サリバンレポート

 桂華院瑠奈。

 日本の貴族桂華院公爵家の子女にして、ムーンライトファンドの実質的所有者。

 元々は両親(既に死亡済み)が東側に内通していた事と、彼女の血脈がロマノフ家の血の中で高位に当たる事から注意対象となる。

 注意対象が監視対象に引き上げられたのは、アジア金融危機及びロシア金融危機からで、彼女が保有するムーンライトファンドがその存在感を増してからである。



 ムーンライトファンドの保有株の状況は別紙に記載。



 これに伴う彼女の桂華グループへの支配率は以下のようになる。



旧桂華財閥系

 桂華製薬

 桂華化学工業

 桂華商船

 桂華倉庫


 桂華製薬を中心に株式の持ち合いが行われ、中核企業の桂華製薬のメインバンクは帝都岩崎銀行であり、岩崎財閥との関係も悪くはない。

 彼女のグループ支配は桂華銀行が中心となっているが、この旧財閥系には積極的な支配の手を出していないのは、伯父である桂華院清麻呂に配慮してと思われる。

 また、グループ内再編で桂華商会は赤松商事に合併。

 桂華海上保険と極東生命は帝西百貨店グループの損保・生保会社と合併した上で桂華銀行傘下に移動している。

 繰り返しになるが旧財閥系のメインバンクは帝都岩崎銀行で、桂華銀行では無い所に注意。

 桂華院グループの本家は桂華製薬であり、桂華化学工業がその次席というのが社長会『鳥風会』の席順ではあるが納得していない企業も多い。

 中核企業の桂華製薬は非公開企業で株式比率は、桂華院家が60%、帝国岩崎銀行が10%、桂華化学工業・桂華商船・桂華倉庫・桂華銀行で30%を保持している。

 だが、桂華院瑠奈が保有する株式は桂華化学工業・桂華商船・桂華倉庫・桂華銀行の30%のうちの3%以下で、その株式名義は旧極東銀行で今は合併した桂華銀行が保有している。

 次席企業である桂華化学工業の保有株式は、桂華製薬が33.4%に桂華院家が10%保有。

 同じく公開している桂華商船と桂華倉庫は桂華化学工業の子会社であり、桂華化学工業が株式の51%を所有している。



帝西百貨店グループ系

 帝西百貨店

   スーパー

   コンビニ

   ファッションビル

   牛丼店

 北海道一次産業企業群

 他社


 桂華銀行の保有株は49%で、残り51%は赤松商事が保有している。

 経営再建後に株式を公開して投資を回収する方針だが、三割程度の株式は保持し続ける可能性は高い。

 管理運営は赤松商事が指導するから現在の保有比率となっている。

 旧北海道開拓銀行から付き合いがある道内一次企業の生鮮食品を関東に直送するビジネスモデルは当たり、順調に経営は再建しつつある。



赤松商事系

 桂華銀行の保有株は44%で、桂華製薬が5%、残り51%はムーンライトファンドが保有している。

 桂華製薬が株式を保有しているのはここに桂華商会を合併させたからである。

 一時は経営危機も囁かれたが、ロシア金融危機時に発生した円の急騰と資源価格の暴落に乗じて資源を買いあさり莫大な利益を生み出している。

 ここも経営再建後は株式公開をして投資を回収する方針らしいが、ムーンライトファンドは株を持ち続けると考えられる。



桂華ホテル系

 旧極東ホテル

 トリプルオーシャンホテル

 AIRHO

 北海道三次産業企業群

 他社


 旧極東ホテルから始まった桂華ホテルグループはトリプルオーシャンホテルの吸収合併によって独自の地位を確立した。

 保有株式は旧桂華財閥系四社が5%ずつの20%。

 残り80%は、桂華銀行が保有している。

 トリプルオーシャンホテル買収に名乗りをあげた世界的ホテルグループから買収の提案が来たが、ホテル側はこれを断っている。

 北海道のリゾート開発を北海道三次企業群と共同で行う他、九州の温泉地の開発も手がけている。

 ベンチャー企業のAIRHOは格安航空事業の他にビジネスジェット事業も好調で、帝西百貨店グループが保有していたヘリ運用企業を吸収し、ハイソサエティ層の玄関先から空港までのアクセスを担っている。

 また、九段下の旧債権銀行本社ビル再開発でホテルとして入る事を既に決定しており、九段下の再開発ビルが桂華院瑠奈の事業本部になる可能性から、このホテルグループは桂華院瑠奈直轄事業になるのではと考えている関係者も多い。



桂華銀行系

 旧極東銀行

 旧北海道開拓銀行

 旧長信銀行

 旧債権銀行

 旧三海証券  (一山証券と合併し現桂華証券)

 旧一山証券  (三海証券と合併し現桂華証券)

 桂華海上保険 (帝西百貨店グループ損保と合併し規模が拡大)

 極東生命   (帝西百貨店グループ生保と合併し規模が拡大)


 日本の不良債権処理過程で生まれた実質的国有銀行で、98年秋に桂華製薬とムーンライトファンドに8000億円で売却された。

 保有株式比率は、桂華製薬が5%で残り95%がムーンライトファンドであり、桂華院瑠奈の絶大な影響下にある。

 機関銀行化を懸念する内外の声から5年以内の株式公開は決定しているが、不良債権処理が終わりムーンライトファンドや赤松商事を抱える桂華銀行の資産価値は高く、時価総額は三兆円を超えると言われている。

 現在、金融ビッグバンに伴う金融持株会社解禁の動きが国会で議論されており、そのモデルケースとしても期待されている。




 現在の桂華グループは、社長会による統制を行いたい旧財閥系とムーンライトファンドを率いる桂華院瑠奈を旗頭にして経営の独立性を保ちたい他社との間で、微妙な綱引きが行われている。

 桂華院瑠奈の類稀なる才能に気付いているのは表向きにはまだ殆どおらず、その実態は彼女が子供である事を利用して、彼女の手駒である一条進と橘隆二を取り込もうとする動きに終止している。

 一方で、桂華院瑠奈は学校の同級生の縁から立憲政友党の泉川辰ノ助議員に接触しその復権に協力。

 泉川議員が立憲政友党副総裁職に就くだけでなく、彼の派閥の柳谷議員が金融再生委員長に就任したことで、日本の金融行政に絶大な影響力を持つようになった事に留意しなければならない。

 事実、泉川副総裁は日本の米国大使館に対して、非公式ながらも桂華院瑠奈に対する我々の監視について懸念を表明している。



(以下略)



 結論として、彼女は順調に行けば今後の日本の政財界に絶大な影響を及ぼす人物になり、彼女を合衆国の敵に走らせてはいけない。

 監視を継続すると同時に、彼女を合衆国の利益として取り込む事をここに進言する。




 アメリカ合衆国日本大使館付情報分析官   アンジェラ・サリバン




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機関銀行

 特定の会社や個人の資金調達を目的に預金を集める銀行のこと。

 財閥かどうかの指標の一つで、この機関銀行を持っているかどうかというのが戦前での財閥の見分け方だったりする。


金融持株会社

 金融ビッグバンの目玉の一つ。

 銀行・証券・保険と異なる業務の総合的指導が行えるメリットの他に、頭を作ることで子会社となった銀行間の逆さ合併等の裏技がしやすくなった事があげられる。

 こいつが無かったら日本の不良債権処理はもっと遅れていた。 

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