第98話 いつもよりもお師匠様な近衛騎士
ユーリが錬金術を覚えて小賢しい手を覚えた。実に感心だ。ユーリは普通の人間なので私やクリスの様な存在には卑怯と言われてもだからなんだと言う気持ちで居てもらいたい。
居てもらいたいのだが、私が良いと言っても聞かん輩が出てくるので困る。せっかくの昼なのに。
「錬丹術等に頼る様な者は月の騎士殿の弟子に相応しくない」
「でもあーた、ユーリが錬金術使わなくても普通に倒されてんじゃん。
文句言いたいならユーリとお江ちゃん倒してから文句言いなよ。
雑魚が何言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえ無いよー」
吠えてる暇あったら剣でも振ったら?と笑うとユーリに突っかかっていたアホは顔を真っ赤にして去って行く。
「弱い奴ほど良く吠える。
見苦しい事この上ないな。無様にも程がある、情けない。
アレの雇い主の顔を見てみたい」
ねぇ?と殿下の向かいに座っていた雇い主を見ながら、殿下を挟んで座るクリスティーナに言う。
中庭でゴザみたいなの敷いてお昼中。
「全くですわね!
錬金術でサーシャに勝てるなら使うべきですわ。その才能すら無く自身より強者のユーリに食ってかかるなんて、どんなアホなのかしら!オーッホッホッ!
雇い主の顔が見てみたいですわー!
オーッホッホッ!オーッホッホッ!!」
この会話は全てマーマーミャーミャー語で大声でやっておく。
その場にいた面倒くさい連中全てに対する牽制だ。殿下の向かいに居た雇い主の学生は顔を真っ赤にして失礼しますと去って行く。
殿下は額に手を当てて空を拝んでいた。
「恥ずかしいからやめてくれないかな?」
「殿下に同感だ。
俺は別に何とも思ってねーし、普通に恥ずかしいからやめて欲しい」
殿下とユーリが心底居心地悪そうな顔で私達を睨んで来た。
「だって鬱陶しいんだもの。
ユーリが折角、私に勝つための秘策を用意し始めてるのに面倒くさい妨害をしてくるせいでユーリの秘策完成が遅れるとか、私は我慢ならなら無いよ」
肩を竦め、バランス取り。
「錬金術では無く、錬丹術です、因みに」
カタリナがしれっと訂正する。何の違いがある。
「ま、何にせよゴーレム作ってそれを動かしたり出来るならそれいっぱい作って軍団率いたほうがよっぽど効率的よね」
この前のユーリが使った戦術を思い出す。
「それをやるには莫大な金が掛かります。
あれ一体作るのに貴女方の着ている鉄の鎧と同じ価格です」
カタリナが首を振る。
「それでサブーリン殿を驚かせるなら普通に使えるんじゃないか?
サブーリン殿、今一度傀儡との戦闘をして評価して欲しい」
ご命令とあらば。
立ち上がってカタリナを見る。カタリナは少し嫌そうな顔をした。
「あれ、高いですよねー」
「金なら殿下が何とかしてくれるでしょー」
知らんけど。
カタリナは渋々立ち上がり、札を取り出す。そして、何やら小瓶を取り出し札を地面に置いてモニョモニョ言いながら小瓶の中身を地面に撒いた。すると地面がウニョウニョと蠢き、人の形に。
あっという間にカタリナそっくりさんが出来上がった。
「カタリナが作るとカタリナになるの?」
「ええ、そうです」
「雑魚そう」
「傀儡の能力は変わりません!」
失礼な!とカタリナがプリプリ怒りながら脇にいた衛兵に剣を寄越せと八つ当たりしていた。
カタリナ傀儡は剣を握ると正気のない目で此方を見ている。
「行け我が分身よ!
サブーリン様をボコボコにせよ!」
フハハと何故か調子に乗り出したカタリナの号令に傀儡がドンと地面を蹴ってこちらに飛ぶ。速いな。
カタリナでは不可能な動きだ。こっちの剣術らしい回転の動きが多い攻撃をヒュンヒュンと繰り出してくる。
全部避けれる。近衛なら対処できるだろうが王立軍だと厳しいな。
「ふむ、雑兵として見るならかなり使えるのでわ?」
「ふむ、剣技術しかないのか?」
「仕組めば弓矢も槍も扱えますよ」
殿下は何か悪いことを思い付いたらしく顎に手を当てて何やら考え出す。
これ、倒しちゃって良いのかしら?
カタリナ傀儡の腕を切り落とし、膝を蹴り折る。バランスを崩し倒れた所で首を落とし試合終了。
「ま、私どころか近衛なら余裕で倒せますねぇー
一般兵ならかなり苦戦するかもですけどー」
うん。
駒とするならかなり使える。
「カタリナ」
「はい」
「君、月の騎士になる魔術を知りたいのかい?」
殿下は何やら悪い事を考えた様だ。クリスティーナを見ると口元を扇子で隠して私を一瞥。何もし無い様だ。
「殿下ぁー」
なので私は殿下の隣に座り、ヘッドロックの要領で引き寄せる。
「そこでその切り札はーちょぉーっと安いんじゃないんですかねぇ?」
「彼女本人でもか?」
「ええ、勿論。
彼女の技術はうちの弟子が学び盗ってる最中。時間掛けりゃこの技術だって手に入る」
堪えろよ、と解放してやった。
「すまない、何でもない」
殿下は口惜しそうにそう告げ、わたしはクリスティーナに目配せ。
「そろそろ午後の授業の準備をなさいな、殿下」
「あ、ああ、そうだね」
カタリナを見ると難しい顔をしていた。
「役に立てば、殿下もコルネットを紹介してくれるかもねぇー」
ユーリには引き続きカタリナから学びなさいと指示を出してお江ちゃんと共に殿下の後に続く。
「不老不死不死身はそう易々と広めちゃ駄目ですわ、殿下」
「う、うむ」
「あまりに安易に広めると殺されますわよ」
クリスティーナが殿下にお説教。
「そうなったらわたくしは勿論、サーシャも止めません。
人間の様な存在が安易に死ななくなると無限の殺し合いが起こりますわ。
特に貴方や貴方の伯母、エウリュアーレ殿下の様な人は特に長生きしてはいけませんわね」
オッホホホとクリスティーナは笑いながら窓の外に視線を向ける。そちら見ると多分暗部の誰かと思われる者が木の影に居た。
手を振っておく。
「何か居ましたか?」
お江ちゃんが目を凝らすもその時にはもう居無い。
「暗部が居たんだよ。
速く気が付ける様になると良いねー」
「はい。気の扱いと言う奴ですね」
そこが扱える様になるとお江ちゃんは更に強くなる。どーすれば気がつくんだろうね。
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