第46話 デロスの苦悩

キースの武器屋の親父、デロスには妹のマルグリットに可愛い4歳の娘リーゼルがいて、いつもいかめしくしているデロスが唯一デレ〜とする相手が姪のリーゼルだった。


そのリーゼルが何者かに攫われ、マルグリット宛に『娘を無事に返して欲しければお前の兄のデロスにミスリル製の剣とヒヒイロカネ製の剣を明後日の夕方に取りに来る男に渡す様に伝えろ。この事をデロス以外に他言したら娘の命はないものと思え』という手紙がマグリットの家のテーブルに置かれていた。


慌てたマグリットはデロスの所に駆け込んで手紙を見せた。


その頃ジンは王都の下宿先でキースの支店に持って行く四属性ごとに特化した魔法の杖や魔物避け亜空間テントと魔物避けスプレーを【次元ストレージ】に入れて、キースに【転移】する所だった。


「ジン君私も一緒に行くわ!ドロシーとちょっとお店の件で話をしたいから」とイリア叔母さんも一緒に行くことになり二人でキースへ【転移】した。


「ドロシーさん、先日話をしていた火、風、水、土にそれぞれ特化して魔力をあげる杖を持って来ました、ついでに魔物避けスプレーと魔物避け亜空間テントも持って来ましたよ」


「あら、ジン君ありがとう!イリアも一緒に?」とドロシー。


「それじゃ、俺デロスの親父さんのところに行って研ぎの仕事でも勉強して来る」とジンはすぐ隣のデロスの親父のところに遊びに行くジン。


「おやっさん!ジンです。研ぎでもしていたら見せて貰おうと・・・」


「どうしたの?親父さん?顔色が真っ青で良くないぞ・・・」


「おぉ、ジンの坊主か、お前確かSSランクの冒険者だったよな?ここだけの話内密に相談がある」


「ちょっと待って!人に聞かれたらまずいなら【遮音】をかけるから。これならスキル持ちがいても聞かれないで済むからね、ところでこちらの方は?」


「ああ、俺の妹のマグリットだ」


「兄さん、人に話ししてもいいの?」


「ああ、こいつならなんとかしてくれる筈だ、それぐらい人外の化け物だからな、この坊主は」


「ひでーなぁ、可愛い青年って言ってく」


「ジン、今はそれどころではないんだ。これを見てくれ」と言ってデロスがマグリットが持って来た手紙をジンに見せた。


「俺は姪のリーゼルが目に入れてもいいぐらい可愛いんだ!この間お前からもらったミスリル製の剣とヒヒイロカネ製の剣は白金30枚以上するものだ。だがそれよりも金の問題ではなくだな、この二つの剣は魔力をエンチャントできる奴がいれば

魔剣にもなりえる剣だ、だが姪の命には変えられんと悩んでいたところなんだ」


「そうか、わかったよ親父さん!心配しないでマグリットさん、すぐ娘さんを無事に取り返して来ますから」


「ええ?ジン君というの?でも娘の居場所も相手が誰だかもわからないのよ、どう取り返すの?」


「娘さんの場所はすぐにわかります」と言って<タブレット>の【GOD】を開き『マグリットさんの娘さんリーゼルちゃんが囚われて居る場所は?』と打ち込みenterキーをポチった。


するとキースの町外れの1軒の家を示した。


更にジンは『中にいるリーゼルちゃんを緑に、拉致した人間を赤に点滅させる』と打ち込みenterキーをポチった。


1軒屋の中にグリーンが一つ、赤点滅が三つある。


「親父さん、マグリットさんほんの少しここで待っていてもらえませんか?」


「ジン、お前一人で大丈夫か?俺も一緒に行ってリーゼルを抱きしめてあげたい」


「そうか、俺一人じゃリーゼルちゃんを助けたあと彼女が怖がって泣かれてもなんだからそれじゃ、親父さんも一緒に、ただし手出し無用だよ。それと犯人をどうする?消す、それとも捕まえる?」


「面倒でも捕まえて”犯罪奴隷”で兵士に突き出して欲しいな!」


「わかった、それじゃマグリットさんはここで待っていてください」と言ってジンはデロスの肩を触って一瞬で<タブレット>が表示したキースの外れの家の前に転移した。


「親父さん、親父さんはここにいてくれ。俺のスキルで3人を気絶させて縛ってから親父さんを呼ぶからね」


そう言うとジンは緑の点滅しているリーゼルちゃんを【結界】で囲って3人の赤点滅の人物の心臓を【アトラクト】で少し強めに死なない程度に締め付けて意識を奪った。


扉を開けると冒険者崩れの風体をした男3人が倒れ、椅子に猿轡をされて縛られているリーゼルちゃんを発見した。


ジンが駆け寄って、解いてあげてデロスの親父を呼ぶと、勢いよくデロスが駆け込んでリーゼルちゃんを抱き上げ頬ずりした。


リーゼルちゃんもデロスの親父さんを見て初めて安心したのか、急に泣きじゃくり親父さんの腕の中でヒクヒクして泣き出した。


ジンは3人の男たちを【呪縛】の縄で縛り、リーゼルちゃんを抱きかかえたデロスと3人で街中に戻り、冒険者ギルドから連絡してもらって兵士に3人をひき渡した。


冒険者で調べたら彼ら3人は指名手配されていたお尋ね者でオマケの報奨金、金貨3枚をジンはもらってしまった。


3人はデロスの店に戻り、マグリットさんにリーゼルちゃんを渡すと、本当に安心したのか凄い勢いで泣き出すリーゼルちゃん。


マグリットさんが何度も何度もジンにお礼を言うので、「ほとんど俺は何もしていないですから逆に恐縮しちゃいますよ」と頭を掻きながら照れた。


「ジン、今回は本当にいいタイミングでお前さんが来てくれて助かったよ。ジンが来てくれなければリーゼルもどうなっていたか」


「親父さん、今度こういうことが起きるのは困るだろうけど、何か困って戦うとかもの探しとか、心配事があれば隣の”魔女の道楽”のドロシーさんに言って『遠距離通話器』で俺を呼びなよ、俺は【転移】でどこにいても一瞬で親父さんのところに現れてやるから」


「ジン、お前は本当に人外だよな!転移とか先ほどの賊を捕まえたスキルなんぞおとぎ話に出てくるスキルだぞ。俺の店に『煌剣』が有った事でこうしてお前と知り合えて本当に良かったよ」


「俺も、隣の武器屋さんにこんなに腕のいいドワーフの親父がいて、『煌剣』のような最高の剣を安く手に入れた俺と親父の出会いは神様が作ってくれた最高の出会いだね」


それを聞いたデロスは急に泣き出し、「お前なぁ、あんまり俺を感激させるなよリーゼルを救ってくれただけでも俺にとっちゃ、大恩人なんだぞ、お前は!」


「あらあら、鬼の目にも涙ね!お兄ちゃん。今日はお礼にジン君と4人でお昼を食べませんか?お礼にもなりませんがご馳走させてください」とマグリットさんが言うので、ご馳走になることにして、”魔女の道楽”のドロシーさんとイリア叔母さんに言って、デロスの親父さんたちと近くの定食屋に4人で向かった。


ゆっくり見るとリーゼルちゃんの様に可愛い女の子とデロスの親父さんみたいに鬼瓦みたいな顔したおじさんが親戚とは驚く遺伝子の誤操作だとジンは歩きながら吹き出してしまった。


「ジン、何がおかしいんだ?」


「いやね、デロスの親父さんみたいな怖い顔したおっさんにこんな可愛い姪ごさんがいるのがおかしくてね」


「何言いやがる、俺だって子供の頃は可愛いと皆が抱きたくて奪い合っていたぞ」


「あら、お兄ちゃんいつもガキ大将で近所の子供達をいじめていたじゃない」と妹がバラす。


そんな話をリーゼルが聞いていて、やっとケタケタ笑ってくれて緊張が取れた様だ。


楽しく昼食を食べて、ジンはご馳走になったお礼を述べて”魔女の道楽”に戻った。


「ジン君、珍しいわねデロスさんとちらっと見えたけど女性は妹さんのマグリットさんじゃなかった?」とイリア。


「ええ、ちょっとした事件が有ってマグリットさんの娘さんが誘拐されて、それをたまたま知った俺が場所をサーチしてリーゼルちゃんという娘さんを助けたのでお昼をご馳走になってしまいましたよ」


「ええええ・・・、誘拐されたの?それで無事だったの?」


「はい、無事助け出して3人の犯人を捕まえて先ほど引き渡しました、指名手配も出ていてお陰で少しお金がギルドから出ましたよ」


「あー、でも良かったわね、ご無事で、デロスさん姪御さんには昔からメロメロだったからね、すごく心配していたんじゃない?」


「そうですね、俺が店に入った時は真っ青な顔色でしたから」


「ところでドロシーさん、今日持って来たもの以外あとは何か足りなくなりそうなものはありますか?」


「大丈夫よ、この3点が一番売れ筋だから」とドロシー。


「それじゃ、イリアさんそろそろ王都に戻りましょうか?」


「そうね、それじゃドロシーまたね」


そう言うとジンとイリアは【転移】で王都の”魔女の道楽”に戻って来た。


夕食の話題はもっぱらジンがデロス親父の姪御さんを誘拐犯から助け出した話で盛り上がり、久しぶりの王都の夕食をジンは気持ちよく食べていた。


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