第2話 帰り道。歴史とか設定とか

 空が朱く染まる前。二人と別れ、ひとり歩いていていた敬の頭上で大きな爆発音が響いた。彼は立ち止まり、ぼんやり見上げる。真っ白な天蓋てんがいに空いた青い穴を。


 ――世界中の空は『グレイクラウド』というナノマシンの雲に覆われていた。エネルギーの供給も、情報のインフラも、その他様々なデータ処理も全て行う社会の要。これにより多くの労働が失われるも、同時に失業者を養うことのできる莫大な資源も生まれた。そして、現在、日本ですら労働者人口は以前の十分の一に満たない。

 しかし、そんな夢の社会にも事件は起きた。とあるサイボーグの排ガスに、『グレイクラウド』を『グレイ・グー』自己増殖するナノマシンが地球を埋め尽くし滅ぼすへと変える成分が見つかったのだ。ちょっとした逃避行の末、そのサイボーグは遺棄されたものの、空にはまだその成分が残っている。

 そのために、増えすぎたナノマシンを定期的に処理する必要がある。それが『灰降らし』。


 敬の周囲の人々が、この時期にしか顔を見せない青空に向かって、携帯端末のカメラを向けていた。彼も鞄へ手を伸ばしかけたものの、何を思ったのか、端末を出すことなく再び歩き始めた。


 ドン、ドン、ドドン。

 大きな音を弾かせながら、輝く灰を撒き散らす青い穴。敬はそんな空の下を、いつものように歩いていく。それは昨日と同じように。きっと明日も同じように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

叫んで五月雨、金の雨。 おくとりょう @n8osoeuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説