第65話 俺の恋バナ

 小野田:「大聖はさ、好きな子いた?なんか、大聖の好きな子いたって印象無いというか、全然興味なさそうって感じだったなー。」


 俺:「オレだってさ、好きな子くらいいたよ。でもさ、好きって気持ちはあっても、どうもできなくない?

 幼いっていうのが大きいかな。好きだから何?って感じだった。

 だから、気持ちはあっても、誰かに言うとかなかったなー。うん、ナイナイ。」


 小野田:「えー?いくら幼くても、好きだったら、話したり、一緒に遊んだり、何でもできると思うけど?」


 俺:「なるほどねー、そんな発想はあの時無かったな。」


 小野田:「大聖、大丈夫か?まさか今でも?って、そんなワケないよな?」


 俺:「さすがに、それはないさ!いくらなんでも。もう二十歳だよ、オレら。」


 なーんて言ったものの…。


 多分、俺、小学生から変わってない。


 小学生の時に初恋をしてそれ以来、まともに誰かを好きになってないかもしれない。


 小野田:「で、誰が好きだったん?」


 俺:「それは、言わん。」


 小野田:「えー、さっきオレは言ったぞー。」


 俺:「じゃあ、ヒントだけ。桜井ではない。」


 小野田:「へー、そう?良かった。かぶってなかった。

 でもさ、いいじゃん、教えてくれたって。

 もう霞がかったあの頃の、懐かしい思い出じゃん。」


 俺:「確かになぁ。でもさ、今日桜井見たら、一気にあの頃に戻ったんじゃない?」


 小野田:「あー、ビフォーアフターみたいな、小学生の姿と今の姿が少しダブって見えたな。でもやっぱ、気持ちは覚えてるけど、どんな風に過ごしてたかって、あんま覚えてないもんだな。」


 小学校の時の俺は、カケルくんが言ってくれた通り、少し目立つ存在だったと自覚している。


 スポーツ少年団の野球をしてたし、走るのも早い方で、運動会ではリレーに抜擢されてたし、勉強も普通より少しできてたと思う。


 イケメンとは言いがたいけど、スポーツ少年らしい元気さで、“雰囲気イケメン”と誰かが言った。


 俺にだって好きな子はいた。


 実はあのオリエンテーリングの同じ班だった。名前は『藍田あいだ 知波ちなみ』。

 綺麗目な顔立ちで、大人しい印象だったが、小学4年生で同じクラスになった時、実は空手を習っていて、性格もサバサバ系だと知った。


 これが第一のギャップ。


 隣の席になった時とか、小さいことだけど、消しゴム貸してくれたりティッシュをくれたり、ちょっとの俺の困り事に気付いてくれて、助けてくてた。

 俺が「ありがとう。」とお礼を言うと、すごく優しい笑顔で返してくれた。


 あー優しい子なんだ、

 これが第二のギャップ。


 そう、何を隠そう、俺はギャップに弱いのだ。


 優媛さんのギャップも、俺にはドキュンだったけど、アユタやカケルくんの関係から、恋愛感情にはならなかった。

 でも、カケルくんがすごく羨ましいと思った。


 俺は中学を卒業するまで、なんやかんやと藍田のことを好きだった。


 そりゃ、中学ではさすがに“好き”って気持ち、知ってほしいと思ったこともあったけど、伝える勇気が出なかった。


 4年生の時、クラスで男子にからかわれている女子がいて、それを藍田が助けに入った。

 「なんだよ!」と、どついてきた男子相手に、空手の手刀一発で泣かしてしまったのだ。


 それ以来、藍田は“男おんな”と揶揄された。

 男子の間では、“あいつは女じゃない”というのがコソコソ話で伝わって、とてもじゃないけと、俺が藍田のことを好きだなんて知られるわけにはいかなくなった。


 ただ、藍田がそのことを知らない筈はないのに、全く気にする様子もなく、普通に過ごす姿が逆に格好良く見えた。


 その状態であのオリエンテーリングの同じ班。

 俺は班長としてカッコイイところを見せようと張り切った。

 なのに、結果はアレ。


 カケルくんがいないことに気付かなかったのは、藍田のことばかり気にしてたせいだとも思ってた。


 その後も、特にいいところを見せることなく中学生になる。


 別々のクラスになってあまり関わってなかったのだけど、いつの間にか“藍田は女子が好きで、男に興味ない”という噂話が出てきた。


 最初は信じてなかったけど、世の中にはいろんな人がいるし、そうだったとしても何もおかしいとは思わないと思って、素直に受け入れた。

 ただ、それだと100%振られるの確定なので、それを振り切って告白する勇気は出なかった。


 正直俺は、この気持ちをどうすればいいか分からず、かなり持て余してしまい、今に至るまでまともな恋愛感情が生まれなくなってしまった。

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