第29話 Ao×Takumiのキズナ

「んー・・・」


初めて今年は応援チア部として、チアの地区大会に出ることになった。それ故に、私たち3人はすごい悩んでいた。顧問の先生にも必死に相談して、本気で練習していたの。でも、この練習場に本来いるべき私の相方、たくみはいない。自分の殻に閉じこもったまま、部屋から出てこないから。


「大会は1週間後・・・」


「たくみ兄さん、見にきてくれるかな・・・」


この時点で大会までかなり時間がなかった。たくみがいない中で、私たち部員は最高のパフォーマンスなんかできっこない。と思っていたその時・・・


「ねぇね!!」


あいちゃんの大きな声がした。そしてその次の瞬間・・・。


「帰ってきたぞ・・・愛央!」


「えっ・・・!たっくん!!??あいちゃん!?」


「悪かったな。しばらく部屋にこもってて」


「たっくぅぅぅん!!!うわああああん」


私は思わずたくみに抱きついて泣いてしまった。だって、殻に閉じこもって部屋から出てこなかったたくみが来ただけで、それだけでも嬉しくなって・・・。


「よーがんばったな。瀬奈も、明里も。俺は兄失格じゃ。こんだったら・・・」


「たったー、やっとへやからでた!」


「たくみ・・・なんで今・・・?」


「来週大会だべ。お前の姿見ねぇであじすんだよ」


「え・・・」


「あんたが一番応援したい人がいなかったらあにする気だったんだ?」


「そのために来たの・・・?」


「そーゆーこと。ほら、ハーフアップにつけたリボンもボロボロじゃねぇか。新品用意したから、これ付けて明日やってこい」


そう、実はこれを見越してたくみは毎日夜遅くまで練習する私のために、新しいチアのリボンを作っておいてくれた。学校指定の赤いユニフォームに合うよう、たくみが渡してくれたのは赤のリボン。よく見ると、筆記体で「Ao×Takumi 11.20」って書いてある。私はこれのために、わざと自分を追い込んで部屋にこもっていたのだと気づいたが、たくみは思わずそのことを口にするのだった。


「たくみ、なんで私とたくみの名前入ってるの?」


「離れ離れでも、大丈夫っていうお守り。これ作んのに2週間部屋に篭りっぱなしだったんだぞ?」


「えっ!!ありがとう!!」


そう、たくみが部屋に2週間こもっていたのは、私の大会のためにチアのリボンを手作りしてくれていた。前と同じ形、だけど少したくみのお守りが入ったリボン。どうしてもこのリボンを取りたくなくて、ずっと付けたまま家に帰ってきた。


「たくみ・・・!好き!」


「大会、思いっきりやれよ」


「うん!」


アレから1週間経ち、初めての大会の日。たくみは私の髪をいつも作るハーフアップと同じ位置で高めのポニーテールを作り、昨日渡してくれたリボンを付けてくれた。


「これで完璧かな」


「すごい・・・」


「10年前の小学生の時、お前が「たっくんのチアリーダーになる!」って言って習い始めたはずなのに・・・今はお前が部長か・・・」


「たくみっ、やめてよ。もーっ」


「うそうそ。ほれ、飯食っていくぞ」


「うん!」


お腹いっぱいにご飯を食べて、少し体を柔らかくしてから家を出た。いつもの道なのに、なぜか新鮮。ユニフォームを来たまま、いつものようにポンポンを両手に持って学校へ行く。


「ポンポンをきらきら振って、こうやって・・・」


「いつもの5倍、可愛くなったな」


「えほんと?」


「うむ。どれ、一発俺のこと応援してみ」


「うん・・・Let's Go!たくみ!You are No.1!Foooooo〜♪」


「普段のチアより気合い入っててよかった」


チアの大会とはいえ、練習台にしてくれるのがお兄ちゃんのたくみ。私が応援すべき人は、いつも横にいてくれる。学校に着く、と大会の場所までバスで移動し、みんなそれぞれ準備にかかった。私は瀬奈、明里と3人でたくみに髪をセットしてもらい、4人で円陣を組むことにした。


「たくみが結んでくれたポニテが崩れてない!!」


「ガッチガチに固めたんだからなぁ。愛央が本気で踊ってる姿見たくてしたがなかったよ」


「えへへ。必死に家で練習したもんね」


「よいしょっと。3人分、準備完了」


「たくみ兄さん、ありがとう!」


「じゃあ・・・円陣組みましょう!」


「チーム名はたくみさんが決めたの?」


「そうだけど、ここは部長・・・いや・・・大事な妹、愛央に頼むか!」


「うん!」


「Are you ready?」


「Yes!!」


「Let's Go! Luminas!」


Luminas。応援チア部・・・ではなく、私たち4人のチーム名。方南高校応援チア部は、Uranusというチーム名に決まった。


「たくみ!」


「あ?」


「・・・いってくる」


「・・・いってこい」


たくみにそう言われて、送り出してもらった。あとはもう、みんなを信じて踊るだけ。


「続きまして、初出場!方南高校、応援チア部Uranusのみなさんです!お願いします!」


たくみは黙って1階の客席で見ていた。18人で最高のパフォーマンス、できるかな・・・。







私たちの出番が終わって控室に戻ってくると、"いつもの相棒"が待っていた。


「お疲れ様でしたー!」


「お疲れ様でした!」


「ねぇね!」


「おかえり」


「たくみ!!あいちゃん!!」


たくみがあいちゃんを連れて待っていたの。思わず部員よりも先にたくみにぎゅーってしてしまった。


「頑張ったなほんとに」


「うん・・・!」


「ねぇね、かわいかった!」


「ほんと恥ずかしいよ・・・!」


「たくみさん、愛央が泣いてたの気づきました?」


「え?あそいや・・・って、え待って泣いてる?」


「緊張がほぐれたのかもね」


「うっ・・・うわあああん」


「よしよし。・・・あんたの思い、ちゃんと伝わってたぞ」


「たくみん・・・」


「よし・・・みなさんお疲れ様でした!愛央ぶちょうはこっちで処理しとくんで、解散にします!」


「はい!」


部員たちは帰宅し、残ったのはLuminasだけ。ずっと泣いてて気づかなかったけど、実はたくみがあるものを取っておいたみたい。


家に帰ってくると、瀬奈と明里が花道を作って迎え入れてくれた。普段は私も加わるのに、今日は2人で花道を作ってくれた。


「たくみ・・・っ」


「んだ?」


「愛央がセンターにいたの気づいてる?」


「あぁ、真ん中の小さかった子でしょ」


「うん!」


「俺が作ったリボンで見分けがついた」


たくみ華やかに踊っている中でも、私の存在をちゃんと気づいていた。うちは嬉しくて、もうたくみにべったり状態。そういえば、これだけべったりなのっていつからだったっけ・・・?


「ねぇたくみ」


「あ?」


「いつもたくみのおかげで練習できたけど、今日はたくみのキズナがあったから踊れた!」


「・・・は?」


「つまり、たくみさんと愛央のキズナが愛央の頑張れた理由ってことだよ!」


「あーはぁーそういうことか」


たくみ、ほんとありがとっ。だいすきだよ。

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