第80話 お茶会メンバー選出 新しい仲間
シャワーを浴びた後、俺とダレス、ウルは支部長室へと向かった。扉を開けてはいると、ロキ支部長はいつものように机の上に足を乗せている。そしてもう1人、見慣れない騎士団員がいた。背丈は小さく、俺の肩よりも小さい。今の身長は180近くだから、大体140ほどだろうか。頭には大きな黒い角が生えている。髪の色は薄紫。顔は何というか、生意気そうな顔であり、クソガキという表現が似合いそうだ。
襟や袖口が金で装飾された黒のコートを着ているが、明らかにそのサイズが大きい。手が袖で完全に隠れてるし、コートがワンピースのようになっている。裾にはいくつか大きな切れ目が入っていて動きやすそうになっている。
「来たか。待っていたよ」
「支部長。そこにいる人は?」
「ああ。そういえばカイツはまだ知らなかったか。じゃ、自己紹介してくれ」
「了解だ。我はラルカ・インフィニティ! ヴァルハラ騎士団ノース支部所属の魔術師だ! ひれ伏すが良い!」
本当、クソガキという言葉がこれほど似合う奴もいなさそうだな。
「貴様のことはよく知ってるぞ。この女の楽園に1人放り込まれた哀れな男だとな。知らないことがあれば何でも聞くが良い。崇高なる我が矮小なる貴様に懇切丁寧に教えてやろう」
全体的に偉そうで人を見下したような態度。だが背丈が小さいせいか、そこまで苛つかないな。むしろ、子供がなにかに成り切ってるようで微笑ましさを感じるような感覚になる。
「そうか。ならこれからよろしく頼む。崇高なるラルカ様に、色々教えてもらいます」
俺がそう言ってお辞儀すると、彼女は一瞬だけ驚いたような顔をしたあと、再び偉そうな顔に戻る。
「ふふふ。矮小なる者にしては礼儀を心得てるようじゃないか。我が褒めてつかわす」
「ありがたき幸せです」
「ふふふ。我は今日、すこぶる気分が良いぞ。ようやく我の素晴らしさを理解した者が現れたのだからな。お前は我の右腕として扱ってやろう」
彼女はドヤ顔して嬉しそうにしている。それを面白いと思いながら見てると、ウルが小声で話しかけてきた。
「驚いたわね。あの生意気娘に礼儀正しい対応するとは思わなかったわ」
「まあ生意気ではあるが、身長のせいか、そこまで苛つかなかったんだよな。むしろ面白いというか微笑ましいというか」
「そんな評価をだす人初めてだわ。殆どの人はムカついて暴言や暴力がセットになるというのに」
「そうなのか。ちなみに、ダレスとウルはどんな行動を?」
「私は無視したわ。そうしたらめちゃくちゃ落ち込んでたけど」
「私は戦いを挑んでボコボコに殴った。偉そうな態度だから強いかと思ったら、そこまで強くなかったからびっくりしたよ。20発くらい顔を殴ったら、急に泣き出したからびっくりした」
「あの子、メンタルクソ雑魚のくせになぜか偉そうにして、その度に痛い目見るのよね。2ヶ月くらい前も、クロノスに偉そうなこと言ってボコボコにされてたし」
「あー。あれ。確か、四肢の骨めちゃくちゃにされてたんだっけ? あれは私でもドン引きするくらいにやばかったなあ。びっくりしたよ」
「四肢の骨をめちゃくちゃにって。自業自得感も否めないが、あいつも大変だな。それより、あの角は何なんだ?」
「あれは彼女のアクセサリーよ。カチューシャってやつね。あれを着けてるとビッグになった気になるらしいわ。実際にはなんにも変わってないのだけど」
想像以上に面白い理由に俺は笑いそうになったが、それをかろうじて我慢する。やはり子供っぽくて可愛らしいな。見守ってやりたくなる。
「おい。何をこそこそ話している。いくら我が崇高なる存在だからって、ひそひそと話すのは感心せんぞ」
「彼女たちにも色々あるんだろ。あまり詮索してやるな。さて。自己紹介も済んだことだし、本題に入ろう。君たちにはワルキューレ家が開催するお茶会に参加してもらう」
ワルキューレ家。ヴァルキュリア家の親戚だったはずだ。なんでそんな奴らが俺たちをお茶会に招待したんだ。
「ほお。お茶会か。我のような気高き者に相応しい催しではないか」
「貴方に相応しいかはともかく。支部長。質問があるわ。そのワルキューレ家ってなにかしら? 後、なんで私達がお茶会メンバーに選出されたの?」
「ワルキューレ家というのは私もよくわからないが、そこそこ高い地位にいる貴族たちらしい。選出理由は、君たちが相応しいと思ったからだよ。ワルキューレ家は実力と気品のある奴らが大好きだからね。君たちが最も最適だと判断した」
ワルキューレ家ってそんな奴らでは無かったはずだが。俺がいない間になにか変わったのだろうか。まあ、お茶会なんて開催してる時点で色々変わってるんだろうが。
「お茶会の開催日は2週間後。それまでに礼儀作法とかを学んで準備を済ませておけよ。無礼を働けば、騎士団のイメージ低下に繋がるだろうからな」
支部長の伝達が終わった後、俺たち4人は談話室に集まった。
「さて。お茶会の礼儀作法を学んでおけと言われたけど、この中で作法を知ってる人ってどれくらいいるのかしら?」
そう言われて手を挙げたのは、俺とウルの2人だった。残りの2人は。
「お茶会に作法ってあるの? お茶飲んで菓子食うだけなのに?」
「崇高なる我には作法などいらぬ。適当にやっても皆がその崇高さに感動し、作法のことなどどうでもいいと思うだろう」
「……とりあえず、貴方たち2人にはみっちり教えないといけないってことが分かったわ。というかカイツは作法知ってるのね」
「まあな。昔嫌というほど叩き込まれたし」
「せっかくだし、どれくらいのものか見せてくれないかしら? こいつらに見せるのにもちょうどいいし」
「了解」
適当なカップとティーポットを用意し、ポットにお茶を入れてお茶会の流れを1通りこなした。ダレスとラルカは何が何だか分からないと言った感じだったが、ウルは感嘆しており、尊敬のような眼差しで見ていた。
「素晴らしいわカイツ! 貴方は天才の中の天才よ! 私、ますます貴方が好きになってしまったわ」
「そうかい。そりゃどうも」
「やっぱりカイツは他の男とは一味違うわねえ。礼儀作法も完璧で強くてかっこいい。非の打ちどころがない最強だわ。私、今すぐ貴方と交わりたいわあ」
彼女は腰をふりふりしながらこっちに近づいてくるが、俺は彼女の頭を抑えてそれを阻止する。
「やること終わったら考えてやるから、それまで我慢しろ」
「ぶうう。カイツのいけずう。それで。ダレスとラルカは、礼儀作法がどういうものか分かったかしら?」
「いや全く。普通にお茶するのとなんの違いがあるのか分からなかった」
「やはりこの程度の作法は、崇高なる我にはいらぬな。我はありのままで行けばいいということが改めて理解できた」
「……あ、貴方たち。カイツのあの素晴らしすぎる作法を見て、何も学ばなかったの?」
「いやー。どこからが作法なのかも分からなかったし、退屈だったからか、途中からぼーっとしてたんだよねえ」
「ふん。崇高なる我が矮小なるあやつから何を学ぶというのだ。我があの男から学ぶものなど何もない」
2人がそう言うと、ぶちっと何かが切れるような音がした。これ、確実にウルがキレてるな。
「この馬鹿女達ああああああ! 貴方たち2人はこれから徹夜でみっっっっちり指導してあげるわ!」
「ふざけるな。そんなの受ける気はないぞ。我は夜10時までには必ず寝ると決めてるのだ。徹夜などしてたまるか」
「ガキみたいなこと言ってんじゃないわよ! あんたの睡眠より礼儀作法身に着ける方が大事なのよ。今日は殺す気で指導するから覚悟しなさい!」
「おい! 引っ張るな。私はちゃんと付き合うよ。徹夜で指導バトルってのも面白そうだからね」
「嫌だ! 嫌だあああああ! 我は徹夜なんて嫌だあああああ!」
正に阿鼻叫喚。ウルは怒り狂い、ダレスは喜びに満ちており、ラルカは絶望したような顔で叫びながらどこかに行ってしまった。ダレスはともかく、ラルカの奴は大丈夫だろうか。生きてると良いんだが。
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