お嬢様とゲームセンター
ピコピコ……ピコピコ……ピコピコ……
「……」
ピコピコ……ピコピコ……ピコピコ……
ブチッ!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
何をするの……って……佳子さん?」
「お嬢様。
今、何時だと思われます?」
そんな記憶も今は昔。
TVゲームは第三世代と言われるものに移り、勝者と敗者がはっきりしだしたこの頃、私はちょっとしたお買い物をしようと企んでいた。
ゲーム会社買収である。
「買うんですか?
この会社?」
岡崎が白目でつっこむが私は無視した。
このあたりから業界1位、2位と3位以降の差がはっきりと付きだし、3位以下企業が合併や撤退などで退場していく流れが広がってゆく。
そんなゲームメーカーの一社がちょうど窮地に陥っていた。
その名前を、ズガガガ・エンターテイメント社という。
長きに渡るゲーム機戦争を戦ってきたが、ついにその資金が枯渇してハード事業から撤退。
経営再建中ではあるが、その支援企業が保有株の減損処理に追い込まれるという事で、あちこちからお声が掛かっている会社でもあった。
「つーか、何で俺を連れて秋葉原なんです?」
岡崎を連れて秋葉原を探索。
もちろん護衛のメイドだけでなく男性護衛の道原直実さんも連れているのだが、さすが秋葉原。
萌え産業の勃興が少しずつ街に広がろうとしていた。
「アンジェラこの街出禁なのよ」
「あー。
あの人、お嬢様の安全については人一倍気を使っていましたからねぇ」
(おい。見ろよ。あれ)
(あれ、桂華院瑠奈たん?)
(まじ!?
生瑠奈たんはじめて見た!)
(メイドたちもレベル高いなぁ)
こんな声を気にせずに秋葉原中心部を散策。
話しながら出てくるお買い物のお値段はおよそ五百億円なり。
「あと、女の子一人でゲーセンに入るのは、そこそこ勇気がいるのよね」
そんな訳で、ゲーセンにぶらり入店。
百円玉を握りしめて、向かうはシューティングゲームコーナー。
「まぁ、たしかに女子一人でここはきついでしょうな」
禁煙なにそれおいしいのという感じのゲーセン内は、メダルゲームに対戦格闘ゲームが頂点から衰退にというあたり。
奥にはもちろん脱衣麻雀が置いてあり、今日も容赦ない天和でプレイヤーの百円玉をむしり取っているのだろう。
私がやっているのは、96年に出た名作シューティングゲームである。
この体になったおかげで、撃墜されずに面を進められるのがとても嬉しい。
岡崎もタバコを咥えて、脱衣麻雀の画面をちらちら。
男の性である。
「お買い物はいいのだけど、これについては勝ち筋が浮かばないのよねぇ。
けど、これは押さえておきたいのよ。
どうしようかなって……きゃあああああああっっっ!!!」
チュドーン!
なにこの鬼難易度。
このチートボディを持ってしてもクリアできないとは。
既に何度もチャレンジして、そのつどここで返り討ちにあっている。
「ああああああ!
どうしてここクリアできないのよぉぉぉぉぉ!!!」
「あ、あのっ!」
遠巻きに見ていたおたくの一人が私に声を掛ける。
メイドや道原さんが露骨に警戒する中、私ではなくゲームを見ていたおたくは私にこんなヒントをくれたのである。
「『ランク調節』って言葉は知っていますか?」
そんなのあったのか。
このゲーム……
パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
リロード!
「で、その赤字事業にいくらぶっ込むつもりなんですか?」
パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
リロード!
「二千億円溶けたらさすがに撤退するわよ!
貴方上手いじゃない!」
「治安の悪い所ほど資源は眠っているもんで。
撃ちはしませんが一通りは訓練していますよ。
それでも絵図面ぐらいはあるんでしょう?」
ガンアクションゲームを岡崎と楽しみながら話す内容ではない。
なお、ゲームストーリーは通信衛星の中に軍事衛星が紛れるという……あ。
「ちょっと話が変わるけど、ロシアのGLONASS、資金不足だって言ってなかった?
買っちゃおうか?」
「絶対にこのゲームやっている最中に思い付いたでしょう?それ。
俺ならゲーム会社で溶かすお金をそっちにぶっ込みますね」
そうなると私はロケット発射基地で高笑いするラスボス役だな。
岡崎は中ボスになるだろうし。
「幾らぐらい掛かる?」
「全体は国家事業だから無理として、一部支援として二千億円。
これはムーンライトファンドの事業に組み込みましょう。
どうせインターネットをはじめとしたネットワーク・インフラは、これからも爆発的に増えていきます。
インフラを握れるなら安い投資ですよ」
こんな感じで数千億円規模のビジネスが決まってゆく。
いいのかと思いながらも話がゲーム会社の方に戻る。
「しばらくは、私のお小遣いで運営しようかなと思う」
「中々額の大きなお小遣いですな。
何か危惧でも?」
「買ったはいいけど、今の体制だと押し付けるのカリンの所なのよ」
「あー。
うちも正直きついですね」
桂華グループそのものが事業再編途中でのさらなるお買い物。
米国流の選択と集中をしっかり学んでいるカリンの所に、赤字事業になりかねないこの会社をくっ付けるのははばかられる。
という訳での岡崎との悪巧みである。
「しょうがないわね。
しばらくは単体で治癒させる方向で行きましょうか」
その後、ズガガガ・エンターテイメントの株を買い取ったのだが、『やった!これでまたハードに手が出せる!!!』という勘違いの声を聞いたアンジェラとカリンがズガガガ・エンターテイメント本社にガチコミに行ったとか行かなかったとか。
私、しーらない♪
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ズガガガ・エンターテイメント社
この時期のこの会社の経営危機はゲーム史におけるIFとしてすごく面白い所だったりする。
拓銀救済している関係から、ハドソンをお嬢様くっつけてもいいんだよなぁ。
秋葉原メイド文化
本格的に花開くのが2000年代前半。
この世界では、瑠奈のせいで90年後半には動いているという感じにしている。
シューティングゲーム
『バトルガレッガ』。
ランク調節という概念を知らないと確実に詰むゲーム。
ファンは多く、結構あちこちのゲーセンで稼働していた。
多分やられたのはブラックハートの所。
ガンアクションゲーム
『タイムクライシス』。
衛星云々の話から『タイムクライシス2』。
このゲームも結構長く遊ばれていた。
こういう古いゲームが稼働しているゲーセンに出向いているから系列店ではない個人営業のゲーセンというのが分かる。
たしかに女子一人で行くには勇気がいるだろうなぁ。
GLONASS
ロシア版のGPSシステム。
ロシアの経済危機から計画が遅れに遅れ、2001年には運用すらままらない状況だった。
またハードに手が出せる
ネットでは結構有名な真偽不明な噂話。
経営再建中のセガに銀行が資金を貸す条件がハードからの撤退だったという。
アンジェラは桂華証券の人間だけどムーンライトファンドにアクセスできるから金の流れを知り、押し付けられる予定のカリンにそれを垂れ込んで奇襲と相成ったらしい。
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