私の髪が金髪な訳 因果応報編 その3

この小説は少女マンガ系の古き良きアクションシーンを適度に入れようと考えております。


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「という事が起こっているのよ」

「随分あっさりと言ったな」


 学園の図書室の勉強会にて私は男子三人に事情を説明し、栄一くんが呆れ声でツッコミを入れる。

 なお、この場にも私服の女性警官が端に立って警戒を続けている。


「それならば、明日の船上パーティーの参加は無理?」


 裕次郎くんが女性警官をちらりと見ながら確認を取る。

 アジア金融危機が炸裂したのに暢気なというか、炸裂したからこそ大蔵族は更なる結束をという事でパーティーを企画していた。

 その内実は、来年の参議院選挙と裕次郎くんの父で現大蔵大臣の泉川辰之助議員の与党総裁選出馬の資金集めである。


「いや。

 さらっと言っているけど、私を呼ぶって普通無理って考えない?」


 次期総裁を他に狙っているのは現外務大臣で、外務省は私達華族の牙城の一つだった。

 貴族が生き残る欧州等では青い血の外交は侮れないものがあるからだ。

 なお、外務省が牙城ならば本拠地はどこかというと枢密院である。

 よく残ったなというか、参議院を捨ててもここを死守したというか。


「桂華銀行の一件があるから、お前の家を大蔵族に取り込みたいんだろう」


 光也くんが呆れ声で話を繋ぐ。

 祖父の成りあがりに父の不祥事もあって、桂華院家は公爵なのに華族社会から浮いていた。

 その為に事業の方に専念して、今の隆盛がある。


「あー。

 銀行絡みなら文句も言われないか。

 当主代理出席で私を出してという訳なんでしょうね」


 今頃は大人の間で色々と駆け引きが行われているだろう。

 私は手を止めてため息をついた。


「自分の事を自分で決められないなんて、なんて不便なのかしら」




 翌日。

 護衛を連れて私は船上の人となっていた。

 正装という事で小学校の制服である。


「本当は事件の関係から出席を見送りたかったのですがね」


 スーツ姿の前藤正一警部が苦笑する。

 それを強引にねじ込んだのが泉川議員であり、彼と彼の派閥の権勢を窺い知る事ができる。


「桂華院公爵家ご令嬢。

 桂華院瑠奈様のご入場です」


 拍手と共に私はパーティー会場に姿を現す。

 もっとも、拍手をしながらも客人たちは噂話に花を咲かせていた。


(タイは内閣が総辞職したらしい)

(インドネシアも暴落が止まらない)

(連動して国内の為替と株価がとんでもない事になっている)

(東南アジアに進出していた中堅財閥が行き詰って通産省に救済を頼んだらしい)

(まずいな。

 その財閥がとんだら、更に不良債権が増えるぞ。

 ただでさえ、不良債権処理と消費税増税で俺達は叩かれているのに)

(その為に呼んだのが彼女。

 桂華院瑠奈様という訳だ。

 桂華院グループの桂華銀行と桂華証券は大蔵一族の植民地だ。

 財閥解体と不良債権処理をこっちで行う為には、桂華院家のご機嫌を取らないといけない訳だ)


 だから聞こえているんですけど。

 そんな内心のツッコミを奥に隠して私は小さな淑女としてパーティーの主役に礼をする。


「お招きに預かり光栄ですわ。

 泉川大臣」


「これは可愛らしいレディだ。

 貴方の話は裕次郎がよくしているよ。

 これからも仲良くしてやってくれ」


 さて、呼ばれたはいいが私の年だと生臭い話に絡むこともできないので、必然的に端で食べるかジュースを飲むしかできない。

 東京湾クルーズと洒落込んでいるが、このレストラン船は『アクトレス』号と言って、不良債権だったものの一つで今は桂華ホテルが所有している。

 行き場のないこの船をどうするかという事も実はこの場の話題の一つで、このパーティーがこの船で行われているのも有効活用と言わないではない。

 うちの持ち物だから、安心して警護をおけるというメリットも有るし。


「しかしこの年でこういう場所に出ないといけないなんて面倒だな」


 パーティー初参加の光也くんが嘆息した。

 『帝都学習館カルテット』の名前は親にも届いたらしく、それではという事でのご招待らしい。

 かわいそうに。

 私や栄一くんや裕次郎くんは慣れたもので、子供用テーブルからむしゃむしゃとスイーツとジュースを堪能している。


「そうなのよ。

 ゲームも無いから、妙に時間が長く感じるのよね」


「桂華院さんってゲームするの?」


 私の話に裕次郎くんが食いつく。

 今回は彼がホストなので、楽しませようと努力しているのだろう。

 それに栄一くんも絡んでくる。


「息抜きにね。

 執事の橘が見張っているから、長くできないのだけどね」


「分かる。

 俺の所もいい所で止めさせるんだよ。

 何をやっているんだ?」


「CMが流れている大作RPG。

 ネタバレはしないでよね」


 いや。昔やったのだが結構忘れているのだ。

 ありがとう。セーブ機能。

 あれが無い世代はさぞストレスが溜まっただろう。


「あれかぁ。

 あの世界の大企業って、絶対財閥だよな」


「ですよねー。

 光也くんはあれやってる?」


「うん。

 やったけど、選択肢を間違えたらしくてセーブ箇所から確認している所」


 あっ……




「ちょっと失礼」


 一声かけてお手洗いへ。

 もちろん女性の護衛が付いて来るのだけど、その護衛がぴたりと止まった。


「お嬢様っ!

 下がって!!」


 眼の前に転がってきた何かが突然光って、私は意識を失った。




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与党総裁選

 自民党総裁選。

 なんでもアリの情け容赦無用ルールだからこそ、ここで勝つ人間が大体首相になる。

 で、首相になるのに無理をした人はその後で躓く。


枢密院

 天皇の諮問機関で憲法の番人なんて呼ばれる。

 華族制が残っているから残したけど、立ち位置はかつてのイギリス上院(最高裁)みたいなものになったのだろう。

 財閥解体と共に華族解体も実はこのゲーム世界の日本の問題になっている可能性が。


外務省

 青い血外交で用意された席で最高位が国連大使とかかなと思ったり。

 あとEU大使とかも多分華族でその下に実務者をつけているのだろうと妄想。


CMが流れている大作RPG

 FF7。

 エアリス生存ルートを探して一次中断して情報収集ややり直しをした人は挙手。

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