第38話 新たなる戦いの予感
side カイツ
俺たちは洞窟の中に入り、紫色の石を探していた。
「カイツ。こんなところに石があるのですか?」
「ああ。奥の方に石がたんまりとある」
さっさと石を回収して支部に戻るとしよう。すぐに終わるだろうし。そう思っていたのだが
「な、なんなのじゃこれはあああああ!?」
奥に進んでいた俺たちは歩みを止めた。その先には巨大な門が道をふさいでいたのだ。これでは先に進むことが出来ない。
「カイツ……これはなんなのですか?」
「分からない。そもそも前に行ったときはこんなのは無かった筈だが」
「おそらく、これは別世界への扉じゃ」
アリアの質問に、ミカエルが答える。別世界の扉って。
「それって、前のヘルヘイムのような世界に通じてる扉ってことか?」
「そうじゃな。どこに通じてるのかは分からんが、別の世界へ行くための門」
「別世界の門。てことは、それを作ってる装置がその別世界のどこかにあるということか。さて。どうしたもんかね」
「装置をぶち壊す以外にやることはなかろう! これでは妾の食料が取れないのじゃぞ!」
「いや。やみくもに破壊するのはちょっと。もしかしたら、何か事情があるのかもしれないし」
そう話してると、突然地響きのような音が鳴り響き、門が開き始めた。俺とアリアは即座に警戒し、ミカエルは玉になって俺の服の中に入る。何が来るのかと思っていると、門から現れたのは、幼い少女だった。真っ白な髪をしており、尖った耳をしている。見た目は12歳くらいといったところだろうか。服はボロボロであり、全身が傷だらけになっている。
「あう……ようやく……逃げ……出せ」
彼女はそれだけいうと、バタリと倒れてしまった。
「ておいおいおい! 大丈夫か!」
俺とアリアは即座に駆け寄り、彼女の脈を測ったり、呼吸を確かめたりする。呼吸や脈は弱っているが、ギリギリ生きてるな。
「アリア。治療を頼む!」
「……はいです!」
アリアは少しだけ少女の傷に怯えながらも、両手を突き出し、魔術を発動させる。
「癒やすです。
彼女の手から緑色の小さい人のようなものが現れ、それは少女の体にくっつき、傷を癒やしていく。
「アリア。どれくらいかかりそうだ?」
「わからないです。ここまで傷がひどいと、治すのも大変ですし」
アリアが傷を癒やしていると、門の先から異質な気配を感じた。
『カイツ』
「分かってる。何か来るな。アリア。その少女を運べるか?」
「運ぶ……ですか? やってみるです」
アリアが少女を持ち上げると、驚いたような顔をした。
「あれ。この子。とっても軽いです。もう少し重いと思ったのですけど」
「気になることだが、その調査は後だな。出来るだけ遠くに行ってくれ」
「分かったです!」
アリアはそう言い、少女を抱きかかえて離れていった。
「さて。門から出てくるのは誰だ? ろくでもない奴の予感しかしないけど」
門から現れたのは、不気味な存在だった。きらきらと光る半透明の羽。その羽は蝶を思わせるようだ。耳が少女と同じように尖っており、明らかに人間じゃないことがわかる。そして、正気じゃないことも。目の焦点が合ってないし、表情もおかしい。
「あう……あえあえああ。がぼであ」
「ミカエル。あの言葉って、アースなんたらの言葉か?」
『アースガルズな。いや違うな。あの世界の言語ではない。ただ言葉が成立してないだけじゃ。ありゃ相当頭がやられてるようじゃの。来るぞ』
奴は光の剣を出し、こっちに斬りかかってきたので、その攻撃を刀で受け止める。
「あえあえ……あえああ!」
奴はわけのわからない言葉を発しながら何度も斬りかかり、その攻撃をすべて防いでいく。攻撃のパワーはそこそこだが、動きは単調で無駄が多いし、簡単に防げる。問題は攻撃していいのかどうかだ。どうも敵対してる感じがしないし、俺ではなく他の何かを見ているように思える。まるで、こいつが見えない誰かと戦ってるかのようだ。
「あえええ。えあああ!」
奴が変な言葉を叫ぶたびに攻撃の速度はほんの少しずつ増していく。しかし、動きは更に単調になり、パワーも落ちていった。この状態なら、素手でも簡単に勝てそうだ。なんなんだこいつは。
剣には小さな傷がいくつもついており、何度も戦いを経験したからこその傷だというのがすぐにわかる。だが、こいつはわけのわからない言葉を叫ぶし、動きの無駄が多く、まるで戦いを経験してるやつとは思えない。それに、こいつから全くと言っていいほど殺意を感じない。攻撃後の隙も大きいし、まるで自分から殺されに行ってるみたいだ。一体どうなっている。
『カイツ。何をチンタラしとるんじゃ。そんな雑魚に苦戦するほどお主は弱くないじゃろう。さっさと斬れ』
「けど、こいつから敵意は感じないし、どうも俺たちを殺そうとする感じがしない。そいつを殺すのは」
敵対するやつなら容赦なく殺す。けどこいつはそういう感じがしないし、殺しても良いのか迷ってしまう。とはいえ、こうやって攻撃されるのも面倒だ。ある程度観察できたし、みねうちで大人しくさせとくか。そう考えて攻撃しようとすると、奴はいきなり攻撃の手を止めた。
「なんだ? なぜ攻撃を止めた」
「あえええあ? あえあ! ああええ!」
奴は意味のわからないことを言いながら光の剣を消し、動物のような四足歩行の体勢になってべろをだし、門の先へと走っていった。
『追いかけて捕まえんでも良いのか?』
「あんな気持ち悪い奴を追えと? 勘弁してくれ。それに、仮に捕まえたとしても、まともなコミュニケーションが取れるとは思えない」
『まあ確かにな。最後も気持ち悪い走り方しとったしのお。魔物でも、あそこまで知能が落ちた奴はいないのではないか?』
「かもな。それより、アリアのところに行こう。あの少女のことも気になるしな」
アリアのいるところへ走っていくと、アリアがめちゃくちゃ怯えながら治療をしていた。
「カイツ! 戻ってきてくれて良かったです」
彼女はそう言って俺の手を握る。少し離れただけでこれか。彼女のこの依存のようなものも、少し直していかないといけないかもな。ま、それは後回しだな。今はやることがある。
「アリア。少女の治療は?」
「殆どの傷は治ったです。もう少ししたら意識を取り戻すと思うのですけど」
アリアがそう言ってると、少女が目を覚ました。
「あう……ここは?」
「ここは洞窟の入り口だ。門の前でぶっ倒れてたからここまで運んできたんだ」
彼女は上体を起こし、俺たちを見る。
「黒い服。もしかして、騎士団の人!?」
「ああ。俺たちは騎士団だけど、それが」
どうしたという前に、彼女は俺に抱き着いて来た。
「お願い! 私たちの世界を助けて! アルフヘイムは今、大変なことになってるの! 変な化け物どもが暴れてるし、私たちの仲間が実験に使われてる! お願い! 私たちの世界を助けて!」
彼女は泣きながら何度もそう言う。事情はよく分からないが、門の向こうではかなり大変なことが起きてるみたいだな。
「分かった。アルフヘイムを助ける」
「! 本当に?」
「カイツ。そんな安請け合いして良いのですか? もし、私たちの手に余るようだったら」
「そんときは俺が死ぬ気でがんばるだけだ。奥の手もあることだしな。けどその前に話を聞かせてくれ。事情を詳しく知りたいんだ」
「分かった。でも、あっちに行ってから話しても良い? 直接見てもらった方が速いから」
「おっけー。なら、アルフヘイムに行くとしよう。アリア。お前はどうする? 別世界はかなり危険だと思うけど」
「私はカイツについていくです。1人で行動するなんてまっぴらごめんです」
「なるほど。なら、さっさと門をくぐっていくとしよう。別世界、アルフヘイムに」
俺とアリアは、少女と共に門の先に行き、別世界へと向かった。
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