私の誕生パーティー オフィシャル編 その3
次の来客は必然的に政治筋となる。
来ていた泉川副総理・渕上元総理・岩沢都知事の三人に義父上こと桂華院清麻呂の四人は私と国務副長官の会話に頭を抱える。
もちろん、この席にもアンジェラとエヴァを座らせている事で筒抜けという形で米国側に配慮している。
「ネパールか。
小国と切り捨てるわけにもいかん。
あの国は大喪の礼の際に王族を派遣してくださっている」
枢密院側の立場で義父上が発言すると、病気療養から少し痩せた渕上元総理も頭を抱える。
事が対共産中国の対策で、その背後でインドや米国が何かするのは基本我が国にとってはプラスなのだ。
「とはいえ、米国の方針に異を唱えるならば、何を替わりにしなければならないかだ。
満州独立問題にこれ以上踏み込むのは、外務省が死んでいる今の時点では危険すぎるぞ」
「こうなる事があるから自主独立の方向を作っておけばよかったんだ」
岩沢都知事がぼやくが今更な話である。
事が起こった時にこの国は基本米国に付くか何もしないかのどちらかしか無い。
そして、湾岸戦争時多国籍軍に参加したはいいが、北日本政府が崩壊した結果これ以上の軍事的負担を嫌う風潮があったのも事実である。
「今更それを言っても始まらん。
小さな女王様が教えてくれた事に感謝して、打てる手を打つしか無いだろう。
ネパール大使に警告と、現地大使館への情報収集を私の名前で命じておく。
総理と外務大臣にはこっちから伝えておこう」
初の民間かつ女性外務大臣となった彼女はその組織がスキャンダルで死んでいる以上組織の立て直しに躍起になっており、こんな時の枢密院も流れ弾を食らっている以上危機管理関係を名目に泉川副総理が動くしか無い。
義父上がため息をつく。
「こういう時のために機密費があるのに、これでは使うことすらできん」
機密費の特徴は裏金ではあるが、その裏金を誰にばらまいたのかを分からなくさせる所が最大の武器である。
もちろん、表立ってばらまけない裏社会の皆様が対象になるのだが、治安が安定していない発展途上国においては彼らに金を落とさない事はそのまま命に関わる。
このスキャンダルで外務省の中は綺麗になるだろうが、日本の外交は数年は停滞するだろうと外国のニュースで書かれるゆえんである。
私が口を開いた。
「でしたら、皆様に貸しという事で。
何人かNPOに出向させてください。
それを赤松商事の現地駐在員としてネパールに送り込みましょう」
情報戦では人の移動だけでヒントを与えてしまう。
情報収集の為に人員を増加させるだけで、こっちが察知した事を相手に知らせてしまう。
そういう時のために機密費は使われるのが本来の使い方なのだが、仕方ない。
日本の総合商社が、日本の外部情報機関と呼ばれる仕掛けを使って協力を申し出る。
ドアがノックされて、今日の主役の一人が部屋に入ってくる。
「何かお呼びでしょうか?
ボス」
砂漠の英雄相手に最初から厳しい任務をさせる事になろうとは。
持ってて良かったというべきか、初手から切り札を切る現状を嘆くべきか。
「お仕事よ。
貴方の鍛えた兵士達を分隊(約10人)規模でネパールへ送って頂戴。
クライアントは非公式だけど日本政府。
任務内容はネパールの政変発生の調査を行う人間の護衛と情報収集。
ちなみに政変には米国とインド政府が関わっている可能性があるわ。
星条旗は撃たなくていいけど、星条旗に泥を塗るような事をするなら止めてあげて。
ケツは日本政府というか、そこの泉川のオジサマが拭くそうよ」
元砂漠の英雄はちらりと元現CIA二人を眺めて先に来ていた四人と同じようなため息をつく。
ついでに言うと米軍とCIAの仲はあまりよろしくない。
「前の職場でもよく悩まされた任務ですな。
あとボス。
レディがケツを拭くという言い回しは感心しないですな。
了解しました。
信頼の出来る連中を明日には成田に集めておきます」
私のわざとらしい言い回しに彼がつっこんでくれて場に笑いが起きるが、元現CIAの二人は笑いもしない。
さらりと流しているが、分隊規模なら明日には飛行機で運べるって持ち主では有るが、何をしたのやら。
詳しく聞きたくもないが。
「さて、この商品のお値段。
おじさま達は幾らで買い取ってくれるのかしら?」
「身内割引は効くかな?瑠奈?」
義父上の言い方にまた笑いが起こる。
こういう時の代金は金では無くコネの方がありがたい。
だから私は代金を告げた。
「新宿新幹線」
私の一言に利害が一致する岩沢都知事が即座に乗る。
「新宿ジオフロントの目玉に据えるのだから、都は即座に賛成しよう。
そうなると金よりも国土交通省への建設許可の方だな」
「そっちは私が何とかする。
現役を退いて主流派から外れたとはいえ、まだ影響力は残っているはずだ。
ゼネコンの方にも声を掛けておこう」
そのまま渕上元総理が続ける。
財団法人中小企業発展推進財団の汚職事件で捜査線上に上がり、議員を引退し病気静養だった事で逃げ切ったからこうしてこの場に来ているのだが、総裁選まで彼は東京地検特捜部の一番首として目を付けられていたのだ。
総裁選が終わったから来れたと言った方が正しい。
「私に対する支払いはそれで。
改めて確認しますが、米国が進めている対共産中国への包囲網に対してどうします?
ネパールの件は詰まる所それで、今来ている国務副長官もそこを総理に聞いてくると思いますよ」
私の再確認にこの内閣の特徴を泉川副総理が端的に言い切った。
後の官邸主導を彼はこう言ってのけたのである。
「総理に聞いてくれ」
────────────────────────────────
ネパールの王族
なお、大喪の礼に来た王族が政変を生き残って国王になる。
その凄惨な殺戮劇から王室の権威が地に落ち、王政廃止のきっかけとなる。
満州独立問題
元々は国共内戦で国民党が中国全土を支配するという建前で共産党と戦っていた。
だが、満州を国民党、残りを共産中国が支配して時が経過して『もう満州だけでいいじゃん』という主張が台頭。
もちろん共産中国がそれを認めるわけがないが、状況はロシアの経済危機による空白化と米国と共産中国の対立と限りなく整っていた為に派手に煙をふいている。
初の民間かつ女性外務大臣
この話ではある意味かわいそうな人だが、現実でも波乱万丈な人生を送っている。
ネパール政変
背後に米国がいるのは分かったが、仕掛け人がCIAなのかDIAなのかは不明。
要するにネパールで某ロアナプラで発生した米情報機関のブッキングが起こったのと同じ状況。
ただ、今回の片方は非公式だけど日本政府のケツ持ちの上、下手すると直で大統領に繋がり兼ねないという……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます