第99話 久しぶりに近衛騎士団長する近衛騎士

 気の使い方をお江ちゃんに教えるにはどうしたら良いのか考える事5分。思いつかなかったので瞑想してるお江ちゃんに軽く殺気を飛ばしてみる。

 すると、普通に素晴らしい速度で抜刀しつつ私の想定した太刀筋を避けて肉薄してきた。周りの護衛達は全く動けなかったし、天井裏の暗部達は抜刀して降りて来た。


「んー

 この殺気なら反応出来るんだねー」


 お江ちゃんの繰り出した一撃は私の首を狙っていたので、普通に受け止められる。


「な、何のお戯れですか!?」

「いやーお江ちゃんはどーしたら気を扱える様になるかなーって思って」

「な、なるほど」


 こんな感じでやってくからしっかり反応するよーにと笑うと暗部の連中が何か言いた気にしつつ帰っていった。

 しばらく考えていたが、まー解決策はない。なのでまた殺気を飛ばすやっぱり反応。目にも留まらぬ速さで居合を繰り出しそうとしたので、柄を押さえて阻止。


「や、やめて下さい!?」

「いやー出来そう?」


 やってみー?と告げると、お江ちゃんは目を瞑りそれから、スッと意識を切り替えた。それから抜刀するかのようにグッと力を込めるがまだ弱い。


「んー、まー、そんな感じかなー

 後少しすれば殺気の初歩も掴めるんじゃない?」


 頑張ってと手を叩く。

 お江ちゃんは難しいと大きな溜息を吐く。


「殺気は殺すと言う気持ちですわ。

 気持ちを作ら無いとそれは出来ませんわよ」


 脇で歌詞を書いていたクリスティーナが笑いながら言った。


「え、じゃあたまに殺気飛ばして来る時、本気で殺そうとしてる?」

「サーシャが娼館見るからだろ」

「お師匠が悪いかと」


 だって!クソデカおっぱいが窓際で手を振ってくるんだもん!


「うーむ。

 一つ言っておきたいのは、私が娼館を見てたとしてもそれはクリスより娼館が好きだからとかじゃ無い。

 これは陛下に誓って本当だ」

「そう言うことでは無いの。

 私は私とコルネット以外に向けられる貴女のそう言う目が本当に、心の底から嫌なの。そう言う目を他の人間に向ける位なら私は貴女を殺しても良いと思うほどに、独占欲が強いのよ?」


 クリスティーナはウフフと笑い、私をみた。全く持ってモテモテで嬉しい限りだ。

 クリスティーナを抱き寄せて、2人には修行をするよう告げる。暗部達には寝室に近づいたら殺すと言い聞かせ、カタリナもユーリに錬金術教えとけと告げる。

 楽しいひと時だ。

 楽しいひと時はまぁ、一瞬だ。扉を控えめにノックされる。


「だれー?」

「あ、わ、私です。

 す、すぐに来て貰っても良いですか?お願いします」


 カタリナが心底ビビった声色で告げる。なんぢゃ?


「なにー?」


 カタリナが青い顔で此方ですと歩いて行く。なんぢゃ?

 応接間に入るとヤクザみたいな女がチンピラ引き連れて自分が王様のような座っている。そして、その女の背後にはうちの騎士の若い奴が憔悴しきった顔で立っている。


「団長っ……」


 騎士は私を見るともはや殺せと言う顔をしていた。


「借金?」

「いえ、その、娼館で……」

「妊娠?」

「いえ、その、何か娼婦が自分に殴られたと騒ぎ出して……

 自分は、我が剣に誓ってそんな事をしてません!!」


 カタリナが小声でヤクザが強請る時によくやる手ですと耳打ち。


「ふむ。

 クリス、全員を中庭に」

「全員?」

「殿下の直衛以外、全員」


 クリスティーナは頷いて魔術の何なんかで通信。吸血鬼やハイエルフみたいな魔力お化けで魔術に長けてるやつしか使えない超高難易度の魔術らしい。

 コルネットから教わったそーな。電話、とは違うが此方からあれこれ指示出せるので戦場指揮は非常に取りやすいだろう。


「カタリナ。そこのチンピラ共には暫く待ってもらえ。

 お前は近衛騎士の名誉と王国の名誉を傷付けた。嘘だと分かっていても、罰を受けて貰う。お前の犠牲を持って2度と我々が舐められ無いよう、私は花街に宣戦布告する。

 お前の敵は私が取る」

「分かりました団長」


 騎士の顔は近衛のそれで眼には忠誠が宿った。うん。よし。

 ヤクザの女がマーマー言い出した。


「話は済んだか?と言っています」


 カタリナが通訳してくれる。


「聞こえてた。黙って待ってろ。

 カタリナ、コイツはどの派閥の何と言うヤクザだ?」


 敢えてマーマーミャーミャー語で告げる。カタリナはびっくりした顔をしている。


「我々は「黙れ。私はカタリナに聞いている。お前は黙って待っていろ」


 カタリナは顔を真っ青で此方とヤクザを交互に見る。そんなこと言って大丈夫かお前?みたいな。私を巻き込んでくれるなよとも言える。


「あ、え、えっと、彼女達はこ、この帝都一帯を治めている刀幇という組織です。

 その界隈ではトップランクで有名な、その、裏社会の存在です」

「つまり、都市部に住むドブネズミの親玉か。

 お前達の無礼に対し、我々は我々なりの無礼で応じよう」


 全員が20分ほどして全員が揃ったので中庭に出る。


「トーパンとか言うこの国のクソヤクザ共が我々の1人が娼館にて娼婦に暴力を振るったと言って来た」


 私の言葉に全員がざわついた。


「黙れ」


 私の一言に全員が黙る。


「聞けば、良くある強請りの手口らしい。

 この件について、その騎士は罰を受けて貰う。勿論、事実では無い。そんなことをしていない。では何の罰か?

 王立近衛騎士が高々一介のヤクザ如きに強請りを出来ると思わせたその怠惰に、だ。

 全員、これより花街に移動する」


 私の指示に隊長格が素早く指示を飛ばす。

 皆完全武装だ。

 一糸乱れぬ行進はそれだけで威圧がある。百数十人の足音が一つに揃い巨人が歩いているかのように聞こえる。道中暗部の奴がカタリナを通じて報告してきた。トーパンは外国人相手にそう言う難癖を付けて強請りをして弱みを握るらしい。金払いの良さから商人と間違えたのだろうと。

 花街まで来たところで千鳥に列べ、何事かと出てきた花街の住人達にも聞こえるように大きな声でマーマーミャーミャー語で告げる。


「私の部下が、トーパンとか言うドブネズミの息のかかった娼館にて娼婦に暴力を振るったと難癖を付けられた。

 トーパンはそう言う手口で外国の商人を貶めるそうだ」


 トーパンの連中が何か言おうとしたので最大限の殺気を飛ばしてやると、気絶する。


「それはさて置き、今からその容疑を掛けられた騎士に対して私は罰を課す。

 舐められるような態度をとって、王国近衛騎士の名を辱めたからだ。

 そして、殴られたと言う娼婦には私から謝罪の意味を含めて金を払う」


 クリスティーナが連れてきた娼婦が青い顔をしながら私と嵌められた騎士を見る。


「これは謝罪の金だ。

 怖い思いをさせたらしい、な」


 金貨100枚が入った袋を脇の支配人に投げて寄越す。支配人はそれを受け取り私を見る。

 私は見無い。


「全員、㮶杖カルカを抜け!」


 私の号令に全員が㮶杖を抜いた。


「上半身を脱いで、列の間を走り抜けろ。

 左右にいる者は通り抜ける者をその㮶杖で打て。全力で、だ!」


 ガントレットという刑罰。規則でも列挙されている。本来は鞘でやる。実質死刑だが、そんなくだらんことで部下を殺すのはアホだ。

 故に細い木のガントレット。痛いし、下手をすれば皮膚が切れるが死ぬよりはマシだ。

 全員の目が動揺していた。


「この罰は、この者だけにではない。

 我々のこの弛んだ規律を今一度戒めるのだ。

 綱紀粛正を経て、我々は2度と異国の地にて舐められることはない!

 この者がその先鋒となる!」


 行けとつげると、騎士は頷き前に飛び出る。その瞬間、騎士達はその者の背中を㮶杖で打ち付けた。ヒュンと言う風切り音にピシャンと生々しい音。周りの者達はただただ見ているだけだ。

 異様な気迫に気圧されている。

 そして、100メートルほどの列を走り抜けた騎士はその場に倒れる。背中は血塗れで肉も見えていた。


「運べ」


 それから花街全体に向けて宣言する。


「我が軍は、女王陛下と剣に誓って暴力は振るわ無い!

 次、この様な事件があれば鞘を持って実施する!また、その際は徹底的に調べ上げて事実かどうかを日の下に晒す!

 もし嘘をついていたらその娼婦は勿論、支配人やケツモチ全員をこの列に走らせる!

 私の一撃は決して容赦し無い。

 私の名は、サーシャスカ・サブーリン!月の騎士サブーリンとは私の事だ!

 次は無いぞ、ドブネズミ」


 そして、チンピラの親玉に小便を漏らす程度の殺気をぶち当ててから、帰宅。


「クリス、あの騎士の背中を綺麗に治して」

「分かりましたわ」


 久々に不愉快極まるな。

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