映画批評『サムライサメ亡霊VS水着公爵令嬢』
この映画は、口にお菓子や飲み物を含んでお楽しみください。
噴き出したら私の勝ち。
――始まる前の主演女優からのメッセージ――
サメ映画といえばB級映画の定番だが、あえてB級サメ映画を定義するならば、以下のような特徴がある。
1) 予算がチープ
2) ストーリーがチープ
3) CGがチープ
そういう意味で言うならば、今回紹介する『サムライサメ亡霊VS水着公爵令嬢』はこの要素全てを満たしている。
にも拘わらず、この映画冒頭の主演女優に多くの勝利をもたらしたのは、詰まる所監督と女優の力量の差である。いや、もっとはっきりと言おう。
超一流が真剣に取り組んだB級映画。
それがこの映画の正体である。
まず1)だが、公表された予算ではなんと主演女優の水着代とその日の食事代にガソリン代のしめて243ドルしか計上されていない。
たしかにそれだけ安く作れるなら凄いよなーと思うそこの貴方、これには実はからくりがある。
監督と主演女優はギャラを一切もらっていないのだ。
「え?
ギャラ?
いらないわよ。そんなはした金」
「俺は彼女が撮れれば十分だ。
評価も報酬も後からやって来るからな」
当人たちの言葉はその通りで、億は積まないとこの監督と主演女優は雇えない。
というか、億を積んでも断るのがこの女優の恐ろしい所なのだ。
撮影場所は、この女優が滞在していたカリフォルニア州のプライベートビーチで行われており、撮影機材は監督の自前、編集作業も監督が一人でやったのだから、本当にこれがタダでいいのかと言いたくなる作品である。
さらにつっこむと、この映画、最初から最後まで女優の一人芝居で展開されている。
おまけに、音楽はクラシック、しかも女優の生歌と版権切れの音源で片付けるといういい加減ぶり。
この映画のスタッフは以下の通りである。
監督
主演女優
脚本 監督&主演女優
音楽 主演女優
撮影 監督
編集 監督
以上だ。
昨今の巨大映画プロジェクトに真っ向から喧嘩を売るそのスタイルはTV放映時、関係者に頭を抱えさせた怪作として今でも語りぐさになる始末だ。
2)のストーリーだが、これがまた頭の悪いストーリーである。
公爵令嬢に扮する主演女優が避暑のため所有するプライベートビーチにやってきたが、その海岸では第二次大戦で死んだ亡霊が幽霊となってさまよっていた。
その幽霊が、たまたま泳いでいたサメと合体した結果、サムライサメ亡霊となって餌を探し始める。
そんなサムライサメ亡霊の目の前に、避暑のために水着に着替えた公爵令嬢が……というのが基本ストーリー。
ここで普通のサメ映画ならば、餌枠として彼女がパックンと食べられてという展開なのだが、サメにとって運が悪かったのが、この主演女優スタント無しで爆破するビルから飛び降りることが可能な身体能力を持ち、武術も嗜んでいた規格外の餌枠だったのである。
監督の力量が世に氾濫するB級映画とは一線を画すと知らしめたのは、カメラが基本サメ視線である点だ。
つまり、襲う視点であの水着の女優を見るという事になり、お約束通り攻撃で水着が破けてゆき動きが悪くなる彼女を追う視点は不覚ながら興奮してしまった。
更に、特筆したいのが、この映画、主演女優が一言しか喋らない。
そのため、逃げる音、襲われる悲鳴、吐く息、足音という当たり前の音が視聴者とサムライサメ亡霊を同一視させてゆく。
とはいえ、餌である女優はただやられる餌ではない。
襲撃時は怯え、泣き、逃げ出す彼女だが、頭は悪くないらしく、少しずつ情報を集め、サムライサメ亡霊に対抗してゆく。
3)のCGだが、カメラがサムライサメ亡霊の主観のため、使いどころは己の手足や鏡に写った姿や影の補完になる訳で。
この亡霊の設定がまたチープなCGとよく合うのだ。
おまけに、そういう場所を観客はじっくりとは見ないので、そのチープさが実に良い味になっている。
道具の使い道を知っている超一流と凡百ではこんなにも差が出る、という好例だろう。
こうしたチープな要素をきっちりと押さえ、お約束通りの展開を経てからのサムライサメ亡霊との剣戟シーン(これも主演女優の一人芝居)。緊迫した中で勝ち筋を見出した彼女だが、破れかけている水着が制約となってしまう。
ここでこの映画の主演女優唯一の台詞が放たれるのだ。
「そうよ!
服を着ればいいんじゃない!!!」
多くの視聴者が吹き出してしまい、主演女優に勝利を献上したこのシーン。
90分あるこの映画はこの1シーンの為に作られたと言っても過言ではない。
ここから、物語はがらりと変わる。
最初はホラーで、そこから推理に変わり、服を着ようとする彼女と着させないように邪魔をするサムライサメ亡霊とのサスペンスに。
そして、彼女が服を着た瞬間、物語はクライマックスの剣戟アクションに移るのだ。
セーラー服を着て日本刀を構える、クォータージャパニーズガールを舐め回すように撮影した映画監督に私は心の底からグッジョブを伝えたい。
最初は餌枠、次に探偵、ついには狩人と成り果てた彼女から、最後我々は逃げる形になる。
今度は今まで彼女を食べようとした舞台での仕掛けが180度変わって、ブーメランとなってサムライサメ亡霊に、つまり見ている視聴者に襲い掛かってくる。
怪物は喋らないから怪物なのだ。
その意味では、彼女もまた怪物であったという事にサムライサメ亡霊は気付くのが遅れた。
襲われ、疲弊し、海に逃げようと砂浜を這うサムライサメ亡霊の前に立ちはだかるは、月夜に照らされてこの世ならぬ美しさを魅せる女優の穏やかな笑み。
ああ。
この笑みが美しい。
ああ。
この笑みがこんなにも恐ろしい。
そう思うその瞬間に、まるで忍者のように彼女はその刀を……
ほとんど語り終えたが、最後まで是非見てもらいたい。
本作を見た大統領も食べていたプレッツェルを喉に詰まらせてホワイトハウスの医療スタッフを慌てさせたという怪作。
くれぐれも、口に何か入れて見ないように。
彼女に勝利を献上したくないのならば。
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ゆっくりクソ映画レビューのオマージュ。
とくに『恐怖!キノコ男』が大のお気に入り。
感想でも指摘していた人がいるけど、『アクタージュ』はかなり意識していたり。
ただ、あの中で瑠奈のモデルに近い人は居ないんだよなぁ。
彼女は生まれた時から悪役令嬢という演技をし続けている女優なので。
大統領
2002年1月テレビでフットボール観戦中、菓子のプレッツェルをのどに詰まらせて気絶までした。
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