『TV特番 新宿ジオフロントシティ 24時間密着』より 前編

「はい。

 私は今、新宿の地下にある工事現場に来ております。

 『新宿ジオフロントシティ』。

 新宿新幹線地下ホームを中核とした新宿の地下大開発を視聴者の皆様にお伝えしましょう。

 案内してくれるのは、都庁都市整備局の〇〇さんに来ていただいております。

 〇〇さん。今日はよろしくおねがいします」


「はい。よろしくおねがいします」


「早速ですが、新宿ジオフロントシティは新宿新幹線地下ホームを中核とした地下大開発と私は視聴者の皆様に言ったのですが、具体的にはどういう事をしているのでしょうか?」


「はい。

 新宿ジオフロントシティは、新宿地下で工事が進められている複数の施設をまとめた呼び名です。

 まず、先ほどからおっしゃっている新宿新幹線地下ホーム工事。

 次に、その工事と並行して行われる大深度地下施設建設工事と新宿地下にある地下街および地下道をできるかぎりまとめる地下街地下道整備工事。

 更に、新宿地下へのアクセス鉄道/道路の建設工事の三つが主な工事になります」


「ここは新宿駅地下にある新宿駅地下ホーム工事現場ですね?」


「はい。

 元々新宿新幹線は1970年代に計画されたもので、その時に駅を造るスペースも用意されていました。

 ですが、巨額な建設費用がネックとなって計画が宙に浮いていたんです」


「それに資金をだしたのが、桂華グループ傘下の私鉄である桂華鉄道ですね?」


「そのとおりです。

 この新宿新幹線は桂華グループが事業主体となっていますが、運営は第三セクターである新宿ジオフロント開発株式会社が行っています。

 また、事業は東京都及び国土交通省の全面バックアップの元、日本の名だたるゼネコンがJVを組んで、24時間365日、三万人もの人員が全工区で工事を行っているのです。

 これと同じ規模の工事は、同じ桂華グループの桂華鉄道が行っている新常磐鉄道の地下工事ぐらいなものでしょう」


「凄いですねー

 気になっていたんですが、地下を掘るという事は掘った土はどうなるのでしょうか?」


「実は、この工事の最大の難題がその掘った土なんですよ。

 新宿新幹線はその全線の殆どが地下になっています。

 そのため、工事を始めやすかった赤羽側からトンネルを掘って、そこから土砂の大半を出しているんですよ。

 出した土砂は東京湾に持って行き、埋め立てに使っています」


「大半?

 全部じゃないんですね?」


「ええ。

 さすがに赤羽側からトンネルがくるのを待っている訳にもいかないので。

 新宿側にも採掘抗を掘る事にしました。

 それが、大深度地下施設建設工事です」


「では、そちらの工区も見せていただきましょう……

 ……という訳で、大深度地下施設建設工事現場にやってきました。

 ここは新宿中央公園につくられた採掘抗ですが……凄いですねー」


「建設資材及び土砂を運ぶのに深夜限定ですが、都営大江戸線を利用しています。

 この工事に合わせて都営大江戸線の完全環状化を目的とした工事も行っているんですよ。

 とにかく新宿側は既に地下が大規模に開発されていて、どうやって土砂搬出の経路を確保するかが問題でした。

 技術進歩による大深度地下の活用がこの工事を可能にしたと言っていいでしょう。

 工事関係者の居住施設もこちらにて確保しています」


「ここが、工事関係者の居住施設の一つにお邪魔させてもらっていますが……ちょっとしたビジネスホテルみたいですね」


「六畳の部屋にベッドにTVに冷蔵庫。

 ユニットバスにインターネット回線完備。

 ビジネスホテルと違うのは、窓がない事でしょうか?

 地下ゆえに逃げ場がないから火については取り扱いを厳格化させて喫煙所も用意しているんですよ。

 食事は食堂に行ってもらう事になります」


「なんだかホテルみたいですね?」


「ええ。

 工事終了後に、これらの施設は民間に売却する予定なのですが、宿泊施設及び低所得者向け居住施設になる予定なんですよ。

 完成のあかつきには、この地下空間に一万人近い住人が住むことになるでしょう」


「今度は、地下街地下道整備工事の現場に来ていますが……ここは広いですねー」


「大深度地下に三万台もの駐車場。それに伴う物流ゾーンやオフィス街の設置がこの工事の中核になります。

 現在は新宿新幹線工事がらみの資材なんかをおいていますけどね。

 出口は複数個所設置されて、首都高とも繋がる予定なんですよ」


「首都高ですか?」


「ええ。首都高中央環状線の工事も進められています。

 この工事も新宿ジオフロントによって大深度地下に工事スペースが確保できた事によって大きく進んでいるんですよ」


「なるほど。

 これらの工事で大活躍しているのが、パワーアシストスーツなんですね?」


「はい。

 新宿ジオフロントは既に開発が進んでいる新宿地下街や、眠らない街である新宿の経済活動を邪魔しないように大規模機材の投入を制限せざるを得ない状況でした。

 それを解決できたのは、このパワーアシストスーツのおかげです。

 現在、この工区をはじめとして都内にて八千ものパワーアシストスーツが使用されています」


「凄いですねー。

 それにしても、工事関係者も多く見かけますが、警備員の人たちも多くないですか?」


「……少し前にニュースになりましたが、同時多発テロに連動して、この新宿ジオフロントがテロの対象になった事がありました。

 それは未遂に終わったのですが、それ以後警備が強化されました。

 更に、成田空港テロ未遂事件で、もう一段上がって、出入り口及び工区出入り口に警備員をおいて警備を行っております。

 ちなみに、警備員が着ているパワーアシストアーマーはフルフェイスに赤外線ゴーグルをつけているので、私たちは『赤眼鏡』なんて呼んでいますね。生物化学兵器に対応する為にヘルメットを装着しているんですが、地下ゆえに停電が起きますと真っ暗になりまして……」




────────────────────────────────


完 全 な る 趣 味 回 !



JV

 ジョイントベンチャー。建設業における共同企業体。

 大規模工事となると、大体ゼネコンはこれを組みその下に下請けや孫請けをという形で工事を進める。


埋め立て工事

 このあたりうまくできていて、巨額建設費用回収のために土砂を利用した埋め立て地開発を行う。

 この時期だと、羽田空港の滑走路埋め立てか中央防波堤外側埋立地に使われている可能性が。


ジオフロントの見本

 清水建設『アーバン・ジオ・グリッド構想』

 大成建設の『アリス・シティネットワーク』

 土地高騰によるバブルのあだ花が始まりだったとは……


首都高中央環状線の工事

 山手トンネル。

 ノリで始めた工事なんだが、そりゃ都が恋住政権と喧嘩してもお嬢様守るわ……


パワーアシストスーツ・アーマー

 作業機械をスーツ、警備用機械をアーマーとこの物語では定義。

 レイバーよりATに近いのかもしれない。


八千台

 『機動警察パトレイバー the Movie』。

 HOSは多分これから作られる。

 使われているのは、ここと新常磐鉄道秋葉原-東京の地下工事。

 

赤眼鏡

 『赤い眼鏡』

 冒頭数分だけ見る価値がある映画。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る