いくつかの記事抜粋 2003年4月
『イラクにおける戦闘はほぼ終結し、現在ではイラクという国家の解体に向けて各国の思惑が錯綜している。
バクダッドが陥落しイラク政府首脳部が逃亡した結果、無政府状態となったイラクは三勢力に分割された。
一つはバクダッドをはじめとしたイラク中央部のスンニ派地区で、現在多国籍軍の占領下にある。
その統治は決して良好ではなく、治安悪化に伴う住民感情の悪化もあり、米国が考えていた早期の戦力撤収は夢物語になりつつある。
もう一つは北部クルド人自治区で、ここはイラクからの独立を宣言。
隣国トルコのクルド人がこれに呼応した事で、トルコ国内は未だ戒厳令下にある。
米国は独立を宣言したクルド人自治区にイラクに帰参するように外交的交渉を続けているが、過去イラクに弾圧されたクルド人自治政府はこれを拒否。
この地域には原油が眠っている上に、チグリス川の上流域に当たるため水資源も絡み、米国国務省は頭を抱えている。
最後の一つが南部シーア派住民の地域で、こちらは隣国イランが住民保護の為に介入し、その地域を占拠している状況で、イラク崩壊後にイラン軍が撤兵するかどうか、米国国防総省の頭を悩ませている。
そもそも、米国にとって今回の戦争の目的はイラクの現体制を崩壊させることであり、イラク国家そのものを崩壊させるつもりはまったくなかった。
ましてイランが介入した結果、イラクの地で米軍とイラン軍が対峙する想定は国務省も国防総省もしておらず、ワシントンでははやくも責任者を更迭する事で……』
『桂華グループのカードの更新が始まり、利用者が次々と新規ICカードを受け取る姿が見られるようになった。
桂華グループICカード、略してケーカは、桂華金融ホールディングスと帝西百貨店のカード事業の統合なだけでなく、東日本帝国鉄道のICカード規格に合わせた上で、桂華グループの社員証や東京都及び北海道・千島県・樺太道の身分証としても機能する。
これによって、東京都に出稼ぎに来ていた樺太道の身元不明の労働者に銀行口座と身分証というセーフティネットを掛ける事ができ、正確な統計を前提に経済対策を行えると関係者は話している。
一方で個人情報を好き勝手に使われるのではという懸念の声も上がっており……』
『新宿ジオフロントテロ未遂事件の捜査が大詰めを迎えている。
この事件は9.11同時多発テロの後に計画されたテロの中でも大規模なもので、ロンドンやスペインのテロと違い未然に防げはしたが、実行されていたら未曾有の大惨事となりえたのもあり、警察の捜査意欲も並々ならぬものがあった。
そこで浮かび上がってきたのはテロネットワークと言われるアンダーグラウンド組織の連携であり、このテロ未遂には外国の宗教過激派だけでなく、国内の反社会勢力も主体的な関与をしていたことに関係者は衝撃を受けている。
主な関与組織に限っても極左暴力集団や環境保護団体、宗教過激派に犯罪組織と多岐にわたる上、実行部隊には第二次2.26事件の関与者や旧北日本軍人等も含まれているとみられ、警視庁は慎重に裏付けを進めている。
このテロ未遂事件は、現在工事が進められている新宿新幹線を核として新宿新都心部に大規模大深度地下街を建設する新宿ジオフロントが標的とされ、爆薬による破壊テロ計画を進めていたところで内部の密告によって発覚、関係者の逮捕に繋がった。
イギリスやスペインのテロと違い未然に防げたのは幸いだが、この国がテロの対象になった事の衝撃は大きく、国会は安全保障問題だけでなく国内治安問題という課題が……』
『国内消費が久しぶりに上向いている。
それを牽引しているのがデジタル家電であり、新たな三種の神器と呼ばれるのはDVDプレイヤー・デジタルカメラ・携帯電話である。
新年度が始まるこの春はこのデジタル家電を求めて家電店は盛況になり、国内では製造が追い付かずうれしい悲鳴を上げている。
国内家電メーカーは円高と近年の不良債権処理に伴う不景気でリストラに踏み切り、海外に工場を移していたのだが樺太併合に伴い樺太に次々と工場を建ててこれらの製品を製造している。
その結果、経済格差から低賃金労働者の多い樺太では失業率が低下する一方で、本州の家電工場がリストラ対象として閉鎖されて失業率が上がるという皮肉な事態も起こっている。
デジタル家電の国内消費分を国内工場で賄いきれず、海外工場製造分を輸入して販売する企業も見られるなど、せっかくの需要を国内で賄い切れていないと一部のアナリストは懸念を表明している。
その一方で、大規模投資をした企業では業績好調で、例えば小型液晶に集中投資していた桂華電機連合の旧四洋電機側は更なる投資を決定し、他社との差別化を図ろうとしている。
また、桂華電機連合も樺太に大規模工場建設を計画し……』
『国会は与野党の対立が続く中、今年度予算案が成立した。
恋住政権は今国会の大きな山場を越えたことになり、あとはいつ解散するかで永田町の話題は持ち切りになっている。
イラクが米国の想定外に進みつつある中、派兵を決めた恋住政権の責任を問う声は野党から強く出ており、与党もそれを受けて立つ構えを崩していない。
野党は政権交代可能な二大政党が出来たとアピールしており、恋住政権との違いを訴える方向だ。
野党は「イラクからの自衛隊撤退」を掲げて与党を攻撃しており、与党側からも「自衛隊に多大な犠牲が出たら政権が吹っ飛ぶ」といった懸念の声が……』
『政府は不良債権処理の最終的な解決を目指し、全メガバンクに公的資金を注入する事を閣議決定した。
それに伴い、金融庁が全メガバンクを査察し、その審査結果に伴い公的資金を強制注入する。
この春ついに時価会計が導入され、今まで塩漬けされていた不良債権が明るみに出たことを受けたもので、公的資金注入後も経営が安定しない銀行については国有化も視野に入れる。
不良債権処理の過程で国内の都市銀行は幾つかのメガバンクにまとまったが、終わらない不良債権処理に業を煮やした政府がついに重い腰を上げたと業界は戦々恐々としている。
この公的資金注入は繰り上げ返済が可能で、桂華金融ホールディングスや帝都岩崎銀行、二木白水銀行などは注入後即座に返済する事を発表している。
だが、その他のメガバンクにとって即時返済は難しく、経営に国の圧力が掛かるだけでなく国有化という形で更なる再編を……』
────────────────────────────────
ロンドンとスペインのテロ
ロンドンは現実では2005年、スペインは2004年に発生している。
この世界、イラク戦がこんな感じなので、結構テロによる報復が激しく、それがまた大量破壊兵器使用論に繋がっていたりする。
新宿ジオフロントテロ
上のテロの流れで発生している。
こっちは阻止できたけど、イギリスとスペインは駄目だった模様。
デジタル家電
この時作られていたのが中国や東南アジアの工場だったので国内雇用にあまり役に立たなかった模様。
家電店では外国人がこのデジタル家電を買いに来て、日本製でないのから買わないなんて事を言ったのを家電店スタッフとして体験していたり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます