サメ映画その反応
「やりすぎた」
「同感」
TV局の控室。
ただの息抜きのはずだった映画を世に出した結果、私はこんな所に監督と共に居る羽目になっている。
賞は取りたくないって言ったのに。
「知らなかったわよ。
あの映画、TV映画部門でエミー賞を掻っ攫ってくるなんて……」
「放映権を買ったTV局、ためらうこと無くプライムタイムで流したからな。
見事に引っ掛かったと。
この様子だとゴールデングローブ賞のTV映画部門も確定じゃないかって言われてるぞ。あれ」
全米視聴者数が5000万人を越えたらしい。
もっと見るものがあっただろうに。
「大体大統領が悪い。
映画を見て喉にものを詰まらせたなんてニュースが全米を駆け巡ったんだぞ。
苦戦するイラクとの戦争もあって、ほんの数分間だけだが強硬派の副大統領に核のボタンが移ったなんて馬鹿正直に発表しやがって。
『世界で最も核戦争に近かった数分間』ってドキュメントまで作られる始末だ」
混迷のイラク情勢から米国では急速に核攻撃容認論が広がりつつあった。
恨み以上の恐怖を与えると、次は我が身・我が地域が焦土と化す事を世界はアフガンで学びつつあった最中のこれである。
核戦争はサメ映画によってもたらされたなんてB級映画でもやらな……やりそうだから困る。うん。
実際に、副大統領は本気で押すかという所まで行っていたらしいが、側近の、
「これで押したら、私達ゴールデンラズベリー賞ものですな」
の一言で我に返ったという。
意識を取り戻した大統領がそれを聞いて大爆笑したのは言うまでもない。
国務長官と国防長官は笑うことすらできなかったらしいが。
「それを言ったら監督だって、あれだけでDVD販売するのはさすがに悪いだろうって、私のイメージビデオ追加撮りしたじゃないですか。
それでポルノ認定食らいかかって危うく発禁になるところだったなんてオチをつけちゃって」
「中坊のくせに無駄にエロいのが悪い。
平成のマリリン・モンローでも行けただろうよ。
君は彼女みたいな下積みはいらないが」
なお、煽るように演技指導をしたのはこの監督である。
それに乗った私も私だが。
結果、おまけのない廉価版も作られたが、おまけ版1980円に対し廉価版980円という設定なのにおまけ版は飛ぶように売れた。
ちなみに、古本屋の中古DVD販売だとアダルトのコーナーにこのおまけ版が置かれているのはちょっと凹む。
米国と違ってこのあたりのラインがガバなのが日本という国である。
「警察は猥褻物陳列罪で捕まえられないかって探ったらしいけど、華族の不逮捕特権で逃げられると諦めたそうですよ」
「米国のプライベートビーチで休暇を楽しんでいただけの君のどこが猥褻物なのやら」
もちろん警察のジョークである。
とはいえ、話してくれたのが九段下交番の警部さんなので、調べはしたのだろうな。きっと。
「で、B級映画のお約束ですが、模造品増えているそうですよ」
「有名税だ。
笑っておけ」
まだ半年も経っていないのに、『ラストサメサムライ』『サメ公爵令嬢』『ジョーズスレイヤージュニアハイスクールガール』『ゴーストサムライ公爵令嬢に惚れる』『サメサムライレギオン』……などなど。
公爵令嬢のワードも独り歩きし、『公爵令嬢VSキノコ人間』『公爵令嬢VSウサギ怪人』『メタルウーマン公爵令嬢』『ゴーストハンター公爵令嬢』……何でも公爵令嬢を付ければいいってものじゃないだろうに。
私達より高い制作費を掛けて作られたこれらの作品群は、パチもんと知らずに買ってしまってB級映画の闇に囚われた方々が詐欺として消費者生活センターに訴えるなんて微笑ましい事に。
「で、オファーが滝のようにやって来たのですが、どうしてくれましょう?」
「断れ断れ。
どうせ凡人が君の全てを撮れるとも思えん」
「そりゃ、出る気はないですけど、大きなところからのオファーはなかなか嬉しいものですよ。
超大作オファーもちらほら」
この頃から超大作の続編ものが多く作られてゆく。
超有名スパイ映画のヒロイン役は濡れ場があるからお断りしたし、スぺースオペラの議員役では共和制を維持する議員だったのをお断りの理由とした。
あの映画、議長側近一択でしょうに。目指せ総督。
あと、今年大ヒットしたファンタジーの祖の映画の続編というか過去作でエルフ役をオファーしてきたのは分かっていると思ったが、私は女優ではないのでお断りしている。
「アクションについてはほぼ十全でこなせると見せ付けたからな。
あのサメ映画は君の最高傑作となるだろうよ」
「この間まで、『帝都護衛官』が最高傑作って言っていたのに?」
私のツッコミに、監督は真顔になる。
そういう言葉が言えるのが、この人が超一流たる所以なのだ。
「そりゃそうだ。
常に作品を作る以上、最高傑作は常に未来にある。
忘れるな。
未来に最高傑作があると信じられている間は人は伸びるが、過去にあると気付いた瞬間から人は衰えてゆくぞ。
常に未来の最高傑作を目指せ」
ADが私達を呼びに来る。
スタジオでは、日本TV界の生き字引がその笑顔で私達を出迎えてくれた。
「今日は、日本と世界を騒がした映画の監督さんと女優さんをお呼びしました。
色々と楽しいお話が聞けたらと思っています」
間の抜けた音楽と共に始まったこの番組、司会の思った以上に容赦のないツッコミに私達は苦笑するしか出来なかったのは言うまでもない。
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テレビ映画部門という賞
条件としてプライムタイムで放映された事等。
見事に満たしてしまった。
核のボタン
レーガン大統領が手術の時、ブッシュ副大統領に8時間権限が移動した。
イメージビデオ
別名着エロ。
ジュニアアイドルの登竜門。
ちゃくちゃくとアイドルの道も踏破しているあたり監督の親心が伺える。
なお、ただ撮りたかっただけで、パッケージ撮影は頼みも呼びもしないのに写真家が勝手にやってくれた。
実に金のかかっていないDVDである。
この瑠奈の上を行く色気持ちの化け物が神奈水樹とイリーナ・モロトヴァである。
パチもん作品と大作オファー
あえて何も言うまい。
二人が出ることになった番組
『徹子の部屋』。
日本TV界の生き字引だから監督も逆らえず一緒に出る羽目に。
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