クイーン・ビーのお茶会 その1
クイーン・ビー。
米国学生社会の階層の一つ。
女子における頂点である。
そして、クイーン・ビーを頂点として女子派閥は形成される。
「午後三時から大食堂のカフェテリアの一部を借り切りました」
「分かりました。
招待状は既に配布しています。
またその時に参加する人も基本的に許可しますが、参加者のリストは必ず作るようにしてください」
側近団のリーダーである久春内七海が橘由香と話し合っている。
常日頃優等生キャラを演じているが、休憩時間やオフの時は私の人形部屋で人形を眺めているのが趣味という可憐な少女である。
そんな彼女にこれからよろしくという意味合いで、天音澪ちゃんのお父さん経由でビスクドールをプレゼントしてあげるとすっかり気に入ったみたいで、抱いて眠っているとか。
話がそれた。
今日は私主催のお茶会という名目での私の派閥の決起大会なのである。
なお、その決起大会は橘由香やその側近団は大張り切りなのだが、私は乗り気でなかったりする。
入学も間もないこの時期に堂々と派閥立ち上げの集会を開くという事は、その後の派閥は必然的に反桂華院となる訳で。
「だからこそ、さっさと派閥を立ち上げる必要があるんですよ。
お嬢様はすでに目立っています。
反お嬢様で連合される前に大勢を押さえて反対派閥を各個撃破していかないと、連合を組まれて袋叩きにあいますよ」
側近団参謀格の野月美咲が乗り気でない私を察したのか、説明してくれる。
なおMMO仲間であり、彼女の設立したギルドに所属していたり。
「何?
この学校でギルド戦でもしようっての?」
「リアル世界でギルド戦やっているリーダーであるお嬢様がそれ言いますか?」
言わないで。
それ、一応自覚しているからという私の顔で察したらしい野月美咲が黙る。
私の視線は、カフェテリアの配置確認をしている遠淵結菜、秋辺莉子、イリーナ・ベロソヴァ、グラーシャ・マルシェヴァ、ユーリヤ・モロトヴァの五人に移る。
露骨な米ロ超大国からの紐付き人員の派遣であり、向こうの注目度合いが察せられる。
日本側については、こんな裏話が有る。
「恋住総理側と対立状況にある現状で送り込む勇気があるのは居ないでしょう。
お嬢様をコントロールできないから、周りにばらまいていますよ」
とは側近団で微妙に浮いている劉鈴音のありがたいお言葉。
米ロは非合法に影響力を行使したいから私の側近に人を送り込んだわけで、合法的に影響力を行使できる日本政府の場合、桂華院家や学園や桂華グループにそれらの人間を送り込んでいる訳だ。
「この時点でお嬢様に付くのは賭けなんですよ。
お嬢様が結婚した後の桂華院家との関係もあるし、お嬢様が一家を興すことも可能性としてはある訳で。
何より、お嬢様って基本秘密主義で少数精鋭主義でしょ?
おまけに、成人していないから、裏から人を操ることしかできない。
マンパワーが有るのなら、その人を押さえたほうが楽ですよ」
劉鈴音の言葉の裏で思い出したのが恋住総理。
あの人本当にこちら側の操り人形候補を徹底的に排除してくれたよなぁ。
しかも理と情で桂華院家やうちの連中まで寝返らせたのだから何も言えない。
私がそんな事を考えているのを察した劉鈴音は、私にトドメを刺す。
「で、お嬢様が動きたい今だけ押さえればいいのであって、お嬢様が成年として立った時には総理はすでにその椅子から去っている。
こればっかりは、お嬢様にはどーにもならないですよ」
私の成年までまだ数年有る。
立憲政友党総裁職は二期までと決められているから、その時には彼は勝ち逃げが確定している。
劉鈴音は華僑らしい思考で、権力闘争の素晴らしさを語る。
「で、お嬢様は今度の選挙、どうするんですか?
協力は惜しまないと父から伝言を受けていますが?」
「中学生のお茶会を前に生臭い話はやめなさいよ。
泉川派を中心に金をばらまくぐらいかな」
この国ではマイノリティーである彼ら中華華僑は、それゆえにマイノリティーを糾合して一つとなった野党側の資金源となっているのを私は知っていた。
その上で、私の方に劉鈴音という人質を送り付けるのだから、彼らの政治思考というのが分かろうというもの。
「お嬢様の目から見ても、野党は信頼できませんか?」
「貴方の目から見てどう?」
「お祖父様が言っていましたよ。
『紅衛兵』と同じ目をしているって」
上手いことを言うなぁ。
思わず私は笑ってしまう。
「あれを操るのは苦労するわよ」
「覚悟の上です。
我々は五年十年でものは見ません。
五十年百年で策を立てるのですよ」
その話で行くと、私の五十年後に彼ら華僑は賭けたという訳だ。
……あれ?
「どうしました?お嬢様?」
「なんでもないわ。
ちょっと気分転換に庭を散歩してくるわ」
劉鈴音に手を振って食堂前の庭に出る。
この時、私を一人にせず遠淵結菜と留高美羽が付いているのがなんというか。
側近団としては正しいのだろうが。
(……思い出せ。
ゲームで桂華院瑠奈が登場していた時の取り巻きの連中の顔を。
今の側近団と何人か被っていなかったか!?)
ゲーム内でもこういう権勢を誇るためのお茶会を桂華院瑠奈は何度か行っていた。
その時の取り巻きたちと今の側近団のキャラクターが同じだとするならば、それは何を意味するのだろうか?
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野党の資金源
当時解散権を握っていた与党側は解散するする詐欺で野党側の選挙資金を削っていた。
にもかかわらず政権交代が発生した時、その資金は何処から出たのかとアングラで騒がれたのは事実である。
この後、友愛という言葉に別の意味がつくのだが、裏とりがついにできなかった。
紅衛兵
文化大革命。
香港系華僑は国共内戦で香港に逃れた人をベースに、文化大革命と天安門事件を間近で見て逃れてきた人で構成されている。
こんな人達を両親や祖父に持つ人達が共産党を信じられるわけがなく……
なお、紅衛兵のほとんどがその後共産党上層部使い捨てられた事まで書いておく。
大陸の物の考え方
五十年先の策がわずか三年で五十年以上残る負債に化けるなんてあの時の人達も思っていなかっただろうなぁ。
「私はね多少のバカと言ったんだ。ありゃパーフェクトじゃないか」 (by 課長馬鹿一代)
この言葉をガ党スレとですがスレで何度見た事か……
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