第14話 白の探し物③
「やめろ! そいつは貴重な実験体だ!」
戦闘が始まってからは森の入り口あたりの木の後ろに隠れて見ていた白衣の男が喚く。
「こんな人間どこにでもいるだろう!」
「違う! そいつはただの人間じゃ無い! 藤の一族だ!」
「それを殺したらもう二度と手に入らない! どう責任を取るつもり?!」
男は「藤の一族」と聞いてもピンときていないようだ。珍しい髪色と凄まじい戦闘力、回復力を誇る少女はともかく、黒髪の少女にはそれほどの価値があると思っていなかった。
むしろ、そこら辺に掃いて捨てるほどいる者たちの中から運悪く捕まって、こんなところに閉じ込められていたのだと思っていた。予想はだいぶ外れていたらしい。
白衣の者達は必死に「殺すな」と言い続ける。どうやら花凛は男が思っているよりもずっと稀有な存在のようだ。周囲の白衣の者達の思いも寄らない迫力に押され、首筋に当てていた刀をほんの少しずらした。
(いまなら)
少女は男の意識が花凛とその命に向いた瞬間、また走り出した。今の会話で分かったのだ。例え首を斬られたとしても、殺されることだけは無いということが。
それに気付いた男も対応しようとするが、想定以上の花凛の価値と殺しの禁止によって判断が鈍った。勢いに任せて斬れば、脅しのつもりでもうっかり殺してしまうかもしれない。だが、それをしてしまえば後で白衣の者達にどんな難癖をつけられるか分からない。だからこそ動けなかった。
男は片手で花凛を抑え、逆の手で刀を持っている。今ならば男の目を潰して花凛と引き離すことができる。少女はそう判断して迷いなく瓦礫を振るう。
残念ながらそれは男の目まで到達しなかった。後三歩程の所まで来た時、足元目掛けて矢が飛んできたのだ。後ろに跳んで下がったことで足を射抜かれることはなかったが、花凛を取り戻すこともできなかった。
「五班現着、援護に入りまぁす! 弓を使えるものは散りなさい。全員が持ち場につき次第一斉射撃を行うわ! それまでは各自援護に努めよ!」
少女にとっては悪い知らせ、軍服の集団にとっては朗報だ。
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