高尾山登山 その1
靴はスニーカー。
リュックも新品。
万一のレインウェア、水筒、コンパスに地図、防水シートにバスタオルにタオル。
着替えも二着入れて、ビニール袋に薬とおやつと非常食よし。
でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!
「はい。
そのリュック私が持ちますので貸してください」
「いやぁぁぁぁ!!
私が背負うのぉぉぉ!!」
「何やってんだ?
瑠奈の奴?」
「桂華院の奴、今回の登山遠足嬉しくてかっこ付けて揃えたのはいいが、メイドが粗方持ってくらしいから全部無駄になってという奴らしい」
「なるほど。
桂華院さんらしいや」
今日は遠足と言うかハイキングというか、まぁそんなものである。
で、ここは高尾山口駅。
学校イベント、高尾山登山である。
なお、時刻は朝の六時。
現地集合だが、五時起きでここにやって来たという訳だ。
ちなみに、この手のイベントでちと他の学校と違うところが有りまして……
「小隊集合!
班ごとに出発しろ!
小隊本部はここ、拠点は山頂に作っているので、チャンネルを確認するように。
時間合わせ3.2.1.0!!」
「一班は1号路を先行。
二班はケーブルカーで4号路を確認。
三班もケーブルカーで3号路を確認。
四班は6号路を確認。
五班は稲荷山コースだ。
六班は予備として待機。
山頂に七班が居るので、何かあったらそちらにも連絡を。
脇道にも警戒を怠るなよ!」
「ねぇ。アニーシャさん。
あれ、うちの警備会社よね?」
「そうですよ。お嬢様。
まさかお忘れですか?」
私の手の届かない所にリュックを掲げて、今日付いてくれるメイドのアニーシャが平然と言う。
うちのメイド連中の中で一番メイドらしいのは、彼女が元KGBのハニトラ要員としてそっちの修行をしていたという前歴があったり。
まぁ、色仕掛けは諜報の基本だからとはいえ、食えないからと本当にメイドになるとは彼女も思っていなかっただろう。
彼女の旧友達については私は知らないことにしている。
私付き秘書のアンジェラやエヴァとは当然仲が悪い。
腰に手を当てて頬を膨らませながら私は、彼らを指差して言う。
「何で来ているの?」
「訓練だそうですよ」
へーそうなんだー
とでも言うと思ったか。
こいつら、北海道に居た連中じゃねーか。
武器は持ってないけど、迷彩服で怖いんですけどぉ!
そんなのを監視しているパトカーから私服の刑事さんがこっちをガン見しているんですけどぉ!!!
「明らかに過剰警備なんですけどぉ!」
「あれでも足りないぐらいです。
本当ならば全面立入禁止にしたかったんですよ!
ここを!!」
キレた私に冷静に逆ギレをかますアニーシャ。
実は私、押されると弱い。
たじたじになりながらもアニーシャの愚痴を我慢して聞き流す。
「お嬢様の行動を損ねることはいたしませぬが、お嬢様の立場というものをそろそろご自覚なさって頂けると、このアニーシャも嬉しゅうございます。
ただでさえ、お嬢様は桂華院公爵家令嬢として……」
あ。
これ長くなるやつだ。
慌てて援軍を探すが、すっと私の周囲から人が居なくなっており、私は友情なるものの儚さを知ることになった。
高尾山は標高599メートル。
私達が今回登るのは1号路で、全長約4キロほどの道を二時間ほどかけて登ることになる。
かなりの部分が舗装されているので、よくこの手のイベントに使われている。
登山というのは基本ペースをずっと維持できるかである。
途中で乱れると大体ろくな事にならないが、そこは私達小学生。
あっちにふらふらこっちにふらふらと見事にペースが乱れまくっていた。
「思った以上に進みが遅いわね……」
最後尾を歩きながら私が汗を拭く。
歩き出してから30分経過。
集団行動なので最後尾のペースに合わせる。
私がこの最後尾に居るのは、クラス委員として最後尾のみんなを拾う役目をしているからだ。
「桂華院。
確認に来たが、どんな感じだ?」
「今の所脱落者は無し。
まだみんなは余裕があるわよ」
「もう少しで金比羅台だ。
そこで休憩を取るらしいからがんばってくれ」
確認に来た光也くんがまた先に行く。
裕次郎くんあたりから最後尾の確認を頼まれたのだろう。
うちのクラスは良くも悪くも栄一くんが中心だから、彼が今頃ペースメーカーとして前を歩いているはすだ。
なお、私の後ろにはアニーシャと訓練中の警備員さん数人。
その後ろを私服警官らしい二人が汗をかきながら付いて来ている。
おかげで他の登山客からの視線がすげー痛いのですが。
「おー。
絶景じゃない♪」
金比羅台到着。
ここで軽い小休憩を取る。
という訳でおやつタイムである。
「ふふふ。
見るがいいわ。疲労回復アイテムをっ♪」
という訳で、リュックから取り出したのは羊羹である。
なおこし餡。
ほどよい疲労感に甘みが実に良い。
「なるほど。
その手があったか」
栄一くんが手に持っていたのはゼリー飲料である。
あっちもたしかに手軽に栄養を確保できるから悪くはない。
「僕も迷ったけどね、思ったよりかさばるからこっちにしたよ」
裕次郎くんが口に入れたのはバランス栄養食のブロックで、手には水筒から注いだ紅茶が湯気を立てていた。
さて最後の光也くんが何を出してくるかと私達三人が注目して見ると……
「あまり見るな」
「くっ」
「なんか負けた気がする」
「うん。これは負けだよね」
お母さんの手作りおにぎりには誰も勝てない。
そんなやりとりが終わると休憩終了。
という訳で、また登り始めるがまだ登り行程1/4しか来ていなかったりする。
山登りはここからが大変なのだ。
────────────────────────────────
でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!
もちろんBGMは木曜映画劇場で元カリフォルニア州知事がやっていたあれである。
高尾山
九州在住民である私はもちろん行ったことは無いが、動画と地図でルート確認。
いい時代になったもんだ。ほんとに。
過剰警備
当然瑠奈は前話の事件を知らない。
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