神戸教授の恋住総理評 その3

『それでは、コメンテーターの神戸教授に、恋住政権の戦略と今後を語ってもらいたいと思います』


『よろしくおねがいします。

 恋住政権は、近く外交的に大きな問題を処理する必要に迫られます。

 米国が進めているイラク侵攻に対して、我が国は英国と共に参加を宣言しました。

 その派兵責任を国会で求められることになるでしょう』


『この派兵については、野党が反発し反対を宣言していますね?』


『ええ。

 ですが、衆参合わせて過半数を維持している恋住政権はこれを、去年秋の臨時国会にて特別法を通過させました。

 樺太問題を協議する日露首脳会談などきらびやかなニュースの影に隠れていますが、この自衛隊派兵を通した事は恋住政権に於いて大きな外交的勝利と言っていいでしょう』


『神戸教授が触れられた樺太問題を協議する日露首脳会談ですが、継続協議となり何も決まらなかったという意見もありますが、それはどうなのでしょう?』


『今となっては、日露首脳会談はイラク問題のために行われたと考えても良いのかもしれませんね。

 このイラク問題について、米国に付いた日本及び英国と、EUを中心とした欧州との齟齬が露呈しています。

 そのため、日本が米国とロシアの仲介を行ったという側面はあったと考えるべきです。

 日本の安全保障に米国が絡んでいる以上、米国に貸しを作り、それを利用してロシアとの交渉に臨む。

 そういう見方もできるという事を覚えておいてください』


『外交と言えば、外務省および枢密院で華族をはじめとした汚職問題が発覚し、元幹事長や与党議員の辞職に繋がった訳ですが、どうしてこのような外交的勝利が得られたのでしょうか?』


『一つは、泉川副総理の存在です。

 元総理の上に、危機管理担当大臣という職を利用して、あのテロ前から米国の安全保障担当者と面識があったのが大きいです。

 そして、外務省が機能不全に陥った中、泉川副総理に外交と安全保障を丸投げした恋住総理の決断も見逃せません。

 恋住政権の特色として、基本政策については担当大臣に完全に任せてしまい、重要政策のみを官邸が主導するという良い意味での分業が徹底している事でしょう。

 外交・安全保障が泉川副総理ならば、内政・経済担当は武永大臣がその司令塔ですね』


『武永大臣の名前が出たので、今度は経済政策についてお話を伺いたいと思います。

 米国ITバブルの崩壊に巻き込まれて現在の株価は15000円台まで下がり、銀行は未だ不良債権処理に追われています。

 時価会計の導入と財閥解体が本格化した事で今後どうなるのでしょうか?』


『武永大臣は金融機関に対する公的資金の注入を口にしており、それを名目に不良債権処理を一気に終わらせるつもりなのでしょう。

 90年後半からの金融機関再編に伴って、巨大メガバンクが誕生しましたが、そのうちの幾つかは未だ不良債権処理が終わっていません。

 その状況で時価会計に移行すると巨額の貸し倒れ引当金を計上する事になり、破綻に追い込まれかねない財閥がやっと重たい腰を上げたと見るべきでしょう。

 国有化されるにしてもさらなる再編が不可避なのは間違いがありません』


『武永大臣が主張していた桂華金融ホールディングスの上場問題についてはどうなるのでしょうか?』


『桂華金融ホールディングスは、90年台後半の不良債権処理で派生した破綻寸前の、銀行・証券・保険をまとめて再建させた一種の元国策銀行でした。

 その経営はここ数年で規模を急拡大させた新興財閥である桂華グループに売却しましたが、内部は政府や財務省や金融庁に繋がっている者も多く、不良債権処理においてこの金融機関が再び注目されるのは間違いないでしょう。

 この金融機関の上場問題は、破綻寸前だった金融機関を上場させる事で不良債権処理の出口のモデルケースとして政府が考えているという事と、時価会計導入後に待ったなしになる不良債権処理で追い込まれるだろう他の金融機関に対して桂華金融ホールディングスにさらなる協力を要請するという2つの側面があると思っています。

 株式上場するならば不良債権処理が終了したと称賛し、上場しないならば時価会計導入後の不良債権処理に付き合ってもらう。

 武永大臣も恋住総理と似たような思考なのですが、一つの政策にいくつかのプランを用意して、それを提示するのがものすごく上手い。

 株価の下落傾向が懸念要因ではありますが、不良債権処理は着実に進むだろうと見られています』


『内外ともに実績を強調する恋住政権ですが、野党側にも動きがありますね』


『はい。

 元々90年代の野党連立政権が大合併に失敗し、政権を与党立憲政友党に奪還された教訓と、その時に変わった小選挙区比例代表制によって、二大政党でないと戦えないというのが野党側にも周知されてきたというのが大きいでしょう。

 野党側は合併政党である友愛民主連合こと友民連を結成し、「政権交代可能政党ができた」とアピールしています。

 現在のこの国の政党は与党連立政権と友民連を中心にした野党、そして旧北日本政府が議席を保有し閣外協力の形を取っている樺太社会民主党の三極体制となっています』


『ここで、現在の国会の議員構成を書いたフリップを用意しました』


『衆議院の与党が247+31+9=287議席。

 閣外協力している樺太社会大衆党が18議席あるので、合計が305議席。

 野党は残り195議席を保有している訳ですが、永田町では野党友民連の結党に伴って体制がまだ整っていないうちに解散をという空気が流れています。

 もし解散が発生するのならば、イラク派兵問題が争点に上がるのは避けられないでしょう。

 また、未だ高い失業率を抱えている樺太道はその責任を閣外協力している樺太大衆社会党に求めて、野党側に追い風が吹いており、樺太選挙区で野党側がどれだけの議席を奪取できるかというのがポイントになるでしょう』


『参議院についてはどうでしょうか?』


『参議院の与党が114+23+5=142議席。

 閣外協力している樺太社会大衆党が5議席あるので、合計が147議席。

 野党は残り110議席を保有している訳ですが、参議院が過半数を保持しているので90年後半のように参議院で国会が停滞し内閣が総辞職に追い込まれるという可能性は低いと思います。

 2004年に行われる参議院選挙までこの構図は変わらない訳で、もし野党側が政権交代した場合、少数与党となる参議院でどのように国会を運営できるかがポイントになると思います』


『枢密院についてはどうなのでしょうか?』


『定数50人の華族の牙城で、現在国民の風当たりが強いのですが、枢密院議長を副総理とする法律ができた事で内閣の影響力が増しました。

 元々戦後貴族院だった参議院を開放する代わりに、定数を増やした枢密院は90年台の政権交代などでその隠れた影響力を発揮していたのですが、恋住政権による華族特権の剥奪政策に激しく抵抗しています。

 とはいえ、その影響力は外務省のスキャンダルによって失墜しており、内閣の影響力が増している現状では防戦に回るのが精一杯でしょう。

 国会の代行機関ではありますが、国会の優越は規定されているので国会が混乱しないと出番がない。

 そこを恋住内閣はよく理解して政権を運営しています』


『ありがとうございました。

 CMの後は新宿ジオフロントシティーで起こったテロ未遂事件の公判についてです』




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こーいうのを思いつくから逆算して改変する事になる (戒め)


この世界の日本

 9条に縛られていないので派兵は可能だが、枷としての派兵特別法を制定するのが慣例となっている。

 元ネタはイラク特措法。


民友連結党

 現実では衆院選前の2003年9月に起こっている。


イラクを巡る欧米の齟齬

 フランスが反対に回ったことで米国では反仏感情が爆発。

 フレンチトーストがフリーダムトーストに変わるという笑い話が。

 現在国連安保理で米国国務長官が必死に交渉中。


樺太の国会議員

 ここの動向は加藤の乱に影響を与えかねないんだよなぁ。

 派閥政治家小泉純一郎の見せ場でもあるから、加筆のために設定しておく。


枢密院

 調べたら定数は24人。

 それを瑠奈の祖父が50人に拡大させたという設定。

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