第34話 リク先生は
「急に来るから先生、驚いたぞ。まだ学校の制服を着てるんだな。さてはそのまま家族で出かけて帰り途中だな? 仕方ないヤツだなぁ」
リク先生はそう言いながらもドアを開けて「どうぞ」と中へ入るよう促してくれた。
「お邪魔します」
自分の緊張が悟られないように気をつけながら室内へ入る。だがいつもの爽やかなリク先生の匂いが鼻をくすぐると、途端に緊張が走ってしまった――が表には出ないようにグッとこらえる。
「そこ座っていいよ。なんか飲むか?」
「別に大丈夫だよ、腹もいっぱいだし」
そう答えながらユウジがリク先生に示されたガラステーブルの前に座ると、その隣にはリク先生が座った。
この場所は以前、自分がここで寝ていて、隣ではリク先生が寝ていたという思い出のある 場所だ。その時の穏やかな時間は今でもよく覚えている、忘れられない、あったかいなぁと思った時間。
「俺、先生にお礼が言いたくてさ」
とりあえずリク先生に変に思われないようにそんな話題を出してみる。
先生は「なんだ急に」と笑っていた。
「こ、これでもさ俺、リク先生に感謝してんだよ。三年間も面倒を見てくれたし、色んなこと教えてくれたし。 ゲームも一緒にしてくれたし。 俺、本当に充実してた毎日だったなと思ってるんだ」
リク先生はフフッと笑って「そうか」と静かにつぶやく。
「リク先生にとっては厄介な生徒だったかもしんないけどさ。でも今日で……終わりなわけだし。だから最後にお礼が言いたかったんだ。先生、今までありがとうな」
緊張を押し殺し、なんとかお礼の言葉を口にして、もう一度「リク先生、ありがとう」とユウジは頭を下げた。
リク先生は困ったように笑い、指で頬をかいた。
「全くお前は変なところは礼儀正しいよな……お礼を言いたいの、先生だって同じだぞ。お前みたいな楽しいヤツと三年間も一緒にいられて先生も楽しかった、本当にこちらこそありがとう」
リク先生の感謝の言葉を聞き、それだけで自分の方が嬉しさで腑抜けてしまいそうになる。でもそこはこらえて、次はもっと大切なことを言わなければならない。
「先生、でもそれだけじゃないんだ。俺が礼を言いたい人はもう一人いる。以前ネットでつながっている人がいるって話しただろ」
話を転換されたことでリク先生は「あ、あぁ」と少し驚いたような声を発した。
「その人は俺の人生を支えてくれた人と言ってもいいぐらい、俺のことを助けてくれた。両親が死んだ時から、その人とつながったおかげで俺は今日までこれた。俺はその人が大好きなんだ」
ユウジはリク先生を見つめた。一方のリク先生も自分を見ている。何を言う気なんだ、とその瞳は語っている。
(知るのが、怖いけど……)
自分はずっと言いたかった疑問を口にしようとしている。そしてそれが真実であるということを、リク先生の口から教えて欲しい。
それが真実なら自分を支えてきてくれた存在が、すごく身近にいたんだという驚きと嬉しさが抱けるのだ。
(だから、教えてくれ、先生っ)
「……知らなかったんだ、その人がずっと俺のそばにいたなんてさ。俺が高校になって出会ったのは偶然なんだろうけど」
一つ息を吸って、声を振り絞る。
「そしてキエナ先生が変わったゲームを言い出してこなかったら、この事実を知ることはなかったんだ。そしたら自分はどういう関係で、これからもその人といたんだろって不思議に思う。でも今はすぐそこに真実があって。自分はその真実とずっと共にありたいと思っている、だから……先生、教えてくれ」
先生の表情から、いつしか笑顔は消えていた。
「先生、ユーちゃんっていう恋人がいたなんて嘘なんだろ。先生が一度だけ、ユーちゃんって寝言で言っていた。それが誰を指していたのか俺にはわからない。でも先生がそんな嘘をついていたこと、先生が俺に今まで伝えてくれた言葉。あと先生のゲームのやり方とか……そういうのをずっと俺は見てきたから。俺が考えつく結論は一つしかないんだよ」
「……それは?」
「マリアは、先生だったんだろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます