象牙の塔の大名行列

「生徒会統合委員会が始まります。

 高等部・中等部・初等部の生徒会執行部及び、各クラス委員は集合してください」


「もうこんな時間なのね」

「栄一くん。光也くん。

 先に帰っていてくれ」

「ああ。

 瑠奈に裕次郎。

 また明日な」

「大名行列か。

 誰が考え出したんだか。

 あの時代錯誤を……」


 華族や財閥一族が学ぶ帝都学習館には、強大な自治権が与えられている。

 親が親だけあって逆らえないというのもあるが、そんな親たちの寄付でこの学園の運営が賄われているのだから、ある意味当然とも言える。

 権力があって、その椅子が少ないのならば必然的に起こる権力争いというのはどこも一緒で、その権勢の誇示の場がこの統合委員会である。

 面白いのがそれぞれの等部で対等では無く、高等部を頂点に中等部がその下請けに、初等部は孫請けという形で序列ができている点。

 考えてみれば当然で、ここに学びに来ている連中のほとんどが将来は人を使う連中になるからで、その社会の仕組みを徹底的に教えるという意味合いがあるとかなんとか。

 逆に、私みたいな高位の華族子女だと、唯一無視できないというか無視するのが難しい年功序列に組み込まれる事で、己の権力の立ち位置と制御を学べという事なのだろう。

 こういう箱庭的権力でボロを出して転落する人間は結構多い。

 なお、大学部の自治会がこれに組み込まれていないのは、大学からは一般入学者が大量に入る事と、かつて猛威を奮った学生運動から切り離す事が目的とか言われている。


「ごきげんよう。

 遅くなりました」


「ごきげんよう。

 気にしなくていいわよ。桂華院さん。

 じゃあ、行きましょうか」


 今、この場の私と裕次郎くんの立ち位置は、初等部低学年のクラス委員という最底辺のぺーぺーである。

 それが行列を組んで中等部に行って合流し、中等部生徒会と合流して高等部にという訳で、ついたあだ名が『大名行列』。

 誰が付けたか知らないが、上手いことを言うものだと感心する。


「けど、桂華院さんがこの行列に参加するなんて思わなかったよ」

「どうして?」


 最後尾を気楽に歩きながら、裕次郎くんとお喋り。

 あまり大声でなければそれぐらいは許される。

 周囲の人間は土下座はしないが端に寄ってくれるので、それ相応の権力に酔えるのは悪くはない。

 酔い過ぎて毒にならなければだが。


「華族の人はこの最後尾が嫌だから、出ないって人が多いんだよ。

 で、中等部や高等部から参加してという感じで」


「分からなくは無いけれども、下っ端を体験する貴重な機会よ。

 逃したらもったいないじゃない♪」


 初等部と違って権限と予算が格段に上がる中等部や高等部は、そんな殿上人たちが権力を奪取しようと親の権力と財力まで使って骨肉の争いに。

 伏魔殿も真っ青な権力闘争を勝ち残ってきっちりと生徒会を運営した連中は、大企業や財閥や政府高官として大活躍するという形でバランスが取られていた。

 このあたりを解決しようとして改革運動の旗頭になってしまったのが、ゲームの主人公であり、一応私は彼女と高等部生徒会を争うというのがゲームの趣旨だったりする。


「そういえば、桂華院さんは雲客会には入らないのですか?」


 別のクラス委員の子が私に話を振り、周囲の耳が一斉に私の言葉を聞き漏らさないと注目するのが分かる。

 雲客会というのは華族で高位の家格を持つ家の集まりで、帝都学習館学園を牛耳る一大派閥で、その名前の由来は殿上人の類語の『雲客』から来ているから本物のハイソサエティークラブである。

 こういう華族閥があるのだから当然財閥閥や普通学生閥なんてものある訳で。

 私の場合は、雲客会の他に当然財閥系からのお誘いも来ていた。


「まだ若輩の身なので、色々と見て回り修行をしようかなと」


 絶対小学生じゃない言い回しでそれとなく拒否したのだが、そんな気遣いを容赦なく突っ込んできた朗らかな声が私の耳に届く。


「あら?

 入ってくれると嬉しいのだけど?

 私は」


 見事な大和撫子な小学生がそこに居た。

 着物が似合う黒髪美人で、同じ大名行列の中で歩いているのだから、彼女もクラス委員なのだろう。

 ゆっくりと彼女は私に頭を下げて挨拶をした。


「自己紹介が遅れましたわ。

 私は朝霧侯爵家次女の朝霧薫と申します。

 どうぞよしなに」


「こちらこそ挨拶が遅れましたわ。

 わたくし、桂華院公爵家の桂華院瑠奈と申します。

 よろしくおねがいいたしますわ」


 こちらも頭を下げて挨拶をする。

 私の場合、本家子女ではないのでこんな名乗り方になる。

 その為、爵位的にはこちらが上なのだが、立ち位置的には同格か私が下がる形になる事が多い。

 特に両親がやらかした事は、貴族社会にしっかり伝わっているだろうから。

 とはいえ、学内に家格や財力は関係がないというのが一応の建前。

 今の私と朝霧さんはともに対等な立場という事を互いに認識した。

 にっこり。

 にっこり。

 互いの笑顔に周囲が一歩引いた。

 これは喧嘩を売っているのか?味方に取り込みたいのか?どっちだ?


「お姉さまがお見合いなさった殿方がいつも、瑠奈様の名前を出しておりましたのよ。

 お姉さまが食事の席で苦笑するぐらいなのですから、一度お知り合いにと思いまして」


 あ。

 仲麻呂お兄様の婚約者の妹という縁か。 




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大名行列

 もちろんイメージは『白い巨塔』の総回診


生徒会の権力

 多分この手の権力が強い話は『蓬莱学園』と『聖エルザ』のどっちかだと思うが。

 で、一応『アンジェリーク』みたいな感じのゲーム設定のつもりなのだが、やっている事が『恋と選挙とチョコレート』じゃねと気づいて苦笑中。

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