第10話 今後の方針

「さて、何から手を付けようかな」


 屋敷で簡単に朝食を済ませ、改めて声に出して確認する。

 普通に考えて、やるべきことは多いはずだ。

 多すぎて何から始めればいいのかがわからないだけで。


「こういうときは、優先順位を付けていけばいいのよね」


 そう声に出し、必要になりそうなものを考え始める。


 生活する上で必要なものはお金だ。

 見た目幼女が言うとアレな気がするけれど、実際必要なのだから仕方ない。

 ただ、このお金がオニキスを買ったことでほぼ尽きてしまっている。


「1つ目は金策か……」


 1つ目からなかなかにきつそうなものが出てきてしまった。

 課題としてはありふれたというか、ほぼすべての人が必要とする物ではあるのだけれど、今の私の見た目が幼女だというのが問題だ。

 テキトーなアルバイトなんかは雇ってもらえないだろうし、かといって自分で商売をしようとしてもどう考えても外見がアウトだ。


「そうなるとやっぱり冒険者ギルドで素材の買い取りをしてもらう形かしら」


 この方法なら幼女の外見でもまだセーフなはずだ。

 平民の子供がたまに素材を持ってくるという話を聞いたことがあるので。

 それでも私くらい幼いというのは珍しいだろうけど。


「お金はそれでいいとして、次は食べ物かしら。

 まあ、お金が稼げればそのお金で買えばいいのだけど、私の置かれた状況的にあまり町に顔を出し過ぎるのもどうかと思うのよね。

 ひとまず、勝手にやってろということで放置してくれるらしいけれど、頻繁に町に出向くと噂になるかもしれないし。

 そんな噂がまかり間違って領都のラビウス侯爵家にまで伝わると、何らかのちょっかいがかかるかもしれない。

 なので、目指すは自給自足ね」


 正直、せっかくの機会だからというのもある。

 まあ、そんな軽い気持ちでいられるのは数日だけだろうけれど。


 ともあれ、そうなるとしばらくはお金を稼いで、そのお金で自給自足で生活できるように環境を整えるということになるのかな。

 さすがに他の人と一切かかわらずにいるのは難しいだろうけど、年に数回程度には抑えたいところだ。


「で、しばらくの目標はそれでいいとして、やっぱり一番の問題は将来をどうするかよね」


 将来について。

 この屋敷にずっと住み続けることができるのであれば、そこまで気にすることはないのかもしれないけど、さすがにそれは楽観的過ぎる気がする。

 私が来るまでのこの屋敷の放置具合を見るに可能性がないとは言わないけれど、さすがに何十年もこのまま放置されるとは思い難い。

 そうなるとこの屋敷を離れて生活していくための何かが必要になる。

 つまり、将来の職業をどうするかという話だ。

 まあ、素質的なものを考えると冒険者一択という気もするけれど。


「いや、自分の可能性を自分で否定するのは良くないっ!

 きっと冒険者以外の可能性が、可能性があるはずっ!!」


 なんとなく泥にまみれて森を這いずり回っている未来の姿が見えたので力強く否定してみたけれど、どうなることやら。

 ただ、まじめに冒険者以外を目指すなら何を目指すべきなんだろうか。


 商人は身許がはっきりしないから難しい気がする。

 自分で行商人から始めれば別かもしれないけれど、正直そこまで商人になりたいという憧れや願望はない。

 手に職をつけた職人系も同じように身許がはっきりしないと難しいだろうか。

 なんとなくイメージ的には商人よりはマシな気がするので弟子入りできればワンチャンあるのではないかと思わないでもない。

 ただ、こちらも憧れているような職があるわけではないので、それを見透かされて無理かもしれない。

 他の街中の職だと売店や食堂の売り子だろうか?

 ただ、これについては偏見かもしれないけれど結婚までの腰掛というイメージがある。

 まあ、将来の目標が家庭に入ることなら候補としてはありかもしれない。

 問題は私に結婚願望がないということだけど。


「もしかして街中の職業は全滅?

 ……私には街の中での平穏はないというの!?」


 いや、実際のところ、一生を街中で平穏に暮らしたいかというと微妙だったりはするけど。

 間違いなく、お母様の影響だね。

 良いか悪いかで言えば間違いなく悪い影響を受けているよ。


「後、考えられるのは魔法を活かした職なんだよね~」


 ただ、この魔法を活かした職というのはあまり多くない。

 というよりも、冒険者を除くとほぼ国に仕える役人的な立場になってしまう。

 そうなるとラビウス侯爵家がどう出てくるのかがわからないので選択肢としては選びづらくなってしまう。


「あ~、結局、冒険者として稼いでからどこかテキトーな場所で隠居するのが一番な気がしてきた」


 どう考えても幼女の考えることではないけれど。

 でも、考えてみると街中で平穏に暮らせるような職を選んだとしてもラビウス侯爵家が絡んでくる可能性を排除できないんだよね。

 思い返してみると、あの家って色んなところと縁戚になっているから思わぬところでつながりがあるかもしれないし。


「はぁ。

 でもまあ、まずは当面の生活をどうにかしないことには始まらないんだけどね」


 机に倒れ込むようにしながら愚痴をこぼしてしまった。

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