中一の読書談義
本にしろTVにしろ映画にしろ、その作品の前と後という形で語られる化け物作品というのが出てくることがある。
ある種の過去のやり直しをやっている私だが、そういう体験をリアルタイムで味わえるのは悪くないなと思っていたり。
「瑠奈。
それ、何だ?」
「話題になっているから買ったのよ。
読んでみる?」
かくして、カルテットにその本が広がり、『アヴァンティー』で読書感想会が開かれる。
まずは栄一くんから。
「何だか、瑠奈を見ているような感じだった」
「あ!
私、あそこまで破天荒じゃないわよ!!」
「「「え?」」」
まて。
何で男子三人『何言ってんだこいつ』みたいな顔で見ているんだよ。おい。
私は自己紹介で、『ただの人間に興味はありません』なんて言わない。多分。
「そうだな。
桂華院はフィクションが現実にいるとどれだけ破天荒かというのを見せてくれたからな」
光也くんのトドメに私、撃沈。
まぁ、私からすればこの世界に色々言いたい事があるのだけど。
言えないよなぁ。あの小説の秘密を抱える三人の気持ちが良く分かる。
「けど、これは今までの作品と違うのは分かるよ。
ただ、なんて表現すればいいか、僕の言葉では思い付かないな」
裕次郎くんは言葉を探しながらこの作品を評価する。
その批評はある意味正しい。
98年に出たとある作品を頂点に、この時期のライトノベルは異能系と呼ばれる能力者バトルの全盛期だった。
この作品は、のちにアニメブレイクの果てに、2000年から2010年までの10年で代表される作品となる。
「私はこれとして、みんなはどんなのを読んでいるのよ?」
当然そういう話題で盛り上がる訳で。
栄一くんがコーラを片手に本のタイトルの名前を言う。
「俺はこの間出たシリーズの新刊だな。
あれの背景、色々と考えると楽しくてな」
背景?
たしかに楽しそうだと口を開こうとして、栄一くんに返そうとしたら、意外な所の背景が出てきた。
「あの小説に出てきた、企業。
あれ、瑠奈の会社と被るんだよな」
「あー。
たしかにあれ堂々と個人商店と書いていたわね。
けど、その個人商店からは卒業する予定です」
『世界の敵』とか中二病に届くワードが色々あるのに目を付けるのがそことは、ある意味栄一くんらしいな。
とはいえラノベでする会話でもないが。
「経済的巨人の果てに世界の敵ではなく、現在の敵となってしまった。
結構考えさせられるよ」
「そういう風に言われると、身につまされるものがあるわね。
私も、現在の敵と成り果てて排除されないようにしないと」
とはいえ、『最も美しい瞬間に殺す』のならば、多分時間だけは分かる。
ゲーム的に私が高3のあの瞬間だろう。
「ぼくはちょっと古いコミックを読んでいるよ。
戦国武将が政治家になったらってやつ」
あれか。
読んだ時は笑ったが、まさか政治に絡むと色々と違う景色が見えてくるもので。
まぁ、中一でする会話でもないが。
「総理が織田信長じゃないかって例えられているからね。
革命児って」
与党の破壊者である恋住総理のイメージがそれを大衆に見せているという点でメディアは彼と織田信長を重ね合わせていた。
その縁で、そういうコミックを知ったとか。
「俺はホラーもの?になるのか?」
「何よ。その疑問形?」
光也くんの返事に私は少し怯える。
ホラーは苦手なのだ。
「この本なんだが」
「あ。表紙は綺麗」
読もうとして踏みとどまる。
というか、サブタイトルが『神隠しの物語』の時点でまずい。
「妙なリアルさと民俗学的な薀蓄が面白いなと思って。
とはいえ、出てきた人間の末路はだいたいろくなものじゃない」
「だから『ホラーもの?』って訳ね。
読まなくてよかったわ」
安堵のため息をついた私はグレープジューズをごくごく。
ふと思ったので、私は光也くんに聞いてみる。
「もしかして、古本屋を経営している拝み屋とか読んでる?」
「棚にそろえているな。
桂華院よ。あれが大丈夫なのに、これはダメなのか?」
「あっちはまだ救いがあるじゃない。
ホラー系は救いがないからね」
そんな話をしていたら、栄一くんがにやりと笑う。
あ。これは私にとってあまりよくないやつだ。
「そういえば、瑠奈よ。
うちの学校にも七不思議があるらしいぞ」
「あー聞きたくない。
けど、オカルト絡みなら、なんとかなるわよ。きっと」
ちょっと意外そうな顔をする栄一くん。
たぶん私が怯えるというか嫌がるという顔を想像していたのだろう。
私の顔は、いやではあるが対処済みという顔だろうから。
「何のために、うちの特待生に神奈さんを入れたと思っているのよ。
そういうのが出たら、全部ぶん投げます」
「あー。
神奈の占い師かぁ……」
裕次郎くんが納得する。
魑魅魍魎が跋扈する政界だからこそ、神奈の名前を知っているのだろう。
なお、お狐様からもらった宝珠も持っているから大丈夫のはず。多分。
光也くんがぽつり。
オカルトでない話をここで振る。
「けど、その神奈だっけ?
あまり評判が良くないらしいぞ。
上級生の男子を取っ替え引っ替え付き合っているとか」
テーブルに頭をぶつけて呻く私はどうして責められようか。
後日当人を前に男遊びについてたしなめたが、当然彼女の男遊びは止む訳がなかった。
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瑠奈の本
『涼宮ハルヒの憂鬱』 谷川流 2003年 角川スニーカー文庫
角川文庫版だと、表紙にハルヒがいないネタからこの話を思いつく。
栄一くんの本
『ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ』上遠野浩平 2003年 電撃文庫
話題で出た企業の話は、『ブギーポップ・オーバードライブ 歪曲王』や『ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師』に出てきた寺月恭一郎の事。
彼が率いた巨大企業MCEの正式名称は『ムーンコミュニケーションズ・エンタープライゼス』。
裕次郎くんの本
『内閣総理大臣織田信長』 志野靖史 1994年 ジェッツコミックス
このあたり時代的にバブル崩壊からの政治の混迷から強いリーダーシップの登場を望んでいたという社会背景がある。
実際、この時期の内閣の入れ替わりに国民が疲れ果て、その果てに出てきたのが小泉総理であるというのを知っているのといないのでは、あの総理がどうして人気を得たかというのを理解できなくなる。
とはいえ、この時期の織田信長はまだ破天荒な革命児であった……
光也くんの本
『Missing』 甲田学人 2001年 電撃文庫
イラストに騙されて……それでも最後まで読んでしまったんだよ……ガチでトラウマである。
『姑獲鳥の夏』 京極夏彦 1994年 講談社
本で人が殺せると評判な厚みが特徴。
瑠奈のオカルトにおけるアウトとOKラインがなんとなくわかってもらえると思う。
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