第25話 ルライドシティ到着 懐かしの再会 アレウスの末路

 夜を過ごし、再び馬車を走らせていた。昨日はそれなりによく眠れたが、まだ力が戻ってる感じは無い。まだまだ時間がかかりそうだ。御者はツインテールの女性が務めているが、こちらを見ることはなく、会話も一切ない。彼女がそこまで話す人ではないし、昨日のこともあって、俺も話したいとは思えなかった。


「カイツ。なんだか空気が不穏ですけど、どうかしたのですか?」

「……色々あった。あんまり詮索しないでくれ」


 アリアに話せば、気分を悪くしそうだからな。知らないほうが身のためだ。外の景色を見ていると、見覚えのある風景が見えて来た。草木が並び、石で出来た像があちこちに並んでいる。アレウスのパーティーで仕事をしているときによく見かけた。噂じゃあの石像は、大昔の神様のために造ったものとか言われているが、真偽は不明だ。


「……もうすぐルライドシティだな」

「そういえば、カイツはルライドシティを知ってるのですか? ロキ支部長がルライドシティと言った時、妙な反応してましたけど」

「……昔の友達がいるだけだ。今はどうか分からないけどな」

「? どういうことですか?」

「色々あったんだよ」


 役立たずだから追放されたりとか。出来ればこの話はしたくない。かっこわるいし、良い話でもないからな。


「むう。カイツって、色々はぐらかす癖があって心配なのです。ルライドシティに行っても大丈夫なのですか?」

「大丈夫だって。昔のことだし、そこまで気にしてないから」


 昔のことでは無いが、気にしてないというのは本当だ。あの頃の俺は実力が足りずに追放された。それだけのことだ。会ったら少し気まずいかもしれないが、会わなければ大丈夫だろう。


「そろそろ町に入りますよ」


 町に入って繋ぎ場に馬車を停め、馬車を降りた。


「おおお。ここもバリアスシティに負けず劣らず広いのです」


 何度も見かけた町だ。全ての風景が懐かしい。まさかまたここに来ることになるとは思わなかったが。アレウスやリナーテは元気にしているだろうか。


「さっさとウェスト支部に行きますよ」


 ツインテールの女性はそう言って前を歩き、俺たちも彼女についていく。途中で見かけた酒場や飲食店、ギルドは全く変わっておらず、色んな冒険者や市民がおり、賑わいを見せていた。アリアは色んな店に目を惹かれていたが、女性の方は興味が無いのか、前に進んでいくだけだった。しばらく歩いていると、突き当りまで来た。周りには雑貨店や武器屋などの店があるだけであり、目の前には宝石店がある。


「ここが、ウェスト支部なのか?」


 彼女は何も答えることはなく、店の中に入っていき、俺たちもそれに続く。店の中も普通であり、高価な宝石が売ってあるだけであり、カウンターにいる店員にも、おかしなところはない。


「おい。ただの宝石店にしか見えないけど、ここは何なんだ?」


 俺の質問を無視し、彼女は店の真ん中あたりに立った。


「死せる戦士の魂。ここに眠る」


 彼女がそう言うと、足元……いや、店全体に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「ひい!? なんですかこれ!」

「これは」


 光が俺たちを包み込み、視界が真っ白な世界になる。少しして目を覚ますと、巨大な広間に立っていた。天井はドーム状になっており、奥には1番から12番までのそれぞれの数字が書かれた扉がある。


「ここは」

「こんにちは~。待ってましたよ~」


 声のした方を振り向くと、桜色の髪を膝下ぐらいまで伸ばしている女性がいた。髪はとんでもなくボサボサであり、録に手入れをしていないように見える。着ている服は長袖の白シャツにスカートとラフなもの。サイズが合っていないのか、腕が袖から出ていない。スカートはサイズが大きいということが見て分かるほどであり、今にもずれ落ちそうなくらいに危うい。


「あなたは」

「私は~。ヴァルハラ騎士団ウェスト支部の~、支部長をしている~、イドゥン・レーシスと言います~。よろしくお願いします~」


 ものすごい会話のスピードが遅いな。ここまで遅いと、コミュニケーションを取るのにも苦労しそうだ。


「ヴァルハラ騎士団ノース支部所属、カイツ・ケラウノスと言います」

「アリア・ケットシーです」

「……」


 俺とアリアは挨拶をしたが、ツインテールの女性は何も言わずにどこかに行ってしまった。


「ちょっと! どこ行くんだ!」

「そいつと会話するのは面倒なので嫌いです。私は適当にくつろいでおきます」


 そう言って、彼女はどこかに行ってしまった。支部長がいるというのに、あんな態度で良いのだろうか。


「あらあら~。相変わらずクロノスちゃんは~。問題児ね~」

「あいつのこと、知ってるんですか?」

「ええ。クロノス・アンジェリア、騎士団一の問題児と言われてるわ~。本部の人も~、手を焼いてるみたい~」


 なんでそんな奴がクビにならずに済んでるんだ。というか、ロキ支部長は何を考えてる。あんな問題児を置いていても碌なことにならないと思うが。


「それより~。カイツく~ん。あなたに会いたいって人を紹介するわね~。ついてきて~」


 彼女はおっとりとした口調で話しながら歩く。歩くスピードも幼児かなにかと思うほどに遅く、何度か追い抜かしてしまいそうになった。失礼かもしれないが、こんなゆったりした人が支部長で大丈夫なのだろうか。彼女は6と書かれたドアを開けた。その先は1本道になっており、壁にはいくつもの扉がついている。彼女はさらに先に進み、6-4と書かれた扉をノックした。


「リナーテちゃーん。入るわよ~」

「良いよー」


 俺はその名前と返ってきた声に驚きを隠せなかった。リナーテってまさか。


「ふふ~。感動の再会~なのかしら~?」


 彼女が扉を開けると、その部屋には1人の女性が立っていた。青い髪に紫の瞳をしており、背は小さめの女性。俺たちと同じように襟や袖口が金で装飾された黒のコート、黒いスカート。俺の目の前にいたのは。


「やあ。久しぶりね。会いたかったよ。カイツ・ケラウノス」

「リナーテ。なんでここに」


 俺が追放されたアレウスのパーティーにいたはずのメンバー、リナーテ・バウルだった。


「会いたかったってどういうことだ。お前、俺のことが嫌いなんじゃ」

「んなわけないでしょ! 私はあんたのことが好きよ。じゃなきゃ、こうしてアレウスのパーティーやめて、騎士団に入ったりしないっての!」

「え……どういうことだ? アレウスのパーティー抜けたって」

「色々あったの。とりあえずあがりなさい。そんなとこで長話するのも変だしね」

「あ、ああ」

「じゃあ~、あとはごゆっくり~」


 そう言って、イドゥン支部長は去り、俺とアリアは彼女の部屋に入った。部屋の中は整理整頓されており、ベッドが2つ、テーブルが1つとソファが4つあった。俺たちはソファに座るよう案内され、彼女はお茶を持ってきた。


「それで? アレウスのパーティー抜けたってどういうことだよ。なんでそんな」

「その前に、自己紹介しておいた方が良いと思うよ。そこの女の子、全然理解出来て無さそうだし」


 アリアの方を見ると、きょとんとしており、何がなにやら分かってないという感じだった。そういや、アリアはリナーテのこととか、俺がいたパーティーのこととか知らなかったよな。


「私はリナーテ・バウル。ヴァルハラ騎士団ウェスト支部所属の新人よ」

「私は……アリア・ケットシー。ノース支部所属の新人です」

「よろしくねアリア。にしても、あんた変な耳してるのね」


 彼女が興味深そうにアリアの頭の耳をまじまじと見始め、アリアは委縮してしまった。


「リナーテ。彼女の耳をそんなに見るのはやめろ。怖がってるじゃないか。それに、この耳についてあまり触れないでやってくれ。彼女にとっても良いものではないんだ」

「そうなの? そりゃ悪いことしたわね」

「いえ……気にしてないので、大丈夫です」


 気にしてないと言いつつも、彼女のことが怖いのか、アリアは俺にしがみつくように隠れる。


「ありゃりゃ。ずいぶんと人見知りなのね。生活とか大丈夫なの?」

「大丈夫……だと思いたい」

「なんで希望的観測なのよ」

「それより、アレウスのパーティー抜けたってどういうことだよ。俺がいなくなってから何があった」

「別にそこまでの大事ではないわよ。あんたがパーティー抜けた日の翌日、ギルドの依頼を受けていてね。そこでちょっと問題が起きたのよ。






 あの日。依頼を成功させたのは良いんだけど、アレウスが大怪我して腕の骨を粉々にしちゃってね。運ぶのが大変だったのよ。


「痛い! 痛いよー! 腕痛いよおおおおお!」

「うるさいわね。男なんだから少しは我慢しなさいよ」

「だって。めちゃくちゃ痛いんだもおおおおん。メリナーーーー! この腕治してくれよおおお!!」

「残念ですけど、そこまでの傷を治す事は出来ません。私に出来るのはせいぜい、出血を止めることくらいです。もうすぐ町に着くので我慢してください」

「うわあああああん!! 速く! 速く治してほしいよおおおおお!!」


 あの時のアレウスはうるさいったらなかったわね。腕がやられたのは可哀想だけど、だからってあそこまで泣き叫ぶのは鬱陶しかった。なんとかアレウスを病院にぶちこんで、自分たちの部屋に戻ろうとしたら、扉の前に、襟や袖口が金で装飾された黒のコートを着た女性が立っていたのよ。


「誰?」

「お。あんたがリナーテにゃんね。にゃーはヴァルハラ騎士団ノース支部所属、ミルナ・レイートにゃん。以後よろしくにゃん」

「あっそ。何をしにきたの?」

「にゃーは勧誘しに来たのにゃん。リナーテちゃん。ヴァルハラ騎士団に入る気は無いかにゃん? あんたは優秀そうだから、騎士団に欲しいのにゃん」


 ヴァルハラ騎士団のことは良く知ってた。人々を守るために戦う組織。だけど、人を守るってことにはそこまで興味が無かったから、最初は入るつもりがなかったのよね。


「悪いけど、人助けとかに興味ないから、帰ってくれない?」

「にゃるほど。人助けには興味が無い。なら、カイツ・ケラウノスには興味があるのかにゃ?」

「!? なんでお前がその名前を!」

「おお。良い反応するにゃんね。彼は今、ヴァルハラ騎士団にいるのにゃ。もし騎士団に入れば、カイツに会うことが出来るにゃんよお」

「……質問だけど、メリナを入れることは出来るのかい?」

「もちろん。あいつも強いらしいからにゃん。騎士団に大歓迎にゃん」


 そこからの行動は速かった。メリナを誘ってアレウスの元に辞表を出し、そこから騎士団に入るために、ミルナって人に色々してもらったの。本当はノース支部に所属の予定だったけど、空きが無かったからここに所属することになったの。何か質問ある?」

「アレウスが色々と可哀想だとは思ったな」

「あんな奴どうでも良いのよ」(カイツを追放した大馬鹿野郎だしね)


 アレウスの奴。元気にしてると良いんだが、今はどこで何をしてるだろうか。


「ていうか、なんで俺がいるからって騎士団に入る決意をしたんだ? てっきり、俺のことが嫌いだと思ってたんだけど」

「……色々あるのよ。ていうか、私もメリナも、別にあんたのことは嫌いじゃないしね」

「え、そうなのか!?」

「たく。あんたの鈍いとこにも困ったもんね。私たちがあんたを嫌う時があったら、それはあんたの心が歪んだ時くらいよ。あんたのことは大好きだから安心しなさいな」

「そうか。それは良かった」


 どんな理由であれ、人から嫌われるのは悲しいからな。彼女たちに嫌われてるわけではないなら良かった。


(この感じだと、あんまり気づいて無さそうね。ほんっとに鈍いんだから)


「リナーテ。どうかしたのか?」

「何でもない……そうだ! せっかくだし、メリナにも会わせてあげる。今の彼女、とっても面白いことになってるから」

「? 面白いことがなにかは分からないが、せっかくだし会いたいな。アリアは大丈夫か?」

「大丈夫です。それに、メリナさんのこと、少し気になるですし」


 アリアが人に興味を持つとは珍しいな。にしても、メリナはどうなっているんだ。面白いことになってるとは言っても、短期間で、激しい変化があるとも思えないが。そう思いながら俺はリナーテについていき、メリナのいるところへ出発した。

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