悪役令嬢 Meets 占い師 その3

「では、こちらでお待ち下さい」


 通されたのは居住区用の待合室。

 一人、グレープジュースをぐびぐび。

 偉い人達との占いは基本お付の人が外れるのがデフォである。

 お付きの人すら外して一対一で向き合うからこそ占い師は信頼されるのであり、そういう空間が作れるからこそ占い師は重宝されるのだ。

 待つこと少し。


「おまたせしました。

 神奈水樹と申します」


 おかしい。

 私と神奈水樹とは同い年のはずである。

 私も同年代に比べて発育が良いはずだが、それ以上に完成されているぞ。この体。

 それでいて、顔やしぐさは年相応のあどけなさを失っていない。


「桂華院瑠奈よ。

 楽にして頂戴。

 今日はただ、貴方の顔を見に来ただけなのだから」


「ありがとうございます。

 では失礼して。

 桂華院さん。

 貴方何歳ですか?」


 すっと心の間合いに入って、初撃でいいパンチを放ってくれる彼女を私は本物と認識した。

 あくまで雑談という風でそれをかわす。


「貴方と同い年のはずよ。

 今年から中等部。

 だから、うちの推薦枠を使って帝都学習館学園に行くのでしょう?」


 驚いた顔をする神奈水樹。

 頭をかきながら、わざと視線をそらす。


「うわ。

 師匠本気だったのか。

 冗談だと思っていたのに……」


 まてやこら。

 それでうちの枠一つを掻っ攫っていったって桂華院家は何を神奈一門に握られたのやら。

 そんな事を考えていたのが顔に出ていたらしく、神奈水樹があっさりとそれをバラす。


「多分、第二次2.26事件で桂華院家が狙われている事を教えた件で、もぎ取ったんじゃないかな。

 アレ以上の貸しは多分無いと思う。うん」


「うわ。

 それは義父上断れないわ」


 戦後のフィクサーとして君臨していた桂華院彦麻呂は、その情報源の一つをこの神奈一門という占い師に頼った。

 そこから得られる情報を桂華院彦麻呂はうまく使い、私の知っている前世では起こらなかった帝都警と自衛隊のクーデターこと第二次2.26事件から難を逃れたという訳だ。

 そこから始まる神奈水樹の過去話。

 孤児院育ちの上に性的虐待まで受けていたのだが、それがかえって才能を開花させたらしい。

 そこを神奈世羅に拾われたと。


「なんつーか、壮絶な人生歩いているわね……」

「桂華院さんよりましですよ。

 私は私の人生だけを気にすればいい。

 けど、桂華院さんの肩には、桂華グループ数十万の人生が乗っているのですから」


 言われると自覚せざるを得ないこの重さ。

 初対面にしてこの会話のはずみ具合。

 さすが占い師と言わざるを得ない。


「まぁ、せっかくですから、占っていきますか?」

「はい?」


 急な話題転換に私の声も驚く。

 神奈水樹は微笑んで、タロットカードをテーブルに置く。


「だって、私を見に来たのでしょう?

 だったら、私の本職である占いを見せないと私って存在が分からないと思うのだけど?」


 まぁ、一理ある。

 とはいえ、神奈の占いは時価だから困るのだ。


「と、言っても占い料が分からないから困るのよ。

 何よ。時価って?」

「占いと言うよりも、運命への賭金。

 私達はそう説明しています」


 あ、神奈水樹の口調が占い師風に変わった。

 目も雰囲気も少し色気のある少女から、ミステリアスな女性に。

 この切替は男がはまりそうだなぁ。


「我々の占いは、『ありえる未来の一つ』でしかありません。

 その未来を選択するかどうかは、詰まる所、クライアントである桂華院さんの意思一つです。

 で、未来を選ぶというのは、詰まる所ギャンブルです」


 ここで言葉を軽く区切って、神奈水樹はタロットカードを指で軽くつつく。

 こういう仕草一つ一つが魅力的で引き込まれる私が居た。


「ギャンブルである以上、賭金は前払いが基本でしょう?

 賭金は、貴方がその相談にどれだけ本気かという指数でもあるんです」


「外れたらどうするのよ?」


「私達が恨まれるだけのこと。

 そういう恨まれ役も我々の仕事です♪」


 そんな事を言いながら、神奈水樹は23枚の大アルカナのカードを並べる。

 ん?

 23枚?


「あれ?

 真っ白のカードが混じっているけどどうして?」


 私の指摘に神奈水樹は営業スマイルで答える。

 きっとずっと言われている事なのだろう。


「これ、元々は紛失用の予備カードなんですよ。

 うちのタロット占いは、この予備カードを入れた23枚で占います。

 師匠は抜くのを忘れて占ったらしいのですけど、それから精度が上がったので入れて占うようになったとか」


 そう言って、神奈水樹はその白いタロットカードを持ち上げる。

 占い師の顔で、そのカードの意味を告げる。


「このカードは素直に『見えない』、もしくは『見たくない』って解釈します。

 だからこそ、このカードが出た時に、私達はこう尋ねるんです。

 『ここを見たいですか?見るならば、このカードの上にもう一枚カードを置きますよ』って」


 見たくない過去というのは存在する。

 見ないからこそ、未来というのは面白いという言い方もできる。

 占いに来ている以上は良い未来を求めているのだろうが、それを隠して占いたい心の奥の秘密というのは私を含めた誰にでもある。

 神奈の占いが評判なのはこういう所にあるのだろうとなんとなく察した。


「では、何を占いますか?」


 神奈水樹の誘いに私は賭金を支払う。

 桂華院家の家紋が彫られた銀バッジを。


「お試しだから、私の未来を。

 貴方の占いと同じく、それは貴方の好きに使うといいわ」


 こうして、神奈水樹の占いが始まった。




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自衛隊のクーデター

 本当かどうか知らないが、元国会議員の亀井静香氏が警察在籍時にクーデターを阻止したらしい。

 インタビューで答えているんだよなぁ……

 一応リンク

 http://gekkan-nippon.com/?p=13345


タロットカード

 大アルカナ22枚、小アルカナ56枚で構成される。

 神奈の占いはこれに予備カードである白紙カード一枚を入れた23枚と79枚で占う。

 大体大アルカナだけで占うのが主流というか楽。

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