第28話 求婚
謁見の間で女王が見せた行動により一同は騒然としたが、その後、少しして彼女が元の玉座へ戻ったことによりどうにか場は繕われた。
それから跪いて謁見らしい謁見が行われ、俺はシャルル討伐の報告と、それからオドマン殺害について釈明した。ここに来て同行してきた魔術師達から些か非難めいた声も上がり、女王の側近達も渋面をしていたが、俺を恐れているのは明白だった。
「そもそもロウグ様の戦死により討伐軍の戦線は崩壊しておりました。あのまま彼らだけで戦っていても敗色は濃厚だったでしょう。守りを固めた敵に対し戦線が膠着し、そこを北から到来した別働隊に挟撃されて終わっていたはずです」
「……コノエ、事実か」
女王は敢えて魔術師達ではなく、自らの弟に問うた。彼は率直にそれを肯定する。
「その状況を独力で翻した俺に難癖をつけて拘束しようなどと、手柄を妬んで不埒な思惑があったに違いありません。何より反乱が勃発する程に世間が荒廃したのも討伐軍の編成が遅れたのも都で暴動が起きたのも、全てが不手際だらけだ。ここに来るまでの間、群衆はシャルルの首に目もくれず専ら彼の死体ばかりを指差して喜ぶ始末です。他者への裁きによってでなく、自らの首で示しを付けて頂く必要があったのですよ」
オドマンの不手際と限定はしない。それで彼らにもこちらの意は伝わるだろう。
「エデン様には残念ながらこの、庶民の理屈が伝わらず力による解決を余儀なくされましたが」
「報告にもありましたね。一対一の決闘で彼を破ったのだとか。こちらも事実ですか?」
ナイアに問われ、後ろの貴族連中が頷くと、その隣の女王がどことなく嬉しそうだったのは気の所為だろうか。
シキが彼女に対し、意見を述べる。
「陛下、此度の戦で失われた人員を考えれば彼の力は必要かと愚考します。ここは赦免なさるのが賢明かと」
「赦免ではなく、そもそも罪に当たらないという話をしているのであろう。良いぞ。これからもその力で妾と下々を助けておくれ」
「誠心誠意、励ませて頂きます」
「赦免といえば、反乱に加担した捕虜達の処遇もあったな。サコン、何か希望はあるか?」
「可能な限り寛大な処置で迎えてやって頂ければと」
「……そうしよう」
貴族の中にはまた渋面を作るものもいたが、女王はナイアと一度目配せし、彼女が頷いたのを見てそう答えた。
「さてもう一つ、重大な問題であるが、今回の働きに対する褒美は何が良いであろうか。無論、今尚北西に残り尽力しておる者達にも報いねばならぬが、命じられるまでもなく一人敵陣に乗り込み、あわや敗戦の憂き目となりかねぬところを救った英雄に何を与えれば相応なのか」
「叙爵を以て報いるのが良いかと」とナイア。女王も満更ではなさそうだった。
「恐れながら、私から一つ要求が」
「申してみよ」
「貴方の男になりたい」
俺の台詞に、謁見の間にいる皆が目を剥いた。誰かが異を唱える前に、言葉を続ける。
「今、王族は貴方一人。必然、世継ぎが出来るあてもなく、王室はとても不安定だ。私は貴方の隣で支えとなりたい」
真っ直ぐに見据えられた視線の先で、女王はとても悩ましそうだった。
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