第4話 戦闘開始
「【影の国】」
「【暗き底】」
「【啼く声すら失せる】」
「【世界こそ無窮であり】」
「【終わりなき水平の先】」
「【爛々と揺らめく日輪を拝む】」
「【見えざる殺意に怯え】」
「【忌避すべき赫怒に焦れ】」
「【赤き風は心全てを焼き尽くす】」
「【大量重量無量軽量】」
「【圧縮圧制縮小極小】」
「【肥大拡大広大甚大】」
「【枯れて尚も】」
「【未知の行く末あり】」
「【人の世では味わい尽くせぬ】」
五人適合者が歌う。
彼らも詠唱による適合率の上昇を行う。
久島五十五は黙る、彼らの能力の発動を見据える。
「『
「『
「『
「『
「『
そして五人全員が『マテリアル・レア』を発動した。
これに従い。常人らは超人の力となって敵を視認する。
一人、黒い翼を生やす適合者が地面に触れると影が生まれ、その影に自らの体を沈めていく。
他の適合者、その一人が大きく息を吸うと共に体が肥大化していき、シャツを破り皮膚に刻まれた世界地図の様な刺青が変形して、そのまま腕が伸びて久島五十五を狙う。
久島五十五は接近する腕に向けて、前腕から生やした歯車を腕を振るう。
伸びた腕は触れたらまずいと思い、久島五十五の腕を避けて脇腹部分のシャツを掴む。
そして無理矢理引っ張り、彼の態勢を崩そうとするが。
「(痛ッ、なんだあッ!?)」
体が伸縮自在の適合者の腕、指先が千切れていた。
掴んだ脇腹部分から、噛み合う様に二つの歯車が生えていて、伸縮自在の適合者の指を巻き込んだのだ。
「(なるほど、そういう事か)」
冷静に考える伸縮自在の適合者。
更にもう片方の腕を伸ばした、今度は巻き込まれても良い様に、拳を膨らませて人間を叩き潰せるくらいの大きさに変わる。
「(避け難い、回避だ)」
久島五十五は自らの脚部から歯車を生やす。
歯車の回転速度を任意で上昇させて、ローラースケート靴の様に、歯車をタイヤとして扱って高速移動し後退しようとした。
だが、久島五十五の機動力は瞬時に奪われてしまう。
「っ」
足元が黒い水で覆われていた。
否、それは影だった。
影を操る適合者が地面へと潜り、彼の足を引き摺り込んだのだ。
巨大な槌腕に叩き潰される寸で、久島五十五は黒い部分が触れてはならぬと察した。
そして比較的安全な地面に手を伸ばす。
「(這い上がらせると思ったかッ!!)」
影の適合者が久島五十五の足を掴んで闇の底へと沈み込もうとする。
久島五十五は足に歯車を出して影の適合者の肉体を千切り散らそうと考えたが、彼の体は殆どが物理の効かない影と化していた。
「(影の中に潜んだ俺は、物理なんて通用しなッ)」
脳内で殊勝を誇っていた影の男は焦った。
物凄い力で久島五十五が吊り上げられている。
久島五十五は地面に腕を叩きつけた。歯車を生やして、地面に歯車を噛ませて無理矢理自らの体を引き摺り出す。
彼の足を掴んでいた影の適合者と共に地面から出る。
彼の能力は地面に潜る事で地面を影の領域とする。
深く潜れば潜る程に影の領域は広くなるが、地面から出てしまえば影の領域は少なくなり、自らの肉体も影から生身の肉体へと変わっていく。
地面を引き摺りながら、影の適合者諸共出て来た為、久島五十五は影の適合者を蹴って引き離すと自分だけその場から離れる。
巨大化した腕を振り下ろす伸縮自在の体を持つ適合者の拳が、影の適合者を巻き込んでしまい、叩きつけた。
その一撃で影の適合者は気絶、脱落してしまう。
「ヘヴィィイィィイイ!!」
上空から声を荒げて落下する男。
久島五十五は転がりながら回避すると、落下した男の地面は衝撃によって破壊され、小さなクレーターが出来上がった。
「(衝撃操作、いや、自身の体重、重量を変える事が出来るのか)」
瞬時に察する久島五十五に対して目を焼き尽くす様な光を浴びる。
光の方へと目を向ける。目の前には巨大な火の玉が迫っている。
炎を操る適合者による攻撃だ。久島五十五は回避が不可能だと察すると掌から歯車を出現させる。
火の玉に合わせると共に歯車を回転させる。
巨大な火の玉が歯車に触れると共に歯車の回転する軌跡に合わせて軌道を逸らした。
背後から迫る体重操作の適合者が偶然にも軌道を変えた火の玉に衝突して爆破した。
「(これで二人目…ッ?!)」
そう思っていた久島五十五の背後から燃えながらも接近する体重操作の適合者。
久島五十五を掴んで自らの体に燃える炎を引火させようとしていたが、久島五十五は片手を真横に伸ばす。掌から反対方面の横脇に向けて巨大な歯車が生える。
体重操作の適合者が歯車に触れると同時に高速回転し、体重操作の適合者を吹き飛ばす。
地面へと倒れ込むと同時に背中から生やす歯車を仕舞う。
すると今度は真横から別の適合者が接近。
久島五十五は攻撃と認識して前腕から生える歯車で防御したが。
「ッ(こいつッ!!食っているッ)」
歯車を齧る男。
その男の歯茎には、明らかに造り物であろう義歯が装着している。
恐らくはそれが大喰らいの適合者のダンジョンアイテムだったのだろう。
齧られて、噛み砕き、久島五十五の歯車に歯痕が刻まれた。
「(鋼鉄以上の高度を持つ歯車を噛み砕くのか…しかも動きが速い)」
相手の運動神経、その速度を確認した久島五十五は認識を改める。
この認識を改めるとは、格下に見ていた敵を強敵と認定すると言ったものではない。
「(歯車と言う概念、適合した俺にその概念を宿す…今の俺は歯車で動く玩具の人形…なら鳴動しろッ)」
自分自身の体内イメージを血肉ではなく歯車と認識。
すると体内からがちりと歯車がかみ合う音が聞こえて、体内から歯車が回り出す。
「(高速、体内の歯車を動かす)」
ゼンマイ仕掛けの玩具が、歯車を早く回す事で行動が早くなるのと同じ様に。
久島五十五は自らの中にある歯車を高速回転させる事で身体能力の上昇を行う。
大喰らいの適合者の速度を超え、久島五十五は高速で肉体を躍動させて、大喰らいの適合者が口を開く前に殴り倒す。
速さが上がると言う事は攻撃力も上昇している。
一撃で大喰らいの適合者の意識を刈り取ると、そのまま久島五十五は火炎放射を扱う適合者へと接近する。
大技である為か、貯め時間が長く、連発出来ないらしい。
銃撃する寸前で、久島五十五は火炎放射を扱う適合者の胸倉を掴むと共に地面へと叩きつけた。
がはっ、と打ちどころが悪かったのか、意識が混迷として、伸びてしまう。
「(これで…)」
あと一人。
変幻自在の適合者の方を見たが、既に戦意を喪失していた。
それもそうだろう。どれ程体を伸ばす事が出来ても、生身である以上は彼の歯車に挟まれて千切れてしまう。
更に他の仲間の惨状を見てしまえば、戦意を喪失してしまうのも無理が無かった。
「…まあ、こんなものか」
久島五十五は戦闘態勢を解く。
ぱちぱちと、手を叩き出すのは、宮古レインドールだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます