第59話 白の証明
次にプロモーションビデオのデータを確認する。
これにも多分、要所要所に優媛さんのマークを入れてあったはずだが、完全に消されている。
流石に大手の社員は、ほんの小さな異物も見逃さないといったところか…。
上野:「いかがでしたでしょうか…?」
鈴木:「そうですね、企画書もプロモーションビデオも、右下のプリンターの不具合らしき黒い点の改善以外、手を加えられた様子は無さそうですね。」
上野:「盗作ではない、潔白の証明はできますでしょうか?」
鈴木:「もう一度確認したいのですが、この企画を考えたのは溜乃さんで、プロモーションビデオを作成したのも溜乃さんお一人ですか?」
上野:「どうだ?君が1人で考えて制作したものかな?」
溜乃:「そうですね…。アイデア自体は他の人との会話で
友人とトマトを食べてたら、友人が“トマトってリコピンていう栄養素あるんだよ”って教えてくれたというような、常識の会話です。
そんな盗作に当たるようなことではありません。
それ以外の企画書などの作成に関しては、自分1人で行いました。」
鈴木:「そうですか…。
では、やはりこれは溜乃さんの物ではなく、他の人の作品ということになりそうです。」
溜乃:「は?何でそうなるんですか⁉︎どこを見て、何を根拠に⁉︎
」
鈴木:「このメインキャラクターの“トマりこちゃん”ですが、この洋服のお腹のところのマーク、商標登録されてます。」
溜乃:「そんなバカな!そんなはずありません。」
鈴木:「でも実際に登録されてるんです。」
溜乃:「だってオレ…私はちゃんと確認しましたよ。あれ、すごく大変な作業なんです。分かりますよね?」
鈴木:「はい、もちろん。多分その時は登録申請中だったのでしょう。出願して1ヶ月ほどは出願中のものは見れませんからね。
溜乃さんはその間に確認されてたのでしょう。」
溜乃:「それだと分からなくてもしょうがないですよね。でも、同じマークになったのは偶然ではないでしょうか?
それに、リリースしたゲームには“トマりこちゃん”は使ってませんし。問題はありませんよね?」
鈴木:「私から見ればすごくデザイン性に優れていて、なかなか個性的なマークに見えますが、確かに、偶然という可能性は否定できません。
では、登録者の“間中 優媛”さんという方はご存知ですか?
それから、申請日は私達がプレゼンを受ける少し前になっています。
これも偶然でしょうか?」
溜乃:「…間中 優媛さんは確かに私の知人です。でもこのキャラクターとこのマークは、随分前から私が考えてたものなので、彼女が私の作品を見て、彼女の方が盗作して勝手に登録申請したのだと思います。」
鈴木:「そうですか。では、企画段階ではメインキャラクターが“トマりこ”ちゃんだったのに、リリースの時、人参の“カロキャロちゃん”に変更されてますね?
そんなに前から大事にされてたキャラクターを簡単に変更してしまったんですか?
さらに言うと、“トマりこちゃん”ではないのに、なぜ盗作という話が出ているのでしょうか?」
溜乃:「そんなこと分かりません!
キャラを変更したことはすみません。でも、簡単に変更した訳ではありませんが、トマトのキャラクターは世の中に多くあるので、スタートのメインキャラクターを人参に変えたいということは、お伝えして了承されていると思いますが。
きっと間中さんが、自分が考えたと勘違いされたか、私に振られた腹いせで私をはめようとして盗作だと騒いでいるのだと思います。」
山田:「キャラクターの変更に関しては聞いています。」
鈴木:「もちろんキャラの変更が問題なのではありません。
リリースまで時間がありませんでしたので、万が一間中さんからクレームが来たらと想定して、様子見のために変更されたのではありませんか?
最初から、“盗作だ”と言われることを想定していたのでは?」
溜乃:「違います。企画の部署で検討した結果です。
盗作って言われるとは思ってもいませんでした。」
鈴木:「分かりました。それでは我々の方で、消されたかもしれない間中さんの、黒い点の場所のマークを復元しても差し支えありませんか?
あ、失礼、そんなマークなんて最初から存在しないので復元なんてできませんよね?もう一度確認作業してもよろしいですか?」
溜乃:「それは…、そのパソコンがないと私が仕事できないので、困ります。」
鈴木:「大事なことですよ?」
溜乃:「ですが…。」
上野:「溜乃!これ以上はやめなさい!見苦しい!
お前以外、ここにいる人は皆、溜乃が黒に近いグレーだと思っているぞ!」
溜乃:「ぐっ…。」
溜乃の顔が歪んだ。
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