そうとしたときはどうするのですか?」
「……そんときは、俺も一緒に離反してやるさ。仲間を殺させないためにも。あいつにそんなことをさせないためにも」
「良いんですか? ウルやダレスが泣いちゃいそうですけど」
「良いわけないだろ。だが、どうやってもあいつを取り戻すことが出来ないなら、せめて一緒にいてやるぐらいのことはしねえと。あいつを1人ぼっちにするのは嫌だしな。あいつを変えたのは俺だ。なら、その責任ぐらいは俺が取らないと」
俺がそう言うと、彼女はおかしそうに……というよりは嬉しそうにクスクスと笑い始めた。
「ふふふふ。やはりカイツ様は素晴らしいですね。かっこよくて優しくて最強です。そんなカイツ様なら、きっとあの女も取り戻せます。私が保証しましょう!」
「ありがとう。お前にそう言ってもらえると、気が楽になるよ」
「もしもの時は私にも手伝わせてください。カイツ様のためなら、たとえ火の中水の中。アリアを取り戻す手伝いもばっちりしちゃいますし、カイツ様の真の目的を果たすためのお供にもいきます!」
「そう言ってくれると心強いよ。もしもの時は頼りにさせてもらう」
「はい! うふふふふ。カイツ様のお役に立てる。これほど嬉しいことはありません」
彼女は幸せそうな顔をしてそう言った。アリアは必ず取り戻す。そしてイシス。あのピエロ仮面も必ず叩き潰す。奴はヴァルキュリア家に繋がる何らかの手掛かりになるはずだ。次に会った時は、奴もアリアもぶっ倒せるくらいには強くならないと。
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