第2章 妖狐
第12話 白の探し物①
少女は走った。探していたものが見つかったからだ。迫り来る攻撃を避けながら、その間を縫うようにして右へ左へ駆け抜け、足の下へ滑り込み、高跳びのように跳び、自分を捕まえようとしてくる軍服の集団を翻弄して走った。目指す場所はただ一点。包囲網を抜けた場所にある。
集団に与えられた指示は二班に分かれてそれぞれの確保であったが、花凛に逃走の意思も能力もないと分かったことで、戦力の全てが少女に向けられていた。
四方を囲まれるのは当たり前。乗り越えたとしても、それを予想していた別の軍服が着地を狙ってくる。小さい体を活かして足元へ滑り込んで抜けたとしても、その先に刀を振り下ろされる。
息を吐く暇もない連携の取れた攻撃だ。それでも少女は、着地点を狙われては転がって避け、滑り抜けた先を狙われては高く跳び、周囲を囲んでいるが場所がなく待機状態にある三人ほどの頭を踏み台に一気に進み、着実に探し物に近づいていった。
「くっそ、ちょこまかと!」
「絶対に逃すな!」
「一班! 左右に分かれて挟み込め! ニ班は援護! 死ななければ多少は痛めつけても構わん! 足でも腹でも斬って足止めしろ!」
集団の半数が素早く左右に展開した。残り半数はその隙間を埋めるように散らばる。少女はそれを見て地面を強く蹴り、挟み込まれる前に左右の集団の真ん中を通り抜けた。しかし、その先に隙間から援護するために待機していた二班の班員が行手を阻む。
それでも少女は速度を落とすどころかさらに上げ、一人目の懐まで潜り込んだ。そして、ぶつかる直前で軍服の斜め後ろに通り抜け、そのまま稲妻を描くように軍服達の間を縫い、何人もの間を抜けていった。
そして最後の一人の足の下に滑り込み、後ろまで回り込んだ。もう少女の行手を阻むものはいない。そして、目の前には森が広がっている。後はその中に逃げ込んでしまえば、隠れる場所だらけだ。生い茂る木々も、群生する植物達も全て体の小さい少女にとって都合の良いものだった。
「追え! 森に入らせるな!」
そう叫びながら自分は走っても間に合わないと悟った男は、持っていた刀を少女目掛けて槍投げのように投げた。投げられた刀は先を走る者達の間を少しもかすることなく通り抜け、まるで少女の背中に吸い込まれるように進んでいく。
それに気付いた少女は上に跳んで回避しようとした。だがいつのまにか正面に二人ほど回り込み、跳ぼうとする少女目掛けて刀を振り下ろしている。
少女は振り下ろされる刀を右足を半円を描くように引いて避け、腕が降り切った時、それを足場にして跳んだ。
十分に反動を使えるほど余裕は無く、それほど高くは飛べなかった。足場にした軍服の頭上で一回転して飛んできた刀を躱し、その背後で着地する。
頭がぶつかりそうなくらいギリギリの高さしか飛べなかったが、空中で体の軸がブレることもなく、安定した着地ができた。そして、着地した瞬間また地面を蹴り目当てのものに飛びついた。そして目当てのものを掴んだ少女は森など目もくれずに、軍服集団に向かって走り出す。
「なっ、森に向かわないだと?! っぎゃぁぁぁっ」
「がっ! かひゅ、げほっ、おえぇっ」
少女が掴んだ目当てのものは、片手で持てるほどだがナイフのように先の尖った瓦礫と人間の目玉ほどの大きさの石だった。
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