第6話
レコーディングエンジニアとは、歌の録音や編集をして、CDとして完成させる人らしい。
「よろしくお願いします」
と挨拶して、早速スタジオに入った。
厚くて重い扉を開けて中に入ると、たくさんのつまみのついた大きなミキサー、その上に小さめのモニタースピーカー、マックのノートパソコンが載せられていて、窓越しにマイクやドラムセットが置いてある部屋が見える。
よくテレビで見るやつと同じだ。
「これが伴奏のデータです」
勿来氏が金杉さんにメモリーカードを渡す。
「無事に読み込めるといいんですが...」
え?読み込めない可能性があるってこと?
金杉さんは、マックでpro toolsというソフトを立ち上げて、伴奏データを読み込み始めた。
ギター、ベース、ドラムとマルチトラックのデータを読み込むのに結構時間が掛かる。
ピコ。
何とか無事に読み込めたようだ。
「あー、よかった。第一の難関は乗り越えましたわ」
おいおい、乗り越えられなかったら、今日のレコーディングは中止だったってこと?
大丈夫かな...
手慣れた感じで、レコーディングの準備を進める金杉さん。早速隣の部屋に連れていかれて、First Takeみたいなマイクの前に立たされた。
上から吊り下げられている所謂コンデンサーマイク。手前に付いてる黒くて丸い網もテレビでよく見るやつだ。
この網ってどういう効果があるのかな?
「じゃ、そのヘッドホン着けてマイクに向かってしゃべってみて」
「あー、あー」
自分の声がヘッドホンから聞こえてくる。
ちょっと不思議な感じだ。
自分の声を聞きながら唄うのってどうなんだろう。
「じゃ、準備ができたら早速唄ってみようか」
え、もう唄うの?
「取り敢えず最初から、練習する感じで唄ってみて」
「はい」
ヘッドホンから「沈丁花」の伴奏が聞こえ始める。
かなり練習してきたつもりだけど、さすがに緊張する。
歌い出しで躓き、曲に乗れずに声もうまく出ないままAパートを歌い終わる。
「ちょっと声が出てないみたいだね。もう少し思い切り唄ってみてもらえる?」
「あ、はい」
やっぱり厳しいか。
もう一度唄ってみるけど、最初とあまり変わらない...
さて、どうしよう。
「一回通しで唄ってみようか」
「分かりました」
一番を全部唄ってみることになって、声の高いところやこぶしを効かせるところを唄うと、少し声が出てきた気がする。
「うん、今のは結構出てたね。もう一度最初から唄ってみようか」
「はい」
よかった。大丈夫そうだ。
それから40分くらい掛けて「沈丁花」を録音した。
途中、明らかにミスったところが何ヵ所かあったけど、後でうまく繋げてもらえるのかな。
続けて、僕が作った「僕の中のキミ」を録り始めた。
さすがに自分で作った曲なので唄いやすかったけど、確かに最初のところは息継ぎがなくて苦しかった。
単調過ぎるのも何なので、ハモりも入れようとは思ったものの、基本の2音ずらすハモりがうまくハマるところがなかったので、1オクターブ上のキーを入れてみることにした。
という感じで、こちらも40分くらいで録り終わった。
残り6時間強、また細かいところを録り直して行くのかと思っていたら、取り敢えず僕の役目は終わりらしい。
そこからはレコーディングエンジニアである金杉さんがひたすら編集することになった。
歌と各種の楽器の音に色々なエフェクトを施していく。
更に声の高さについても編集で変えてしまい、明らかに音程をミスったところも、不自然なく高さを直された。
その歌のイメージと歌い手の思いを読み取って、1音の4分の1くらいまでコントロールするらしい。
音程って、そんなに細かかったんだね...
道理でアイドルの歌がうまく聴こえる訳だわ。編集でここまでうまく唄ってるようにできるのね。
そんな作業を勿来夫妻と後ろで見守りながら、曲がどんどんキレイに、そして深みを増していくことに感動していた。
レコーディングエンジニアってスゴイ!
そして、朝の8時になる少し前にすべての作業が完了して、マスターCDができあがった。
「金杉さん、ありがとうございました!感動しました」
「そう?喜んでもらえてよかったよ」
勿来さんからマスターCDを渡されて、
「お疲れさまでした。ではこのマスターCDを基にしてCDのプレスをお願いします」
え?
CDのプレスってどういうこと?
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