第14話 先生は俺を……
先生が俺を好き……。
マリアの告げたその言葉を、知らず知らず自分の中で反復させていた。
胸をざわつかせる、この気持ちはなんだろう。そして、もしそうであるなら自分は……。
だけど先生にとって自分はただの生徒の一人だ。この三年間、何もなく、ただ普通に楽しく過ごしていた、それだけだ。
なんでここにきて、卒業が近いからって。たったそれだけのことで。色々なことが?
『実はそうでもないんだよね』
数日前にキエナ先生が言った言葉を思い出す。それは今マリアに聞いたように「自分は生徒の一人だろ」とキエナ先生に聞いた時のことだった。
そうでもない……そうじゃ、ない?
自分はただの生徒の一人ではない?
じゃあなんだ、リク先生は自分に何かしら関係があるのか、何か思い入れでもあるのか?
……何が? あるわけ、ないじゃん。
『――ユーちゃん、ユーちゃん? ねぇ、聞いてる? ユウジ……?』
ユウジはゲーム上でメッセージを受信した時の音、ほわん、が数回聞こえてハッとした。マリアが何度も呼んでいた。
『ごめん、ボーッとしてた』
『どうしたの、動揺してる? いいなぁ青春で』
からかうようなメッセージを見て「マリアのせいだろう」とつぶやきながらも、ユウジは「んなことないし」とメッセージした。
いえ本当は動揺しまくりでした。
『そういえばユーちゃん、今度の週末ぐらいだっけ。大学の合否の結果来るんでしょう』
急に現実的な会話になった。こちらの動揺を静めるための、マリアの気づかいかもしれない。
『そうだな。でも無難な学校を選んだから、まず落ちるっていうこともないと思うけど。先生にもそう言われたし』
『ユーちゃんって、なりたいものはあるの? 目指しているものとか』
『特別今は考えてない。とりあえず大学行って就職して、叔父さんと叔母さんを安心させたいと思ってるから。なりたいものや、やりたいことを決めるっていうのは大学入ってからかな……なぁ、マリアってなんの仕事してるの?』
そういう現実的なことを聞いたのは初めてかもしれない。マリアの方から話を振られたから良い機会かもと思って聞いてみたくなった。
『私はただ毎日を楽しく過ごしているだけだよ。ユーちゃんの話を聞いて。楽しくゲームをしてるだけ。でもそろそろ私も進み出さないといけないかなって思っているんだよね。ユーちゃん、週末にもし時間があったら話したいことがあるんだけど』
このメッセージを見てキーボードを叩こうとした指が止まる。
『話がある』
そう言われた時はその人にとって、とても重大なことを聞かされる時だ。マリアの言葉は、はたして良い意味なのか悪い意味なのか。まだわからないけれど自分の心は今、不安を感じている。
(なんだよ、マリア……急にそんなことを。もしかして、もういなくなっちゃうとか?)
まさか、そんなの、嫌だ。今の自分にとってマリアの存在は本当に大きいから。いなくなってしまったら。どうやって、このさびしさを埋めればいいんだ。
ユウジが重苦しい息を吐いていると再度メッセージの受信音がした。
『あと、君を狙っているっていう生徒にも気をつけてね……さ〜て、今日は伝説の宝物を探しに行こうか』
この話は終わりのようだ。いつもの調子でマリアがオンラインゲームの誘いをしてきた。
ユウジは画面を見つめながら気持ち悪い胸のうちを落ち着かせようと深呼吸をする。
(でもさっき……なんか違和感があった気がする……なんだろ、普段はないことがあったような……)
考えたが、わからなかった。
翌日は学校に登校し、教室に入るなり。ユウジは慌てた様子のタカヤに腕を引っ張られ、人気のない廊下に連れてこられた。
なんだなんだと思っているとタカヤは落ち着かない様子でガバっとユウジの両肩に手を置き、荒々しく息を吐いた。
「ユ、ユウジ、お前に伝えたいことが二つあるんだ」
タカヤは言っても大丈夫かと迷うように眉をひそめている。肩で息をしている姿を見ると、ただことではない気がした。
「……一つはお前にとってはどうでもいい話かもしれないけど。俺、キエナ先生と付き合うことになった」
「……ん?」
聞き間違い? なんかすごいことを言われなかったか?
そう思い、しばし呆然。けれどタカヤの言葉はしっかりと脳に浸透していき、気づいた時には廊下中に響き渡るぐらいの大声で「えぇーっ!」と叫んでしまった。
「つ、付き合うっ⁉ キエナ先生とぉっ⁉」
「バカ! 声デカイっ!」
「その、あの、えーと! ……お、お、お付き合いするっていう意味、なのか⁉ 恋人みたいな……え、え、タカヤ?」
頭の中は大混乱、言葉が定まらない。
タカヤはユウジの両肩に手を置いたまま「そうだ」と顔を真っ赤にしていた。端から見ればこうして近くで顔を見合って、顔を真っ赤にしている自分たちの方が変な関係に見られるような気がする。
「な、なんでまた急に……」
まさかのまさか。タカヤとキエナ先生……。
あのミステリアス、笑わない保険医が。
「あ、あぁ、でもお前、キエナ先生に興味、あったんだよな」
今思うとわかる。タカヤはやたらとキエナ先生を目で追っていたり、存在を気にしていた。
「ま、まぁ、そうだな……あの人の変なところとか、ちょっと怖いところとか。ずっと気にはなっていたんだ。だから昨日あんなことの後で……お前とリク先生がいい感じだったから『あっちに行こう』って別の部屋に促されて、それで……そ、それ以上は言いたくない」
一体何をされたんだ。顔を真っ赤にしているタカヤを見れば、わかるような想像がつかないような……というか学校で何してんだよ、生徒と保険医が。
驚きの結果だったがタカヤの恋がここで叶ったのなら良かったと思う。長身の美形同士だから似合っているじゃないか。
でもいいのかな、先生と付き合う生徒って……まぁキエナ先生だったらいいのかも。もうすぐ卒業だし、卒業すれば生徒じゃない。
「それより、もう一つお前に伝えなきゃいけないことがある。俺は昨日、キエナ先生に聞いたんだ」
話は変わり、ユウジの肩に添えた手はそのままに。今度は真剣な表情でタカヤは口を開いた。
「清宮……あいつのことがちょっとだけわかった。あいつリク先生と同い年の兄貴がいたんだ。その兄貴はリク先生とキエナ先生と同級生で、そしてリク先生と――」
続いた言葉を聞き、ユウジは目を見開いた。なんて言ったらいいかわからなかった。目玉が飛び出そうなぐらい、それが乾燥してちょっとピリピリと痛むくらいに、自分は驚いしまった。
その兄貴はリク先生の恋人だったそうだ。
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