第5話
何とか曲を作る環境ができたので、歌詞を考え始めた。
ワンフレーズとなる十数文字を並べていく。
語尾とかで韻を踏めたりすると、歌に深みや勢いが付くらしいけど、まずは意味が通る歌詞にしたい。
巷には意味の分からない歌詞の歌がたくさんあるけど、どうせなら他人が聴いて心が動く歌詞を書いてみたいと思った。
歌詞ができたら、それに合わせてメロディを作っていく。
メロディには、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、Cメロ、アウトロというのがあって、基本的には順番が決まっているらしい。
そんなの関係ねぇ!と作ってもいいんだけど、まずは基本に合わせて作ってみよう。
イントロとアウトロは歌に入る前の前奏と歌が終わった後のところなので勿来さんにお願いするとして、まず曲の入りであるAメロを考える。
基本的にはおとなし目に入っていくのが基本。
次にサビへの導入となるBメロ。
Aメロとサビを繋げる盛り上げ役と言ったところで、少しずつ盛り上げていくようなメロディにするのが基本。
そして、曲のテーマでもあるサビ。
ここで一気にその曲で表したいことを表現する。
後は、ちょっと曲調を変えてから最後のサビに繋げたい場合はCメロなんかも作る。
取り敢えず、Aメロ、Bメロ、サビの繋がりを考えながら作ってみよう。
どちらかというと楽しげな曲にしたい。
そう言えば、拍子とテンポという概念もあるけど、まあ基本の4分の4拍子で、テンポ80くらいで作って、後から調整すればいいよね。
実際に作るときには、パソコンのDTMソフトで拍子とテンポを設定して、メトロノームを流しながら、キーボードでメロディを入力する。
最初は全然まともなものができなかったけど、何度も何度も繰り返していく内に、なんとなくイイかもと思えるメロディができてきた。
ついでにドラムパートも入れてみたら、結構ちゃんとした曲になってきた気がした。
初めてにしては、いいんじゃないかな。
ということで、何とか3週間ほどで曲を作り、音源とMIDIデータ(曲をパソコンなどで演奏させるデータ)を勿来さんに送った。
それから2週間ほど経って、伴奏ができたと連絡があり、また例のカラオケ店で確認することになった。
「どうもどうもどうも。一応伴奏作ってみたんで、合わせて唄ってみてもらえます?」
チャラララー、ラララー
うーん、柔らかい伴奏だな...
ドラムパート、全然変わっちゃって、あまり曲に合ってないような...
ま、でも唄いにくいとか、全然違うということはないな。さすが、プロということか。
「清水坂さん、曲を作ったのは初めてなんですよね?」
「はい」
「最初んとこ、息継ぎできるところが全然ないですけど、大丈夫でっか?」
「息継ぎ...」
息継ぎなんて考えてなかった。でも今から変えるのは難しそうだな。
「何とかなると思います」
「そうでっか。なら、このまま行きましょか」
『沈丁花』の方の伴奏データも一緒に受け取って、実際に唄って確認することにした。
家で唄う訳にもいかないので、次の日またカラオケ店に来て、イヤホンで聞きながら唄ってみた。
相変わらず演歌は微妙な感じだったけど、何度も唄ってみる内に、ちょっと吹っ切れてきて、この曲もうまく唄ってみようと思えてきた。
自作の方は、確かに最初の方で息継ぎできず、なかなか辛い感じになったけど、まあ、自分で作ったものなので、ノリはよく唄えた。
ちなみにこの間、中西さんには全く会えずにいた。
全然お店に出ていないようだけど、どうしたのかな?
こうして何度か練習して、間奏なんかを調整して、クルマに乗りながら大声で唄ったりして、ついにレコーディングをすることになった。
レコーディングは中之島サンプラザの地下にあるスタジオで行うことになった。
利用料金が夜中の方が安いらしく、深夜0時からスタートとのこと。
仕事を終えてスタジオに向かうと、中之島サンプラザの外では何やら若者の集会のような感じになっていた。
何だろうとよく見てみたら、みんな青いサッカー日本代表のユニフォームを着ていた。
日本代表の試合を皆で観るパブリックビューイングらしい。
こんな夜中からよくやるな。って、これからレコーディングってのも普通ではないか...
スタジオに着くと、既に勿来氏と奥さんが来ていた。
「おつかれさまです。喉は大丈夫でっか?」
「そうですね。まだ時間があるので、ちょっとカラオケに行って、喉を作りたいです」
「分かりました。すぐそこにあるんで行きまっか」
カラオケ店に入ると、よく唄う○ピッツの歌を何曲か唄った。何曲か唄うことで喉のウォーミングアップをする。ただし、あまり唄いすぎると逆に声が嗄れてしまうから、適当なところで終わらせる。
カラオケを終えてスタジオに戻ると、男の人が待っていた。
「この方は金杉瑛二さん。レコーディングエンジニアです」
勿来さんが紹介してくれたけど、レコーディングエンジニアって何?
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