第6話 しかし魔石は売り切れだった

昼食後、ついでに手に入れようと思っていた魔石を買いに行く。


 特殊な性質の魔石は学園のあるエーデルハイトでは出回る数が少ないから、購入できる場所に立ち寄る時は必ず見に行くことにしている。


 この町は湖が近くにあり、自然が美しいと訪れる人が多い。その近くには良い採掘場もある。地形によるものなのか、ここでは単なるエネルギー源以外の使い道がある魔石が多く採れる。


 さて、今回はどんな魔石に出会えるのか——

「すいませんねぇ、最近入荷がめっきり無くなってしまって」

——だが全て売り切れだった。


 そ、そんな……採れる場所で売っていなければ、僕はどこへ行けばいいんだ……

「入荷が無いって……原因は何ですか?」


「それが、鉱山が稼働していないっていう話だよ。だから入荷もできないんだと」

「ああ! ちょうど良かった。おーい、今日も魔石は無しかい?」


「そうだよ! 調査も頼んでみてるけど、まだ進展無し。まいったね、このままじゃあ。採掘も何も出来ないよ」

 ガラガラと荷車を引いていた男がこちらを向いて答える。


「すみません、鉱山が稼働していないとはどういう事でしょうか?」

「うん? お客さん、魔石買いに来たの? そりゃ、残念だったね。今は誰も採掘場に近づけない状態で。採りに行けないものはしばらく入荷無し。すっかり在庫切れだよ」


「近づけないとは、土砂崩れとかですか?」

「違う違う。とにかく途中で眠ってしまうのさ。そして目が覚めたら村の入り口に倒れてるんだよ。誰が行っても同じさ」


「俺が採掘に行こうとしたときも、霧が濃くなってきたと思ったら意識が無くなったよ。騎士隊にも調査を頼んでみたが、やっぱり眠って倒れてたよ」


 ペンダントがぼわっと光る。

「うぅーん。魔力絡みの予感だ〜」

 そして小さく呟いた。

「もし魔力絡みならクレア、封印師として何か心当たりはない?」


「魔じゅ……魔力が関係している可能性はあると思う」

「封印師さんなのか! そりゃあ頼もしい。ぜひ調べてくれないかい? 明日にでも」

「……ええ、調べてみましょう」


 次の日の朝、渡された地図の通りに鉱山の方へと向かうことにした。

「たくさん歩いたーっ。森に入る前にちょっと休憩しようよ」

 クレアはそう言って、ちょうど良さそうな石に腰掛ける。


「発生している霧って何だろう。魔獣とは関係あるのだろうか」

 歩きながら考えていたことを口にする。

「可能性はあると思う。ただ、魔獣自体の気配が掴めないから、分からない。この先に魔力が多い何かがあるのは確かだけど……」


 騎士隊員が途方に暮れた様子で鉱山の方角から歩いてきた。

「調査の要請で来てみたけど、現場に入れないときってどうすればいいんだ?」

「お、俺に聞くなよ……途中で意識がなくなるので、何も分かりませんでしたって報告するのもまずいだろうし……」


「応援、呼ぶか?」

「でも、今は図書館の襲撃と野獣の件の後で人手が足りないって……報告したくないなあ」

 そして町の方へと歩いていった。


 鉱山で働いている人によると、以前は霧が出ても道に迷うほどではなかったらしい。今は霧が濃くて夕暮れ前に引き揚げないと危険だと言っていた。それで彼らも、陽の高いうちに調査を終えているようだ。


「お、おお!? 思い出したぁあー! 『エリサ! エリサー!!』って」

 胸元から大きな声が発せられる。

「どうしたの? それって何?」

 そろそろ自分の近くから違う声が聞こえてくるのにも慣れてきた。


「それはね! あれれ? うーんと……何度も何度もこっちに向かって、そう言ってた人がいたよ。だからボクに関係ある何かだよ……たぶん!」

「人の名前……もしくは魔道具に関する名称かもしれないね」


「そっかあ! じゃあ、ボクのことはそう呼んでおいてよ。いつまでも“話すペンダント”だと自己紹介のときに大変なんだよー言いにくくて。長すぎるよねえ」


 この際だから誰に自己紹介するんだろう……という疑問は隅に追いやっておくよ。


 襲撃された馬車が1台、見晴らしの良い平原に停まっている。しかし前回と違い、襲ってきたのは魔獣ではなく人だった。


「ありがとうございます! 助かりました」

「どうなる事かと思ったけど、こんなに早く助けにきてくれるなんて」

乗客は安堵の表情を浮かべている。野盗はすっかり無力化され、大勢の騎士隊員が警備や後処理に動いている。


「くそっ、何でこんなに早く駆けつけてくるんだよ!!」

「例の騒ぎに乗じて楽勝だと思ったのに」

 直近の事件で騎士隊の手勢が少ないだろうとタカを括っていたならず者たちは、自らの運の悪さを嘆いていた。


 なぜならベルラゴへ向かう街道に出没していたとされる、馬車荒らしの討伐隊がすぐ近くにいたからだ。その集団に遭遇してしまったのだから、半端な野盗が相手では一瞬で決着がついてしまった。


「辺りを捜索しましたが、他にはいないようです」

「馬車が襲われる騒ぎはコイツらだったのでしょうか? 報告では大きな獣のような姿と聞いていますが……」


 部下からの報告を一通り聞いた隊長は一時思案し、答える。

「……。ひとまず、乗客を町まで送ってください。後日、もう一度周辺の捜索を。奪われた物品も探さなくては」


「私は街へ戻り図書館の調査を続けますので、急ぎの報告があればそちらへ連絡してください」

「了解しました」

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