帝都学習館学園七不思議 学生寮のざしきわらし その1

「そういえば、寮ってうちの学校あったっけ?」


 そんな事を思ったのは、クラスの結構な人数が寮暮らしであるという事を知ってからである。

 まぁ、うちの側近団にも友達みたいなものができ始め、『寮に遊びに来て』なんて会話を私が耳にしたからである。


「結構ありますよ。

 たとえば、ご学友の栗森志津香さまは寮の一つである競道会館の女子寮にお住まいになっていますし、高橋鑑子さまは苗木会の女子寮にお住まいになっていますよ」


 留高美羽の説明にへーと手をうつ私。

 帝都学習館学園に通う生徒は日本各地からの華族や財閥の子弟であり、中等部になったらその子弟に側近がつく。

 当然、地方に基盤のある人が上京してという形になるので、側近の住居というのは昔からの問題だったらしい。

 一昔前ならば書生なんて呼ばれていた人たちがこれになるのだが、それぞれの出身派閥ができてくるとその会館が寮という事で使われるようになり、それだけでは追い付かなくなったので、それぞれの派閥が男女の寮を建ててという流れだったりする。

 初等部が一学年3クラス100人の6学年で600人、中等部が倍の一学年6クラス200人の三学年で600人、高等部がさらに倍の一学年12クラス400人の三学年で1200人。

 その上の大学と大学院まで入れると帝都学習館学園の生徒人口は一万人に届く。

 そのためか、帝都学習館学園の周辺部にはそれらの寮に加えて、高等部の特待生狙いや大学生向けのマンションやアパートなんかが建てられてちょっとした学生街みたいな感じになっている。

 とはいえ都内という事もあってそれ以外の人たちも多くいる訳で、あくまでそういう風情が残っているという景色の話である。


「うちはどうなっていたっけ?

 寮という話は聞いていないけど?」


「今お嬢様がお住まいの九段下には交代で住み込み、以前お嬢様がいらした田園調布の屋敷を私たちの基本住所としております。

 警備と高等部以降の側近団形成に合わせて帝都学習館学園近くの中古マンションを一棟購入しており、校内にも警備のプレハブ棟がございますので、何か事が起こりましたら最初はプレハブ棟、次に校外のマンションにという形で退路は確保しています」


 いや、退路の話じゃないと思ったが、まぁ拠点というか住居の話なので反論しない私。

 プレハブ棟にすら休憩室があるので、側近団の休憩や歓談に使っているというのを私は留高美羽から聞くことになる。


「お嬢様自身が私たちを育てて桂華グループの人材にという事でしたので、交流を通じて私たち自身を高めるというのも任務の一つと考えております」


 彼女たちもちゃんと考えているんだなぁ。

 縁ができるという事は選択肢が増えるという事だ。

 当人たちには言ってないが、新しい縁に導かれて私の元を去るのならばそれもまたよしかなと思っていたりする。

 身もふたもない話だが、ゲームどおりに私が破滅しても私の破滅に付き合う必要はないのだ。


「けど、寮の生活ってちょっと憧れるなぁ。

 今度、栗森さんか高橋さんの寮に遊びに行ってみましょうか」


 この時、うかつにも私のこの一言が新しい七不思議に私たちを誘うとは思っていなかったのである。


 

「いらっしゃい。

 とりあえず上がってちょうだい」


「おじゃましまーす」


 私、明日香ちゃん、蛍ちゃん、朝霧薫さん、華月詩織さん、待宵早苗さん、栗森志津香さん、留高美羽の8人が高橋鑑子さんのお部屋訪問というイベントが起きる。

 高橋鑑子さんは入り口で出迎えてくれた。


「いらっしゃい。

 狭いけど、お部屋訪問という事で恥ずかしいけどどうぞ」


 高橋鑑子さんの部屋は四畳半のワンルームで、風呂とトイレは共用という寮では一般的なタイプの部屋である。

 TVにベッドに机にハンガーラック。部屋の中央には布団を片づけたこたつが鎮座している。

 机にはCDプレイヤーが置かれ、木刀袋にしまわれた使い込まれた木刀を無造作に立てかけているのが高橋鑑子さんらしいといえばらしい。


「あら。思ったより綺麗ね」


「寮生活だから、掃除については見回りがあるのよ。

 不衛生にして、あれとか出たら駄目でしょう?」


 私の言葉に高橋鑑子さんは嫌そうな顔をしてあれについて触れる。

 あれというのは黒くてヌメヌメして飛ぶあれである。

 世の女子であれが嫌でないと言える者はほぼ居ないだろう。

 もちろん、全員がいやな顔をしたのは言うまでもない。


「あれ、出るの?」


「他所の男子寮とかもっとひどいわよ。

 あれを食べるために、ネズミが出たとか」


「うわぁ……」


 お部屋訪問が目的ではあるが、この部屋にこの人数は少々狭い訳で。

 談話室に移っておしゃべりタイムとなる。

 メイド姿の留高美羽がお茶とかお菓子を用意する。


「談話室お借りします。

 これ、よろしければどうぞ♪」


 この人数の上、私や薫さんは上位の華族でもあるので、それとなく様子見に来る生徒がちらほらと。

 そういう人たちの心象をよくするための賄賂なので、外には帝西百貨店のトラックが横付けされて、運転手が寮生全員分のケーキを運び込んでいるはずである。


「あれ?

 おかしいな?

 数が一つ合わないぞ?」


「どうしました?」


「数が一つ足りないんですよ。

 全員分積んできたはずなんですが」


 運転手と留高美羽の話に高橋鑑子さんが割り込む。

 他の寮生もああなんて顔をしているから、多分何度かあったのだろう。


「ああ。

 きっとざしきわらしが食べちゃったのよ。

 よくあるのよねー」


(!?)


 私と明日香ちゃんは、ざしきわらし……じゃなかった、蛍ちゃんを見た。

 蛍ちゃんの手には、留高美羽の持ってきたかごから出た彼女の手作り品であるシュークリームがある。

 なくなったと騒いでいるケーキではない。


(ぷるぷる……)


 蛍ちゃんは首を振ったが、私と明日香ちゃんのジト目はしばらく続いた。

 かくして、濡れ衣を着せられた蛍ちゃんは、汚名返上の為にもこの犯人を捜すことを決意したのである。




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学生街

 安くて量の多い食堂や古本屋やゲーセンやカラオケ店なんかがアパートやマンションの間に集まっているんだよなぁ。

 私の学生時代はコンビニがどんどんできてゆく最中だったので、夜中に気楽に買い物に行けるのがうれしかったなぁ。



あれとネズミ

 汚部屋チェックでよく言われるのが、ハエが沸くのが第一段階、Gが出るのが第二段階で、そいつらを餌にネズミが出てくるようだとかなりやばい。

 ごみはとにかく小まめに出しましょう。

 あと、食べ物の食べ残しはその日のうちに処理する事が大事。

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