第49話 プロレジア帝国最北端の街

帝都の地下に広がる15階層の”大氷河期のダンジョン”を踏破したジン達は大金を受け取って宿に戻って来た。


夕食を二人でのんびりと食べていると、あちらこちらから帝都の地下に存在していたダンジョンが今日、踏破された話をどこの席でもしていた。


「なんでもレンブラント王国に所属する若い青年と絶世の美女二人だそうだぞ!」


その時、ちらっとジン達の席を見る奴がいたが、「彼らは女性がひとりじゃん、踏破したチームは二人と聞いたぞ、あいつらは違うだろう?」などと、ずいぶん話題になっていた。


帝国建設以来、誰もなし得なかったダンジョンを他の国の冒険者に踏破されたのできっとこの帝国の冒険者は悔しいのかもしれない。


ただ、ジンのようにチートなスキルと魔法が有っても、剣がかなり使えないとここのダンジョンは踏破は難しいだろう。


帝都の街はレンブラント王国の王都と同規模の街並みで、人口も同程度だ。


夕食はマナバイソンとケルピーの照り焼きステーキで美味しくジン達は平らげ、二人で少し街を散策してみる。


夜は飲み屋街がずいぶん賑やかだ。


ジンもヒューイもお酒は飲まないので、屋台のお店で串焼きをほうばるヒューイ。


「ヒューイ、今夜ご飯食べたばかりで又串焼きを食べるのか?」


「パパ、別腹って言葉知らないの?


「赤ん坊のお前に言われたくないよ!」


二人でのんびり歩いていると、ヒューイが「パパ、つけられているね?」


「なんだ、遅えよ!食意地が張っているから食べ物に集中して油断してないかい?」


「パパがちゃんといるときは、私はパパに頼り切っているわ!」


「消えるか?面倒だから。それとも倒してしまう?」


「面倒だから、もう宿まで一気にもどりましょ」


一瞬でジンとヒューイは”アネモネの里”の自分たちの部屋に【転移】した。


「パパは最近優しくなったよね、以前なら手足を切って衛兵に突き出してたじゃん」


「いや、自分の国でもないところで衛兵呼んで事情説明して、面倒が嫌なだけだよ、お前とせっかく美味しいもの食べて冒険旅行しているのにわざわざ強盗さんの相手などしてられないよ」


「シャワーでも浴びて寝ようや、明日はクエストか他のダンジョンでも潜ってみよう」と意識を手放した。


翌朝、二人で朝食を食べて、”アネモネの里”にお礼を言って、後にし、プロレジア帝国の最北端の街カルセイに向かってみる。


『空飛ぶ車』で上空を飛んでいると、ワイバーンが獲物と思い襲って来るが

『レーザー砲』の試し打ちに丁度良いとドールに言ってワイバーンを『レーザー砲』で撃ち落とし、下に落ちる前に【アトラクト】で車に引き寄せて回収する。


魔物が襲って来るのも鬱陶しいので高度をあげて少し速度もあげ、カルセイの城門入り口手前1キロの所に降りた。


衛兵に冒険者カードを見せて、カルセイの街をゆっくり走らせる。


街の連中は車を見るのが初めてで、馬車と全く違う魔動車を見ておどろいている。


車内でモニター検索してお勧めの宿を見ると、ギルドの先50メートル向かいの”北の街角”という宿が出たので、そこに向かった。


ドールはいつものように裏庭の空きスペースに駐車して待機する。


ヒューイとジンが宿に入って、「すみません、ツインで1泊部屋が空いてますか?」


出てきたご主人らしい旦那さんが「はい、大丈夫です。1泊銀貨1枚です」


ジンは銀貨1枚を出して部屋の205号室の鍵をもらった。


「朝食、夕食共に6時から10時までで、ラストオーダーが9時半です」とご主人が言って、奥に引っ込んで行った。


部屋に一旦入って、シャワーと着替えをしてから、少し早めの昼食を部屋で【次元ストレージ】から出してヒューイと食べ、すぐにドールを連れて、冒険者ギルドに向かった。


冒険者ギルドは昼ということもあり、食堂はそれなりに混んでいたが、受付はガラガラで、クエストを眺めるも昼過ぎまでいいのは残っていなかった。


「ヒューイ、今日はのんびり3人で街をぶらついて、明日早朝からこの管轄のダンジョンが有れば潜らない?」


「そうしよか、きょうはこのまま街を歩いてみよ!」


「パパ、あそこの武器屋さんに入って見ない?」とヒューイ、


「ヒューイ、何かを感じたのか?俺には何も感じないぞ!」


「私も別に感じないけど、ただ店構えが素敵なんで入って見たいと思っただけよ」


3人はヒューイが行った店に入る。3人にはそれぞれ魔剣を持っているのでそれ以上は必要ないがイリーナ、イリア、イザベラにいいのが有ればと思いながら見てみる。


イザベラ達はあくまで魔法師なので、武器は魔法と魔法の杖なんでやはり剣などはいらない。


そんな気持ちで眺めていると、「パパ、この槍絶対に外れないで相手に刺さり又投げた人の元に戻る槍でパパの『幻影』の短剣と同じだね」


「これなら、イザベラが魔物に投げても当たるし手元に戻るか!」


ジンが【鑑定】するとこの槍は、持ち主の魔法を歯先に纏う事が出来る槍とでている。


「ご主人、この槍はおいくらかな?」


「金貨30枚です」


”おう、意外にやすいな!”と思いカード払いで購入して【次元ストレージ】にいれた。


「ドールも何か気に入ったものあればいいぞ!」


「いいえ、私自身が武器なので特に必要もないです。それに私には『雷剣』がありますから」


結局3人はイザベラ用に『魔法の槍(マジックスピア)』を買っただけで店をでた。


「ヒューイ、ケルピーの串塩焼きでも食いながら見てみようか」とジンは屋台の串焼き10本ずつ買って食べながら歩いている。


かなり歩いてそろそろ宿に戻り夕食をと戻りかけた踵を返したらジンはとっさにヒューイと自分にシールドをかけた。


ジンとヒューイを特定して狙ってきたわけではないが、北方の少数民族の『ノースディア』という連中が街を襲ってきたようだ。


無差別に街の住民を襲い子供も女性も矢で倒される。


ジンは即座に『ノースディア』の人数といる場所を確認して【サーチ】と【イレージング】を併用して一瞬で襲撃者を消し去った。


又、矢で傷ついた子供数人とご婦人2人を【ヒール】を掛けてあげて助けた。


遅れて駆けつけてきた騎士団が襲撃者を探すがジンが消し去ってしまったので一人もいない。


結局無駄足になって戻って行ったが、外の城門の兵士4人が犠牲になり、その数時間後に隊列を組み500人程の、騎馬隊が北門から出て『ノースディア』の少数民族の討伐に出て行った。


ジンはとりあえず夕食を食べに宿に戻って、ヒューイと二人で宿の夕食を食べていた。


何やらこの街出身の冒険者達が冒険者ギルドから招集をかけられ、ギルドに向かって数人が食堂から出て行った。


「パパ、何だか慌ただしくなって来たね、さっきの襲撃の報復に行くのかしらね?」


「民族間、特に少数民族が土地を追われ今こうして人間族が最北の地まで領地を広げていると土地を追われた原住民はそりゃ、頭にくるよな?」


「一緒に住もうとはしないのかしら?ドワーフとかエルフだって混じって住んでいるじゃない?」


「彼らにも何かしらの理由があるのだろ?」


「しかしさっきのような事をくり返していたら、反発を食うだけで理解されないと思うな、帝国が本気を出せば殲滅されて一人も残らなくなると思うよ」


ジン達が宿に戻って部屋に入りゆっくりしていたら、裏庭に誰かが潜んで居るのをジンは感じ取った。しかも、かなりの傷を負っているようだ。


ジンは直ぐに裏庭に【転移】で傷ついた賊(?)を【ヒール】を掛けて治し、一緒に部屋に【転移】で戻った。


観ると未だ幼い子供の坊やだ!


「坊主、安心しろよ!傷は治したからな、坊主は『ノースディア』だな?他の連中はどうした?」


「うゥ、殺せ!生き恥を晒す位ならさっさと殺せ!」


「せっかく、お前を治して助けたのにそんなに直ぐに死にたいのか?俺達は味方では無いが、お前の敵でも無いぞ!」


「この国の人間は皆敵だ!」


「残念だが俺達はこの国の人間では無いぞ、隣りの国から魔物討伐をしながら旅をして来た冒険者だ」


「ええっ?そうなの?でも味方では無いよね?」


「ああ、今のところはな、街を散歩してたらいきなり無差別にお前達の仲間に襲われ、罪もない坊主より小さい子とお母さんが弓矢で怪我させられて、そんな連中を味方とは言えないなぁ!」


「あぁ、あれは、おとぅの命令を聞かず一般の人を襲った奴がいて、直ぐに前線から外した。すまなかった!」


「何だ?やに素直じゃないか、坊主達は街の住民をやつける為に襲って来たのでは無いのか?」


「僕らはむやみ人を襲わないよ、きょうも女性が二人攫われたので取り返す為に街に侵入したんだ!」


「何だか話が見えてこないな?坊主の所の女性がここの住民に襲われたのか?」


「住民じゃない、3人の騎士の連中だ!」


「坊主、それなら攫われた女性を取り返したらお前は塒(ネグラ)に戻れるのだな?なら、俺がその女性達を助けてやるから、一緒に来い!」


「良いのかい?」


「どうも、話が見えないからまずはお前の言う女性を助けてからお前のおとぅとやらにゆっくり話を聞く必要があるな」


ジンは【サーチ】で攫われた女性達が居る場所を突き止め、ヒューイと坊主を連れて【転移】した。


彼らが【転移】した場所は街の市場の倉庫の前で、兵士が3人警備に立っている。


兵士がこんな街中の市場に居るのがそもそも可笑しいが、取り敢えず3人の意識を奪い、倉庫の中にいた女性二人を助け出した。


気絶している兵士も連れて宿の裏庭に【転移】して『空飛ぶ車』に乗り垂直上昇して門の兵士にも気が付かない高さで移動して『ノースディア』の隠れ住処に降りたった。


30人程の『ノースディア』人の兵士達が武器を構えて取り囲んだ。


ドアを開けて先に出てきたのはジンが助けた坊主と攫われていた女性二人、続いてジンとヒューイが降りてきた。


坊主の父親らしい男が女性と坊主に近ずいてきて、何やら話を聞いて、ジンに近ずいて来た。


「息子と拉致された女性を助けてくれてたそうで、かたじけない、感謝申し上げる、儂は族長のアウグストと申す」


「俺は隣の国のレンブラント王国の冒険者のジン、こちらは家族のヒューイだ」


「坊主の話では良く話しが見えないのだが、俺達が街で耳にした話だとカルセイの街を時折『ノースディア』達が襲って来ると聞いたが?」


「儂等は決して無闇に街の人達に危害を加えてはおらん!攻められて、やもう得ず反撃はするが此方から街を襲ったりはせん」


「だが、きょうはいきなり襲ってきて罪もない子供と女性が矢で射られて大怪我をしたぞ!俺達にも矢が飛んで来たからな!」


「あれは儂の命令を無視してやった奴がいて直ぐに処罰した、子供と女性は無事か?」


「ああ、俺が【ヒール】を掛けて治した!」


「お主【ヒール】が使えるのか?是非助けたい仲間がいるんだ、頼む助けてやってくれ」


「構わんよ、そこに案内してくれ」


ジン達が案内された小屋には子供が一人、女性が二人、男性の兵士が5人皆重症の切り傷を負っていた」


ジンは片っ端から【ハイヒール】を掛けて全員を完治させて上げた。


族長のアウグスト以下男性達が皆ジンに跪いて感謝を示すので、慌てたジンが「皆立ってくれ、別に大層な事をした訳じゃ無いのだから、それよりも、どう言う事か少し詳しく話を聞かせてくれないか、」


「その前に、女性を監禁していた兵士を捕まえてきたんだ、そいつらが誰の差し金で君たちの女性を拉致したのか確認するからちょっと待ってくれ」


ドールに念話して3人の兵士を連れて来させ、ジンが聞いても口を割らないので仕方なく一人の兵士の頭に手を添えて、彼の脳内の記憶を引き寄せた。


彼らは領主の命令ではなく、騎士団の副長の命令でやったとわかった。


しかも騎士団長も領主も全く知らない事で、副騎士団長はカルセイの街の商人とつるんで人身売買に手を染めていたのだ。


「アウグストさん、何となく分かった!カルセイの商人と騎士団の一部の連中があなた方の女性を拉致して奴隷商人に売っていたようだな!」


「ここの領主も知らないようだ!」


「儂らは静かに暮らせれば何も街を襲わないしこの地は昔から儂らが住んでいた所なので出て行く事もしない。ただ攻めて来たら戦って追い返すだけど」


「わかった、俺はこの国の人間では無いが、明日ここの領主と掛け合って君らが平穏に暮らせる様に話してくる」


「何から何まで助けて頂きかたじけない!領主殿との話が付けばまたここに寄ってくれ、皆も感謝したいので待っておる!」


「あぁ、報告方々明日また来るわ」と言ってジンは兵士を連れて戻って行った。


翌朝宿で朝食を済ませたジンとヒューイは車で領主邸を捕まえた兵士を連れて訪れた。

門の兵士に領主殿とに会ってお話したき事がある。騎士団長と一緒に会いたいと伝えた。


門前払いをくう覚悟で来たがSSカードが効いたのかすんなり会う事になった。


3人の兵士が縛られながら一緒にいるので周りの兵士達は皆身構えているが、相手がSSクラスの冒険者と聞かされているのか、遠巻きに構えているだけだ。


侍従長に案内されて入ると中年の男性と隣に騎士団長らしき人がいた。


一応領主に敬意を評して膝を付いて挨拶し、「突然の訪問にも関わらずお会い頂き感謝申し上げます。私はレンブラント王国の冒険者ジンと家族のヒューイに、ドールと申します。この度こちらに束縛しました兵士3人が『ノースディア』族の女性を奴隷商人に売り飛ばそうと拉致した為、彼女を取り戻そうとして『ノースディア』族がカルセイの街を攻めてきた事は領主様はご存知だと思いますが?」


「おお、報告は聞いておる。ただ彼等が街の住民に矢を放ち怪我をさせたとしかきいていないが・・・」


「確かに私も丁度居合わせて矢の的になりかかったので解ります。しかし、無差別に襲った輩は直ぐに『ノースディア』の族長がすぐに処罰しましたし、怪我した子供と女性は私が治しましたから被害はありません。ただそれでも街の住民を傷付けたことは大変申し訳ないと族長が謝っていました」


「原因を作ったのは騎士団の副長と数人の兵士と街の奴隷商人なので取り敢えずは3名の兵士は昨夜街の倉庫に女性2名を監禁していたので連れて来ました」


「何と、私の知らぬところでその様な事が行われていたとは、騎士団長直ぐに副騎士団長を連れてまいれ」


暫くして、「ハウザー様、副騎士団長と4名の兵士が居なくなってます。恐らく発覚したのを感じて逃げた模様です」


ジンが「私が捕まえてきます。この3人の兵士を頼みます、ヒューイ、ドール行こう!」


「お主らだけで大丈夫か?」と騎士団長が言うが「全く問題ない」とその場から【転移】で消えた。


ジンは領主邸に来るまでに既に副騎士団長の居場所を【サーチ】して居て、奴隷商人の隠れ家に8人程で逃げる用意をしているのを突き止めていた。


ヒューイが扉を破って中に居る8人をドールと二人で当身を食らわし意識を奪い持ち逃げした馬と一緒に領主邸に連行した。


ハウザー辺境伯は改めてジンに感謝し、『ノースディア』族にはお咎めなく今の住処に住む事も許可を貰った。


「辺境伯様、実は『ノースディア』族はかなり戦闘能力があり、辺境伯様の傭兵になればかなりの戦力になると思われますが、一度族長とお会いして貰えませんか?」とジンが言い出した。


「確かに10人近く抜けた穴を埋めるのに彼らが我が戦力になるのなら願ったりじゃな!ジン殿、!そなたに仲介の労を頼めるかな?」


「はい、後ほど族長と彼の部活数名を連れてまいります」と言ってジン達は辺境伯邸を後にして、『ノースディア族』の住処に【転移】したジンは主犯格の副騎士団長と奴隷商人他を全て捕まえ領主の辺境伯様が処分すると約束してくれた事や、この住処に今後も住んで平穏に暮らす事を許可してくれた事を伝えた。


ジンは族長のアウグストに辺境伯様と会って出来たら、自分達の土地と街を守る為に傭兵にならないかと伝えた。


「安定した収入が入るし、今後は隠れずに街にも出入りでき、冒険者に登録すれば、魔物討伐でお金も得る事が出来るぞ」とアウグストに話した。


族長のアウグストも1000人もの『ノースディア』人をこのまま此処で狩りや農業で養って行くには不安もあったので、ジンの話に乗った!


早速、アウグストの信頼置ける部下数名とジン達が同伴でその日の午後に辺境伯様の所に赴いた。


「アウグスト殿知らぬとは言え大変迷惑を掛けた、申し訳ない」とまず謝って来た辺境伯に族長は感激して直ぐに打ち解け、傭兵では無く副騎士団長として正式な騎士団員として『ノースディア』の男性の殆どを騎士団に雇ってくれる事になった。


彼等の戦闘能力には騎士団長も驚く程で、辺境伯様も大変喜んで街にも告知を出して今後は両民が平穏に暮らせる様にと冒険者ギルドにも根回ししてくれた。


ジンは辺境伯様に感謝を述べてこの街を後に"魔女の道楽"に向かった。




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