悪役令嬢 Meets 占い師 その4

 ゲームでは攻略キャラとの相性占いしかせず、しかも結果しか分からなかった神奈水樹の占い。

 こうやってみると、手間暇雰囲気掛かっているなぁと素直に感心してしまう。

 タロットカード占いとは基本的にカードの意味をクライアントの情報に寄せることによって行われる。

 このあたりの技術は心理学で言う所のコールド・リーディングの一つになるのだが、占いというのは基本として占う前からクライアントが望む未来を決めている事が多い。

 そのため、実は占いに行く時点である程度の情報は出ていると言える。

 そんな事を話しながら神奈水樹はカードを混ぜる。


「占いというのは、それほど便利なものではないのですよ。

 どちらかといえば、呪いに近いものだと私達は考えています」


「呪い?」


 私のつぶやきに神奈水樹は断言する。

 このあたりの会話すら、クライアントである私とのコミュニケーションの手段であり、私の情報を得ようとする占い師の技術なのだろう。


「ええ。

 未来を固定させる呪い。

 占うことによって、貴方は二つのものを失います。

 『未来』と『可能性』です」


 結構きついワードが出てきた。

 少しひるむ私に、神奈水樹は微笑む。


「それほど怖がらなくていいですよ。

 ちゃんと説明しますから。

 まずは未来。

 AとBという道があって、Aには落とし穴があります。

 その上で、桂華院さん。

 どちらの道を行きますか?」


「まぁ、普通は落とし穴に落ちたくないから、Aには行かないわよね」


「落とし穴の先にお金が落ちているかもしれないのに?」


 神奈水樹の言葉に私はぽんと手を叩く。

 私の納得を確認した神奈水樹は笑顔を崩さずにその説明をした。


「これがデメリットの一つである『未来』。

 知ってしまったからこそ、その未来を閉ざしてしまうんです」


 占いは万能ではない。

 それを最初に言うのは予防線なのもしれない。

 となると、もう一つの方も気になってくる。


「じゃあ、『可能性』ってのは何?

 私にはあまり違いが分からないのだけど?」


 神奈水樹は笑みを崩さない。

 この慈愛に満ちたスマイルが、自然と私を占いの世界に誘ってゆく。


「今、AとBという選択肢を出したけど、実はCという選択肢があったとしたら?」


 なるほど。

 それが『可能性』か。

 未来を固定する呪いとはよく言ったものだ。

 そんな事を思っていたら、神奈水樹はテーブルに五枚のカードを一列に置く。


「桂華院さん。

 貴方の方から見て左側から『遠い過去・過去・今・未来・遠い未来』とカードを置きました。

 過去の事があった時期と対をなすように未来が提示されると思ってください」


「たとえば、一番左のカードのイベントが半年前ならば、一番右のカードの未来は半年後という事?」


「はい。その通りです」


 そしてゆっくりと一番左からカードをめくった。

 出できたのは、いかつい王様が逆になっている絵。


「『皇帝』の逆位置。

 桂華院さん。

 あなた何か権力を失うようなイベントありました?」


 私は神奈水樹の一言に引きつる。

 というか、ありましたとも。

 つい半年ほど前ぐらいに、イラクがらみで恋住総理からきつい攻撃を受けて痛い目見ましたとも。

 なんて言える訳もなく。

 私のひきつった笑みを見た神奈水樹はそのまま二枚目のカードを開けた。

 今度は私でも分かる絵がちゃんと私の方に見える。

 もっとも、タロットカードは正位置と逆位置があり、正位置の意味が良い意味ばかりとは限らない。


「『月』の正位置。

 結構心にダメージを受けたみたいですね」


 はい。受けましたとも。

 権力の重さに、人を数字として見るコラテラルな考え方に付いて行けずに病みかかりましたとも。

 とはいえ、まだ二枚。

 偶然と言い張れない事はない。

 という訳で、私は現在の三枚目のカードを注視する。

 ごくりと喉が鳴ったその絵は反対なのだが、大きな星と裸のおねーさんの絵が描かれていた。


「『星』の逆位置。

 どう解釈しましょうかね。

 希望・理想、そういう意味が正位置にはあります。

 それが逆位置で出たという事は、希望や理想を失った、あるいは現実的になった。

 そう解釈しましょうか」


 私の頬から汗が垂れるのが分かるが、それをハンカチで拭く気力すらない。

 当たっているじゃない!

 すごく、当たっているじゃない!!!

 今、ここで怪しい壺でも出してきたら、多分ノータイムで買う自信がある。

 私の動揺は見えているはずなのに、神奈水樹はさも当然という感じで四枚目、つまり私の未来を開けた。


「……『運命の輪』逆位置。

 あまり良くないイベントが近く起こりそうですね」


 なるほど。

 そう言われると備える訳だが、同時にその未来を回避したくなる訳で。

 そのイベントの先に起こるであろう五枚目のカードを神奈水樹は開ける。


「『隠者』の逆位置。

 良い意味も悪い意味もありますけど、私はとなりのカードからこう考えますね。

 『悪目立ちする』と」


 隠者が反対になっているから、悪目立ちすると来たか。

 一連のカードの流れにストンと納得した私が居た。


「という訳で五枚のカードから読み取るに、ここ最近苦境続きでおそらくもう少し苦境が続くみたいですね。

 その結果として、桂華院さん自身が悪目立ちする。

 こんな未来はいかがですか?」


 神奈水樹はにっこりと笑う。

 時間スパンにして、半年程度。

 つまり半年先に悪目立ちするイベント……あったじゃないか。

 衆議院解散総選挙が。

 私は椅子にもたれ掛かって、敗北の一言を告げた。


「負けたわ。

 なんかこの未来は素直にしっくり来た。

 神奈さんの占いを本物と認めるわよ」


 私の投げやりな声に神奈水樹は目を閉じて静かに頭を下げたのだった。




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 このあたりの流れは『昨日宰相今日JK明日悪役令嬢』あたりで既に確立させていたりする。

 これを神奈水樹から神奈絵梨が受け継いでという流れ。


タロットの写真

 https://twitter.com/hokubukyuushuu/status/1150929123138662400?s=20


神奈水樹の占いは基本こうして出たカードで話を作ってゆく予定。

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