第78話 1枚の招待状

 ウルと街にでかけた翌日。俺たちはスヴァルトアルフヘイムを出ることになった。いい加減ノース支部に戻らないといけないし、これ以上ここにいると、他のサキュバス族に襲われそうだからな。昨日の夜は変な視線が突き刺さりまくって禄に睡眠もとれなかったし。見送りには沢山のサキュバス族が来ていて、ウルの母親が俺の手を握りながら感謝の言葉を述べていた。


「カイツ君。今回は本当にありがとうね。貴方には感謝してもしきれないわ」

「いえ。俺はやるべきことをやっただけなので」

「かっこいいわねえ。うちの夫にも見習わせたいわ。夜の営みをしすぎて死んじゃったんだけどねえ。そこそこかっこいい人だったのよ」

「はあ」


 反応に困る。俺はなんて言えば良いんだよ。そう思ってると、ウルの母親はウルに何かを囁いてた。


「ウル。あの男、絶対に手に入れなさいよ! 私たちサキュバス族にはあの男が必要なんだから」

「分かってるわよ。必ず手に入れてみせるわ」

「いざとなったら全裸になって抱き着きなさい。男はそれでいちころだから!」

「……善処するわ」


 何かよからぬことを話してる気がする。背中に冷たい何かが当たってるような不気味さを感じるし。ウルは疲れた表情でこっちに来た。


「何を話してたんだ?」

「貴方を奪い取れとかって話。貴方をゲットするまではここに帰れそうにないわ。帰るつもりないけど」

「なんでだ。せっかくの故郷なのに」

「色々疲れるのよ。交わった影響か、どいつもこいつも下ネタトーク全開だもの。流石についていけないわ」


 サキュバス族というのも色々大変なんだな。


「じゃあ、あっちに帰るわよ」

「おう。ウルのお母さん。色々お世話になりました。ありがとうございます」

「また来てねー。精力クッキー作って待ってるわあ」


 そんな言葉に見送られながら、俺たちは元の世界へと帰った。最後の精力クッキーってなんだ。俺に何を食わせようとしてるんだよ。勘弁してくれ。


「ようやく帰ったわね。なんか色々ありすぎて疲れたわ」

「だな。とりあえず支部に帰ったら寝たい」


 だが、アリアやタルタロスって場所のこともあるから、おちおち寝てられないんだよな。



 騎士団に戻り、俺は、ロキ支部長にスヴァルトアルフヘイムで起きた事件について報告するために支部長室に向かった。ウルは自分で調べたいことがあるようで、俺と別れて図書室に行った。


「なるほどねえ。アリアがガルードって奴の薬にやられて騎士団を離反。治す方法を探そうにも、ガルードが行方不明になっていると。おまけにイシスも関わってると。あはははは! とんでもないことなってるねえ!」

「笑い事じゃありませんよ。一刻も早く、アリアを取り戻さないといけません」

「そうだな。お前にとってはかなりの一大事だ。にしても、色々と大変だったんだね。ゆっくりと休むが良い」

「分かりました。では失礼します」


 俺は支部長室を出た後、自分の部屋に戻った。


「……はあ。アリアがいない部屋ってのはさみしいものだな。ミカエル、フェンリル族ってのはなんなんだ?」


 ミカエルは実体化して俺の前に来て説明する。


「フェンリル族というのは、かつて世界を支配していたと言われる種族じゃ。アースガルズに住む神獣と呼ばれし獣。その爪は空を裂き、その咆哮は大地を壊すという。ま、えげつない力を持つ化け物種族ということじゃ」

「アリアはその種族の1人だったということか。今の俺は、アリアとどれくらい戦える?」

「……オブラートに包まず言うのなら、20秒持てばいい方じゃろうな」

「20秒か」


 それが今の俺とアリアの力の差。


「妾が戦ったとしても、勝てるかどうか微妙じゃろうな。というか今の妾が力を出したら消滅一直線じゃ」


 今のミカエルは力の大半を失ってる。無理に人型になって戦おうものなら、体に負担がかかり、消滅まで秒読みだ。


「なら、第3解放を使えば」

「カイツ。分かっておるとは思うが、間違っても第3解放は使うなよ。あれを使えば、神羅龍炎剣とは比べ物にならない負担がかかるぞ。強くなりたいなら、無理に第3解放せずに鍛錬すべきじゃ」

「……だよな。それしかないか」


 俺はベッドから立ち上がり、部屋を出て支部の階段を降り、そこからいくつもある巨大な円形の部屋の一室に向かった。扉を開けると、ダレスが逆立ちしながら腕立て伏せをしていた。


「おや。君がここに来るとは。鍛錬しにきたのかい?」

「ああ。俺は強くならなければならない。そのためにここに来たんだが」

「なるほど」


 彼女は逆立ちをやめて足を地面につけて立ち上がり、質問する。


「強くなるためってのは、騎士団やめちゃったアリアのためかい?」

「……もう知ってたんだな」

「騎士団に流れる情報ってはすぐこっちに来るからねえ。いやー、アリアも愛されてるね。騎士団を裏切っても、こんなふうに尽くしてくれる男がいるんだから。よし、私も君に協力しよう。全力でかかっておいで。私が鍛錬相手になってあげるよ」

「本当か? それはありがたい」


 俺は刀を抜き、六聖天の力を発動させる。


「遠慮なく胸を借りさせてもらう!」

「来な!」


 俺は地面を蹴って飛び出し、ダレスに斬りかかった。







 支部長室にて。ロキは机の上に足を乗せながら、何かの資料を読んでいた。机には、真熾天使トゥルーセラフィム計画プロジェクトと書かれた紙の束が置いてある。


「スヴァルトアルフヘイムの事件、イシスの介入、タルタロス、そしてフェンリル族か。ふふふふふ。中々面白いことになってるじゃないか。あちらがそう来るのなら、こっちも次の段階に駒を進めるとしよう。ミルナ!」

「はいはいにゃんにゃん」


 ミルナがおちゃらけたような返事をしながら、天井から現れた。


「神殺しの準備をする。例の試作品は?」

「ばっちり完成済みにゃん!」

「オーケー。なら、適当な所でテストするとしよう。どこがいいかな~?」


 彼女が楽しそうに地図を見ていると、何かに気付いたかのように、天井の方に視線を動かす。


「? どうしたのにゃん?」

「何か来るな」


 彼女がそう言うと、机の上に白い魔法陣が突然現れた。


「にゃ? なんなのにゃこれ!」

「転送魔術か。この魔法陣からして、物体だけを転送する魔術だな」


 魔法陣からは1枚の封筒が出て来た。それは手紙を入れる様なサイズの封筒であり、金粉のようなものが散りばめられており、装飾品も相まって神々しい見た目になっている。封筒が出た後、魔法陣が消えた。


「手紙か」

「知り合いかにゃ?」

「いや。あの魔法陣は見たことのないものだった。恐らく、誰かがここの座標を調べて送ってきたのだろう」


 ロキが封筒の裏を見ると、そこにはこう書かれていた。


 〖ワルキューレ家からの招待状〗


「ふふふふふふ。まさかこんなものが送られてくるとはな」

「わーお。まさかのワルキューレ家かにゃん。でもこれって」

「ああ。試作品を試すのにピッタリだな。この家ならよほどのことが無い限りばれないだろうし、仮にばれたとしてももみ消すのは容易い。実験にはうってつけの場所だ。なにより、良質なデータも取りやすいだろうからな」

「決まりにゃんね。試作品はこのワルキューレ家にぽいっとしちゃおうにゃん! にゃふー。あれを投入できる日が楽しみにゃん。きっと、すっごく楽しいことになるにゃんよ」

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