第10話  指名依頼2日目

6時に朝食を二人は食べてフジがいる厩舎に向かった。


”おはよう、フジ、朝飯持って来たぞ”と言ってジンはオークの照り焼き月見バーガーを3個【ストレージ】から出して与えた。


”足りなかったらファングボアの肉も食うか?”


”あぁ、それも貰おう。主様、今度ゴブリンやオークが出たら我に戦わせてくれぬか?自分の食料は自分で確保したいのでな!”


”分かった!今度Bランク以下の魔物は先ずはお前が先に出て構わないぞ”


ジン達は宿の正面に出て4人組の冒険者と貴族の馬車を待った。


「おはようございます」とジンが4人に挨拶をして馭者大でヒューイとじゃれあって話していると、「仲良いのですね!」と女性の冒険者の一人、ナンシーが話し掛けて来た。


「パパと仲良いのは当たり前じゃない!パパ以外は興味なんて無いわ!」


「あっ、パパなの?えぇっ!!」


「ジンさんはお幾つ?」


「俺?俺は16歳だけど?」


「ああ、こいつが言ったことは気にしなくていい。俺の従魔なのでパパと言う表現をしただけだからな」


「えぇっ?従魔?ヒューイちゃんって何者?」


「まぁ、この世界で一番強い魔物だよ。まだ生まれて一週間経っていない赤ちゃんだけどな」


「おっ、貴族様達が来たぞ。それじゃ、昨日と同じように、俺達が先頭に行くからお願いします」と話を逸らして先頭に馬車を移動させた。


騎士団長が挨拶に来られ、「きょうも頼むな」と短く挨拶して貴族様の馬車の方に帰って行った。


一行はタウンベルの街を後にしてケーベルに向かって動き出した。


2時間程は順調に進んだが木々が増えてきた辺りでかなり大きめの魔物の気配がした。


【サーチ】にトロール2体が検知された。


ジンの所から数百メートル先にいる。馬車を止め、騎士団達に伝え、ヒューイと出ていこうとしたらフジが”儂が一体を相手する、主はもう一体を片付けてくれ”と念話して来た。


”相手はトロールだぞ、大丈夫なのか?”


”全然問題ない!余裕のヨッちゃんだ”とフジがほざくので、馬車から外してあげ二人と一匹で迎え撃つ。


「ヒューイ万が一フジがやばい時は頼む」


「フジなら大丈夫よ、私ももう一体を殺るからパパが見てて」と言って、ヒューイは一体の頭に【ファイアボール】を放ち一瞬で頭を消し飛ばして瞬殺する。


フジの方もジャンプするとトロールの上にまで飛んで、後ろ足で蹴り、頭を粉砕してむしゃむしゃと食べてしまった。


魔石だけ俺に吐き出してよこした。結局5分掛からず2体のトロールを葬った。


騎士団と後ろの冒険者達4人が唖然としているのを尻目に、再び動き出すジン達。


後ろの冒険者達が「あのジンと言う坊主が強いのでは無くて従魔が強いからBランクになったんじゃないのか?」等と話す声がジン達にも届く。


「パパ、あいつら実力無いからパパの本当の強さ分からないのね!全く今度はドラゴンでも現れれば良いのに!」


「お前の仲間じゃ無いのか?黒龍辺りが出てきたらお前はどうする?」


「説得して死にたく無いなら逃げなさいと言うわ、だってパパにかないっこ無いもの」


「私にも適わないけど!」


そんな話をしながら馬車を進めていくと上空に3匹のワイバーンが現れた。


騎士団達に貴族様の馬車の周りに居る様に言って【結界(バリア)】を掛けてあげ、 動かない様指示した。ジンは【ファイアアロー】を上空に放ち、3匹のワイバーンを一瞬で瞬殺して【ストレージ】に収容した。


その後特に魔物も出ないで途中の野原で昼食にする。


フジは先程倒したトロールの食べ残しを食べている。


ヒューイとジンは馬車の中でマナバイソンのステーキに白米とボルシチ、それにサラダで、ヒューイは特に2枚を平らげた。


ケーベルまでは後4時間程掛かる。


1時間の休憩後、馬車は再びケーベルに向かって進んで行く。


1時間もしないうちに、ジンの【サーチ】に40人の強盗団が検知された。未だだいぶ距離はあるが避けては通れない。


ジンは馬車を止めて、騎士団長に40人と大人数の強盗団なのでこの場に居てくれと頼む。


騎士団長が「君らだけでは無理だから我らも助太刀を」というのを断り、馬車を護る事だけに専念してくれと逆に頼んだ。


後ろの冒険者達にも、うち漏らした強盗団が来たら対処する様に指示をして、フジを馬車から放し、二人と一匹で40人の盗賊の方に向かって歩いていく。


ジンは歩きながらタブレットに強盗団全員の位置を表示させ、【イレージング】を掛けてみる。頭の中で声が聞こえ"【イレージング】レベルが限界値を超えました。範囲が無限大になりました"と聞こえ40人の強盗団が一瞬で消えた。


「パパ、ずるいわ!一人で皆んなやっつけてしまったじゃない」


「だってお前、40人も切って殺して面倒だろ!」と言って直ぐに馬車に戻ってきて、騎士団長と4人組の冒険者に終わった旨伝え、再び走り出した。


後ろにいた冒険者からはジンが何かしたのは分かったが遠くに見えていた強盗団が一瞬で消えたのが何故なのか分からずただ震えているだけだった!


騎士団長はジンが特殊な魔法で全員を消し去った事だけは分かったがそれがスキルなのか、自分達の知らない魔法なのかは分からなかった。


ただ彼に敵対しては絶対にいけないと言うことだけは直ぐに理解できた。


直ぐに騎士団長は馬車に向かい今の事を侯爵に伝えた。


ハリス侯爵はワイバーンを討ち取った所も見ていたし、今の40人の強盗団を一人で消した魔法も見ていた。


彼はキースのギルドマスターから登録したばかりの冒険者が数日でBランクの冒険者になったとの報告を聞いており、ゆっくり観察するために実はギルドマスターと仕組んで自分の護衛依頼に指名したのだった。


たった2日間見ただけでも彼の強さの異常さは直ぐに侯爵は分かった。


ハリス侯爵は貴族の中では超有名な剣士で、実は護衛等必要無い強者だった。

王様からの信頼も厚く冒険者ランクでも恐らくSランクであろう実力者なのだ。


その彼の目で見ても、隙が無い振る舞いと剣捌き、とてつもない魔力量、信じられない魔法、彼を他国に取られたらこの国が終わって仕舞う程の人材だと直感が教えていた。


侯爵の娘、フェリシアは妻の血を色濃く受け継いで魔法に特化した力を発揮するのでこの国では父同様有名人だった。


彼女の魔法は攻撃魔法などでは無く、【聖魔法】癒しの魔法に特化していた。


通常の魔法師の魔力は大体70で高いと言われるが彼女は人間の限界値と言われる100を超え120もの魔力量を持っていた。


だからこそ分かるのだろう、ハリス侯爵はジンの信じられない馬鹿げた魔力量の底が見えない事が・・・。


フェリシアも同じ年頃の青年の魔力量が莫大だと、肌で感じていた。


今まで王室魔法師団の中でもフェリシアより魔力がある人間は誰一人としていない。


それが、数十メートル離れている距離なのに、鳥肌が立つほどの魔力を放っている青年がいる。


そして彼の傍にいる美しい女性もまた信じられない魔力量の持ち主だと感じていた。

一体あの二人は何者なのだろうとフェリシアは何とか話す機会を持ちたいと初日からずっと思っていたのだ!


昨夜は宿が違ってがっかりしたが、今度の街は同じ宿だと父から聞いている。


早く宿に着かないかと心待ちにしているフェリシアだった。


フェリシアの母親エリザベートは夫のハリスが若い冒険者を見てからというもの、何やら考え込んで悩んでいる様子が気になっていた。


「あなた、何か心配事が有るのですか?」


「いや何も無いぞ、何故そう思う?」


「だって前を行く冒険者の青年ばかり気にして、難しい顔ばかりなさっているわ」


「お父様も?あの方は人間ですよね!あの方の魔力量は私の比では無いです。気絶しそうな位凄いですわ」


「フェリシアも感じていたのか!実はな、ギルドマスターのギルバートから連絡が来て、つい先日冒険者に登録した青年が数日でBランクになったと連絡して来たんだ。ギルバートの話では恐らくSランクさえ凌駕する力を隠していると言うんじゃよ、それなら儂が観察して見るから指名依頼で護衛依頼を出そうと決めたのだ。それが彼なんだよ!」


「でもお父様、彼の傍にいる凄い美人の女性も凄い魔力量ですわ」


「あぁ、あの子は彼の従魔の神龍の赤ちゃんだ」


「えぇっ?あの体形で赤ちゃん?」


「あぁ、未だ生まれて一週間も経ってないぞ!」


「嘘でしょう?」


「龍は最初の一週間でかなり成長して後は緩やかに成龍になるそうだ、従魔登録しに来たのが先おとといだと聞いているから間違いないぞ」


「それであなた、何故そんなに難しい顔をなさっているの?」


「彼を如何にしたら我が国に取り込められるか考えていたんだよ」


「先程40人の強盗団を見ただろう?一瞬で消されてしまった。彼の魔力量だったら国ごと一瞬で消せる力があるのだよ」


「それ程までの青年なのね、それじゃフェリシアが一緒になれば良いわね!」


「なっなっ何を言い出すのお母様!」


「あら、至極まともな話をしたのよ!あなたの最高の【回復術】と彼の魔法が一緒になればこの国は安泰だわ」


「実は儂もそう思ったがな・・・」


「おお父様まで何言い出すのですか!」


一方ジンはそんな話がされている等とつゆ知らずひたすら【サーチ】を掛けてケーベルの街に向かっていた。

強盗団が出たあとは魔物も出ないで予定通りケーベルの街に着いた。


騎士団達と侯爵様達とも同じ宿で二階にジン達と4人の冒険者達、それに加えて6人の騎士団が入り、残りの騎士団長達が侯爵様達と同じフロアの三階に向かった。


食事は全員で一緒に6時からする事になり、それ迄自由時間となった。


ジンは食事までまだ2時間程あるので、ヒューイと一緒にこの街の冒険者ギルドに行ってみる。


キースの街よりは人口が少ないせいか、ギルドもそれ程大きくは無い。


二人でクエストを見てみるが夕方のせいか、興味を引かれるクエストは残っていなかった。


食堂でエールを飲んでいる冒険者達が皆ヒューイの美しさに目を奪われその中の酔った数人が言い寄ろうとするが何故かギルドマスターがいて止めた。


恐らくキースから連絡が行っているのだろ!


ジンの恐ろしさとヒューイの恐ろしさを事前に泊まる街のギルドマスターには連絡が行っているようだ。


それでも酔って絡んで行った一人の冒険者がジンの放つ殺気を受けて失神して漏らしてしまった。


周りの冒険者達は何が起きたか分からなかったがギルドマスターが彼を介抱して、ジンに早く外に出てくれと目配せした。

ジンも直ぐに分かりヒューイと一緒にギルドを出て街を更に散策して宿に戻った。


ジンは二階に戻ってヒューイとシャワーを浴びて着替えてから食堂に降りていった。


騎士団長の隣にハリス侯爵様、その隣にエリザベート奥様、その隣がフェリシアお嬢様そして騎士団数人。


騎士団長の前に矢張り騎士団が2人座り、その隣にジンとヒューイ、冒険者4人が座った。


結果、ジンの前にフェリシアが座っている。


ハリス侯爵が、全員が座ったところで挨拶を始めた。


「この度は我ら家族の王都までの道中の護衛依頼を受けてくれて誠にかたじけない。道中も後残すは2日だが宜しく頼む。本日はささやかながら御礼を込めて儂からのもてなしだ、存分に飲み食いして日頃の疲れを癒して欲しい」騎士団長が乾杯の音頭をして夕食会が始まった!


ジンとヒューイ、フェリシアは果実ジュースで乾杯した。


「ジンさん、ヒューイさん、初めまして!私はハリスの娘のフェリシアです、宜しくお願いします」


「冒険者成り立てのジンと申します。この子は神龍の赤ちゃんのヒューイです。宜しく」


「ヒューイです」


「ヒューイちゃんは生まれたばかりなの」


「はい、きょうで5日目かしら?」


「とっても素敵な女性になってますわ!」


「うっ、とうぜん!でも、ありがとう」


「ジンさんはキースの生まれですか?」


「いえ、私は辺境の村のニーホンという小さな村の出です」


「ニーホン?キースから遠いのですね?聞いた事ない村だわ」


「キースから馬車で数日掛けて行かなくては着かない小さな村です」と適当に応えるジン。


「ジン君、強盗団全員を消したのは、あれは魔法なの?」とヒューイの隣に座っているキャロルから声が掛かった。


「あれは魔法じゃなく僕の特別なスキルだ。だから誰でも仕える訳じゃ無いよ」


「消えたけど何処かに【転移】で飛ばされた訳では無いの?」


「違う、あれは物を構成している物質の繋がりを解いて存在出来ない状態にする力で、この世から完全に消し去るちからだよ」


「別空間に飛ばしても良かったけど纏めて飛ばすのが手間取るから一度に無にした」


「そんな恐ろしいスキルがあるんだ、魔法特性は幾つ持っているの?」


「それは秘密だよ、自分の能力は大っぴらにしない方がいいでしょ」


「そうね、ごめんなさい。私魔法師だから魔法にとても興味があって・・・、因みに私は皆から羨ましがられて二つ授かったわ!」


「あら、羨ましいですわ!私は魔力は多いけど【聖魔法】のひとつだけですもの」


「いえいえ、フェリシアお嬢様はその【聖魔法】にかけてはこの国でNo1で超有名人ですから国宝級ですよ」


「フェリシア様はそんなに有名なんだ!」


「ジン君はどれだけ田舎に住んでいたの?フェリシア様を知らないなんてこの国、いや、この世界の人じゃないわよ」


「へぇ~、フェリシア様って凄いんだね!」


フェリシアが真っ赤になってモジモジしていた。


ハリス侯爵様がジンに話しかけてきた。


「ジン君、君は魔法だけじゃなく剣の腕も相当だよね?君の身体の体捌きを見れば直ぐに分かるよ!」


「はい、剣は田舎に叔父貴に小さい時から鍛えられて居たので」


「でもそういう侯爵様も超一流の剣士ですよね?動きに全く隙が有りませんから」


「そうか、君は流石に分かるのかね?私は『剣聖』のスキルを授かって、今も精進して王様の為に働いているよ」


「ジン君、侯爵様はこの国で一番の剣の達人よ、貴方本当に何も知らない辺境の人ね」


「すみません、何せ50人居るかどうかの田舎の村で、人の出入りなど全く無かったもので」


「ジン君、機会があったら一度儂と模擬戦をしてくれんかな?君の様な素晴らしい相手はなかなかこの国には見当たらないからのぅ!」


「滅相も御座いません、私みたいな田舎者の若輩者が『剣聖』の侯爵様となどとても相手にはならないですよ」


「ワハハハ、謙遜も儂の前では嫌味に聞こえるぞ!ジン君や、儂が全力でも勝てるかどうか・・・」


「ジン君はそれ程までの剣士ですか?」とまたもやキャサリンが横から声を出した。


「うん、パパは全ての剣聖、剣神、剣豪の剣捌きを習得して居るからね!」


「えぇっ?パパってジン君が貴女のパパなの?」


「うん、そうだよ。私を産んでくれたもん」


「ヒューイ、お前が言うと話しが可笑しくなるからそれ以上言わんでいい」とジンがこれ以上の脱線を止めた。


「ところでジン君、王都に着いたら何か予定は有るのかな?無ければ我が家に立寄って儂と一度模擬戦をしてもらえないだろうか?」


「はぁ、王都散策するぐらいで特に未だ予定は無いですが!」


「それじゃ、ギルドにサインを出したら、儂らの馬車について来てくれんかのう」


「わかりました」


ジンは結局王都に着いたらハリス侯爵様に付いて行く事になってしまった。


侯爵主催の慰労会も終わり、侯爵様達が3階の各自の部屋に戻って、ジンもヒューイと二階の部屋に戻って行った。


食堂ではCランクの4人組の冒険者がエールを飲みながら話し込んでいた。


「ねぇ、ねぇジン君って『剣聖』のハリス侯爵様が認める程の剣の達人みたいよ!しかも凄いスキル持ちなの」と魔法師のキャロルが皆に先程の話をしていた。


「それだけじゃなくて、あのフェリシア様より遥かに魔力量が有るんだって!」


「それじゃ、天下無敵じゃん」とリーダーのグローが呟いた。「40人の盗賊を一度に消したでしょ?あれは彼だけが出来る特殊なスキルだそうよ」


「それって神様もずるいよなぁ!不公平過ぎるよ。俺達がコツコツやっとCランクに上がったのに3、4日でBランクかよ、やってられねぇな!」


「ジン君には何か使命があるんじゃない?私達はコツコツ上がって地道にレベルを上げましょ」


「そうよ、私達もこのクエストを終えたらBランクも見えて来るわ、そして憧れのAランクよ」とナンシーが言う。


「そうだな我々はマイペースで頑張ろ」とリーダーが言って散会した。

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