最終話 笑顔と涙
「だからキエナ先生って超能力でもあるんじゃないかって思うんだよね、どうなのよ、タカヤ?」
繁華街の待ち合わせによく使われる広場のベンチに座りながら、ユウジは海外から先日帰ってきたタカヤに電話をかけていた。
「だってさ、今回のってキエナ先生が全ての始まりだし。俺の人生をこうしたのってキエナ先生だし、キエナ先生に言われてお前が変なメールよこさなかったら終わりに向かわなかったわけだし……全部にキエナ先生が関わってんだよな。なんなら俺の人生はキエナ先生に握られていたって感じ?」
待ち人を待っている間、ウキウキして変なテンションになってしまったせいか、よくわからないしゃべりになってんなぁと我ながら思う。電話の向こうのタカヤは「あーそうね」と言いながら苦笑いしているようだった。
『まぁ、よくわかんねぇけど。そこがキエナのいいところだから。色んなことが謎なのが』
「……タカヤ、お前全てを謎で済まそうとするなよな」
『だってあんまりキエナのこと探ろうとすると 俺がやられるし。謎は謎のまま、憶測だけで残しといた方がいいんだよ』
「……なんだ、やられるって?」
タカヤに、その言葉の意味を聞いたが。タカヤはごまかし笑いをするだけで詳しくは教えてくれなかった。多分キエナ先生が語らない限り、それ以上のことは本当に探れないのだろう。
全てにおいてミステリアスなキエナ先生。でもタカヤは『そこがいいんだ』と笑っている。
『お前は何? これからリク先生とデートでも行くんだろ』
ユウジは電話をしながらガッツポーズした。
「もちろん! このあとはまず映画を見に行くんだぞ! その後はご飯食べて明日は日曜日だから先生の家行ってゲームしまくって今日一日遊びまくるんだ〜」
『お前やってること、高校生の時と一緒じゃん。もう大人ですよ、お兄さん』
タカヤの物言いに「うるせー」と返しておいてから、ユウジは笑う。
「……いいんだよ、だってあの時からの時間をもう一度取り戻しているんだから」
六年間、離れていた分を。
『一緒に暮らさないのか? リク先生と』
タカヤに言われ、ユウジは「あぁ」と即答した。
「仕事的にお互いにあちこちに異動とかありそうだし。今はまだ難しいかなって。でも大丈夫。ネットでもつながってるし。メールも電話もいつでもできるようになってるから」
なんだかそれは振り出しに戻っているみたいだが。結局うちらの関係はこういうもののようだ。これが一番落ち着く。結局リク先生のユーザー名もマリアのままになっているし。
けれども前よりも深く、全てがつながっている。もう離れることはない。
『……キエナが前に言っていたぞ。ユウジとリク先生は共に依存し合ってればちょうどいいんだって』
「なんだかそれだけ聞くと、おどろおどろしい関係性じゃね? うちらはあくまで爽やかだからな! 愛し合ってるだけ!」
言ったあとで「自分、恥ずかしいこと言ってんな」とユウジは顔を熱くした。タカヤからも『ノロケ? 清宮に嫉妬されるぞ』と茶々を入れられてしまった。
「……あっ、リク先生が来たっ! じゃ、タカヤ、また電話すんな!」
タカヤが『あぁ、またな』と言ったのを合図に電話を切る。
そして人の流れの向こうから、足早にこちらに向かってくる、あいかわらず帽子を深くかぶった小柄な恋人に向かって手を振った。
リク先生が帽子をかぶる理由だけど、童顔を見られたくないらしい。誤解ですぐに補導されそうになるということだ。
あれだけ何年も探し求めたリク先生だが、なんと今はすぐ隣町の高校に異動し、そこの教員住宅に住んで教師をしているということがわかった。
だからこういうところでの待ち合わせも容易にできる。
「待たせて悪い、ユウジ 」
「大丈夫だよ、リク先生」
ユウジが立ち上がると、リク先生は嬉しそうにほほえみながら、ジッとこちらを見ていた。
「……お前とこんな形で待ち合わせとかできるなんて夢みたいだ。映画泣いちゃうかも」
恥ずかしそうに語られたリク先生の本音。聞いた瞬間、胸の中には幸せという水が流れ込んできたように、ギュッと色々なものに満たされた気がした。
「泣いても大丈夫だって、みんな泣くジャンルだし」
「お前、なんか意図的に泣かせようとしてないか。もうキエナからお礼のゲーム機、新しいのもらったんだろ。今度一緒にやらせてくれな」
「あ、あぁ、うん、もちろん」
リク先生からの未来を約束する言葉。それがこんなにも嬉しいなんて。無意識に頬が熱くなってしまう。
「……ユウジが俺を待っていてくれた分、全力で俺も返すから」
「うん……ありがとな。あ、で、でも先生じゃないよな。いや先生だけど俺にとっては……」
真向かいにある先生のほほえみを捉えながら、ユウジは言おうか言うまいかと、唇をもごもごと動かす。
先生だけど、目の前にいるのは、もう“リク先生”じゃない。
「ユウジ、呼び捨てでいいぞ?」
こちらを試すように、リク先生は語尾を上げて聞いてきた。この前までの怯えた様子はどこへやら。今は堂々とした、カッコいい恋人がそこにいる。童顔だけど、さすが年上。でも先生の泣くところも弱い部分も全部が好きだ。
「……う……リ、リク……先生」
「……おまけ、ついてるぞ」
「ま、まだ名前だけっていうのが呼びづらいんだよ! 離れている間も、ずっとそう呼んでたからっ!」
自分が色々言い訳をしていると、リク先生は楽しげに笑った。
その笑顔は見ているだけで、こちらの胸を高鳴らせてくれる。
今までとは違う、本当の笑顔。
つられて自分も笑ってしまう。
「……もう離れないから、ずっと」
その言葉には笑みがこぼれ、嬉しくて涙してしまいそうになった。
先生!ゲームクリアのために泣いてくれ 神美 @move0622127
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