第50話 王都からの脱却
プロレジア帝国の最北端の街カルセイでダンジョンに潜って冒険をとジンがヒューイと街を散策していたら、『ノースディア』人という少数民族の何人かに無差別に矢を射られた事を切っ掛けに、そこの領主である辺境伯様と『ノースディア』人の仲を取り持つことになって、両者から感謝されながら”魔女の道楽”に無事戻って来たジンとヒューイとドールは久しぶりに下宿でゆっくりしたひと時を過ごしていた。
「イザベラ、旅の途中で武器屋に寄ったらイザベラに最適な武器を見つけたので買って来たよ、お土産としてはこれしかないけど、ほら」と言ってイザベラに『マジックスピア』を渡した。
「私、魔法師よ!武器なんて必要ないわよ」
「でも、投げれば必ず当たる槍だよ、しかも持ち主の魔法特性を纏い相手をやつけるマジクアイテムだぞ」
「ふ〜ん、魔法を纏う事が出来る槍ねぇ、一応【次元ストレージ】の腕輪に入れておくわ、ありがとう」
「何だか、感激が薄いよなぁ!」
「しょうがないじゃない!魔法師は魔法が武器で剣とか槍など使わないもの」
「俺は全て使うぞ」
「ジンは人外なのよ」とイザベラ。
二人の会話を横でヒューイがニコニコ聞いていた。
「イザベラさん、せっかくパパが買って来たのだから必要なくても喜ぶふりをしてあげてよ」とヒューイ。
「そうね、ヒューイちゃんは大人ね」と笑って答えるイザベラ。
「ところでイザベラ、王様がイリーナさんに言っていた、特別編成魔法師団と騎士団の話はどうなった?」とジンが話を切り替えて聞いてきた。
「母がハリス侯爵と話を詰めて、侯爵の奥様、娘のフェリシア、母、イリア叔母さま、私、王家筆頭魔法師と第一、第二の魔法師さん達総勢8名が2ヶ月に一度ハリス侯爵の訓練場で訓練することに決まったわ」
「俺が思うに、仲間内で訓練してもそれは基礎的な訓練であって、実戦訓練は矢張りダンジョンとか潜って魔物と対峙しないと腕は上がらないと思うぞ」
「そうなの?」
「実戦と訓練は全く違うぞ、剣だって訓練は型とか基礎訓練は出来るけど実戦が一番だもん。もちろん基礎訓練も大事だけどね」
「お母様も似たような事を言っていたわ」
「実戦訓練は俺が鍛えてやるから任せろ」
「ジンが任せろと言ってもそんなにしょっちゅう一緒に行けないしなぁ」
「一緒に行く回数より、内容の濃さの問題だからな」
「お昼ご飯を用意しようか?」
「俺とヒューイはお昼を食べたら、久しぶりにダルゼの冒険者ギルドにクエストでも見に行ってくるよ」
「お昼は久しぶりにカツカレーにしようか?」
ジンは5人前のカツカレーを用意してイリーナとイリア叔母さんを呼んでドールに店番を頼んだ。
イリーナ達は久しぶりのジンの料理で、「矢張りジンが帰ってきてくれて美味しい料理が食べれて感激だわ!」
「イリーナさん、カツカレー程度で美味しいと感激してくれるのはあなた方3人だけですよ」と笑った。
「午後からギルドに行くなら、イザベラ、イリアとお店に出てくれる、私はジン君と一緒にギルドでデートするわ」
「ええ?実戦経験を積むわけ?」
「そうよ、魔法師は剣士より更に実戦が大事だと私は思っているは、臨機応変にどんな魔法が一番最適か一瞬の違いが生死を分けるときだってあるもの」
「特に、ジン君からいただいた『シールドの指輪』を瞬間的に発動させて攻撃を躱すのか、ずっと発動させておくのか、その辺は実戦でしか鍛えられないわ」
「それに、一番頼りになるジン君が居るときじゃなければ無茶できないもの!と云う訳で、イザベラ、店番よろしくね」
カレーの後は、少し薄めのアメリカンコーヒーを飲んでジン達4人でギルドに向かった。
掲示板のクエストを見ると、ワイバーン2匹の討伐とガメリオン3匹の討伐が有ったので、2枚を剥がして、リリアンに出した。
「ジン君、お久しぶりです。色々回ってご活躍の噂は聞こえてきましたが王都でもう少しクエストの方をお願いしますわ。ジン君が居ないと難しいのばかり残ってしまいます」と言われてしまった。
「ワイバーンは2匹で金貨40枚、ガメリオンは3匹で銀貨150枚ですがよろしいですか?」
「うん、久々のイリーナさんとの連携を深めるのが目的だからね」
「そうよ、リリアン。ジン君と愛を深めてくるわね」
「はいはい、最近は年の差婚が流行りだそうですから・・・」
「あら、ジン君と私それ程年の差なんて無いわよ」
「なにを仰いますか!未亡人の方が。亡くなったご主人が嘆きますよ」
「主人はジン君なら喜んでくれて居るわ、イザベラが恋敵だけどね!」
と軽口を言って、ワイバーンの居るところに【転移】した。
「イリーナさん、まずは逃げられないために翼を二人で処理しましょう」
イリーナもジンも同時に【ファイアアロー】で2匹のワイバーンの翼に穴を開けて、飛べなくしてから、イリーナは【エアカッター】で1匹目の首を切り落とし、2匹目を【アイスロック】で足を氷で自由を奪い、同様に【エアカッター】で首を切り落とした。
ジンは、流石年の功でイリーナの魔法には躊躇がなく的確な魔法を瞬時に放ち完璧だと感心した。
「ジン君、感心なんてしないでよ!ワイバーン程度では楽勝よ」と人の気持ちまで読み取る余裕があるイリーナ。
彼女の【次元ストレージ】に収納して、次のガメリオンの居る場所に【転移】して、ガメリオンを探ると100メートルほど先に3匹がいる。
今度はドールとヒューイとジンが【縮地】で一瞬で間合いを詰めて剣で切り倒した。
4人でギルドに戻り、素材置き場に納品してリリアンに納品書をだした。
「相変わらずあっという間の時間で討伐完了ですね!どちらのカードにお入れします?」
「イリーナさんのカードにお願いします」
「それでは金貨40枚と銀貨150枚をイリーナさんのカードに入金させていただきます」
「ジン君お茶飲んで帰ろう!」
「はい、イリーナさん何処かいいとこご存知ですか?」
「店と反対側の50メートルほど行ったところにある喫茶店が紅茶が美味しいわ」
ジンはドールを先に帰して、ヒューイ、イリーナ、ジンで喫茶店に入った。
ジンはなんとなく自分に何かイリーナが言いたいのだろうと感じていた。
「イリーナさん、俺に話したいことが有るんでしょ?」
「顔に出てる?」とイリーナ。
「いや、イリーナさんが俺をデートに誘うなんて珍しいからな」
「あらいやだ、私だって毎日貴方とならデートしたいわよ」
「俺もイリーナさんのように綺麗でボインの熟女なら毎日でも歓迎だな!」
「実はね、ハリス侯爵と王様が考えて居る何かあった時の特別編成隊の件だけど、私としては余り乗り気では無いのよ!
「どうしたんですか?」
「私は魔法学園で散々王族派、貴族派、中立派の確執を見てきたでしょ?それが嫌で幸いジン君が現れて、キッカケを貰い、辞めれたのに再び又王族派の組織に縛られるのに嫌気が指しているの」
「それにしてはイリーナさん、イザベラやイリア叔母さんを巻き込んでいるじゃないですか!」と少し批判気味に言うジン。
「確かに、そうなのよね、ただ私の計算の中には、お店に篭って外との接触のない二人が王家の人や、貴族達との接点で交友関係が広がればと思っていたのだけど、このままでは王族派内だけの関係でしかならないのよね」
「もともと王家と王族派のハリス侯爵さんの言い出した組織だからそれは最初からわかりきっていることでは・・・?」
「私は貴族派や中間派の中でも子供達を通して仲の良い奥さん達を知っているのよね、もちろん貴族派の公爵と奥方みたいに王家を倒して自分達がこの国の王に、などと思っている人も確かにごくわずかにいるけど、でもほとんどの奥方達は普通の主婦で、別に貴族然としているわけではないのよ」
「今の状況を続けていると、普通にお付き合いできていた奥方達と殺生を交えた戦いになる気がしてたまらないのよ」
「どうしたいのですか?」
「ジン君達とイザベラ、イリアと何処か誰も知り合いの居ないところで冒険者をしながら暮らしたいの」
「お店はどうなさるのですか?」
「店なんて、誰かに売ってしまえばいいことだもの」
「でも、俺もそうだけど、イリーナさんの方がこの国では顔が売れすぎて居ませんか?」
「ジン君、今回各国を回って見てのんびり出来る国はどこだった?」
「そうですね、俺は住みやすいという考えより、食べ物が美味しいところということでどちらかといえば選んで居たので、ベルギア公国がこじんまりしていて果物が美味しいし、住みやすいと思いますよ」
「ハリス侯爵様や王様に何か有れば僕らは瞬時にダルゼにいけるので、煩わしい日々を避けるのであればベルギア公国の南の海岸辺りの村がいいと思いますよ。時々冒険者ギルドで魔物討伐したりして、技量の保持をすればいいのでは?」
「でも、一番楽なのは『空飛ぶ車』の中で全て生活できるので、それこそ小さい村から大都会まで、車で移動したり、平原で数ヶ月定住するのが一番自由に暮らせますよ」
「くるまかぁ!それって良いかも・・・。お金はこれ以上稼がなくても有り余るほど有るし、なければ『エリクサー』でもオークションに出せば5人ぐらい楽に暮らせるしね」
「俺は最初からそういう生活だったから慣れているけど、イリーナさん達3にんがどうかだよね?王様達との緊急連絡はハリス侯爵様との『遠距離通話器』が有るから、全く問題ないし、僕も車の中で魔法の研究をのんびりできるからなぁ」
「俺は、イリーナさんが良いように考えてくれればそれに従うよ」
「ありがとう!私達と知り合ったお陰で王族派とか貴族派などとの確執に巻き込んで申し訳ないと思っているわ、ごめんね!」
「イリアとイザベラにも意見を聞いてみるわ。そろそろ帰りましょうか?」
ジンとイリーナ、ヒューイは”魔女の道楽”に戻ってきてジンが夕食を準備することになった。
夕食はマナバイソンのステーキでガーリックとバターの味をふんだんに染み込ませて、ボルシチのスープを『魔法の鍋』いっぱいに作り、ピロシキを2個ずつ行くように作り、イタリアン風野菜サラダでイリーナさんとイリア叔母さんはエール、ジンとイザベラ、ヒューイが果実ジュースで乾杯して食べた。
それから、お茶の時間にして、苺紅茶を飲みながらイリーナがイザベラとイリア叔母さんにジンと先ほど話していたことを聞いてみた。
イリアは大賛成で「もともと王族、貴族と縁が全くないので鬱陶しいと思って居たからジン君と旅できるなら嬉しいわ」と言ってくる。
「イザベラはどうなの?」
「私なんかより、お母さんの方がこの国では有名人だから周りが引き止めで躍起にならない?」
「私が思うに、王族派の魔法師特別編成チームのヘッドをハリス侯爵夫人がすれば良いし、何かあれば我々5人が常に一緒に動いているのだから先方としてはそれが一番いいでしょ?」とイリーナ。
「それなら定住地は定めないで、本店を売ってしまってキースを残しておく?せっかくドロシーさんがやる気で頑張ってくれているので」とイザベラ。
「両方とも売らずに、魔道具店はキースにして本店は店舗と住宅地をを貸家にすれば?」とジンが言い出した。
「毎月家賃収入も入るし広い敷地で売っちゃうのは勿体無いと思うけど」
「そうね、ジン君のいう案で行きましょうよ」とイリーナ。
「ジン、『空飛ぶ車』を改良して、カーテンで仕切らず小さくても一人部屋を3つにしてくれる?部屋数としては4つかしら?」
「ジン君、それなら一部屋イザベラだけで良いわ!私とイリアはジン君に裸みられても全然平気だもん」
「いやいや、イリーナさんが平気でも俺が平気じゃないけど・・・、本当に一部屋で良いのですか?まぁ、まずければ途中で変更しますから」
結局、ジンのいた前世のキャンピングカーでの生活みたいな動きになった。
「お母様、ハリス侯爵様には手紙を書いて送った方が良いわ、どうせ引き止められるから」
「店を貸すのを明日、私が商業ギルドに行って決めてくる」とイリーナ。
「今後は色々なところでジン君達と冒険者として生活するのね?」とイリア叔母さんが嬉々として言った。
「時々はキースの店に魔道具を持って行ってドロシーさんに渡さないとね」
とイザベラがいう。
「それに関しては、俺の【複製】魔法ですぐできるから大丈夫だ。イザベラの冒険者生活だけが心配だぞ!」
「ジンから色々アイテム貰ったから、バッチリだと思うわよ」
「そうだと良いのだが・・・」とジン。
明日は『空飛ぶ車』の亜空間を若干直して、イザベラの個室を作ろうとジンは考え、ヒューイと2階にあがった。
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