第97話 たまに師匠する月の騎士

 錬金術師が行動を共にする様になって早半年。事件は何も無く、殿下もこの国の学校みたいな場所に確りと通い始めた。

 学校での行動はこっちの貴族とかしかおらず、護衛も現地民なのでまー五月蝿い。マーマーミャーミャーと。

 しかし、半年もいればある程度は言語として理解できる様になる。殿下は学ぶ気があるしユーリもお江ちゃんも学べと言ったおかげで普通に話せている。

 学ぶ気のない私でもある程度理解出来ているし吸血鬼の知能も手に入れたクラスなんか普通にペラペラだ。

 授業中は私達護衛は教室の隣にある控え室にて待機するのだがやる事がないので基本的には各人が読書したり自己鍛錬している。

 私は普通に椅子でバランス取ってるよ。

 クリスは読書か何かを凄い速さで執筆してるし、ユーリは錬金術を学んでいる。石炭をダイヤモンドに変える術を習ってるそうな。

 金なんか作った暁には逮捕されそうやな。


「剣術ですって」

「お江ちゃんは、殿下の周りで護衛ねー」

「はい!」


 剣術の授業になると護衛達はピリつく。まぁ、そうだよな。1番暗殺し易い時間だからな。

 なので、その場を支配者を決める。

 つまり、私が椅子を持って武道場に陣取れば良い。

 無能な奴はこれを気に私に勝負を挑んでくるのでユーリにボッコボコにさせる。ユーリに勝てなきゃ私に勝てない。それはユーリもお江ちゃんも殿下も分かっているので止めない。

 ユーリは毎回毎回出てくる挑戦者達に若干うんざりしつつも、流派が面白いので普通にノリノリで戦っている。

 蟷螂拳とか笑ってボコボコにしてたな。カマキリ拳とか言って帰った後にも真似していたが、翌日来たタカだかワシの拳法の真似してたな。

 虫の動きを真似するのは良いが、起こりが見えてるから意味無いよねって言う。


「さすが、月の騎士の一番弟子です」


 そして、私に取り入ろうとする文官どもいる。


「私の弟子だからーと言うより挑んでくる連中のレベルが低すぎですねー

 ユーリどころか連れて来た近衛騎士にも負けるんじゃ無いですかねぇ?」


 なのであっち行けと追い払う。

 政治とかは私じゃ無くて殿下とやってくれ。


「サブーリン殿、どうだろうか?

 我々に貴殿の技を見せては貰えないだろうか?」


 そして、今日は何やらやたらと絡んでくる剣術師範。何時もは何も言わずに見てるだけだが、今日は朝の挨拶に始まり何やら話しかけてくる。


「私は技とか使った事ないですがー?」

「ははっ、まぁ、一手。

 彼等に貴殿の腕前を披露しては貰えないだろうか?」


 殿下を含めて全員がこっち見てる。

 ため息しか出ねぇ。


「しょーがないですねー

 此処でウダウダやっててもしつこそーなのでいーですよー」


 来てくださーいと両手を広げる。


「剣は?」

「貴方如きに必要で?」


 ハッハッハッと笑って安い挑発。師範が静かに殺意を持った。

 因みにまだ椅子でバランス取っている。


「怪我をしても知りませんよ?」

「えー?

 そんな自己紹介されたの初めてですねー

 怪我が怖いならやめてもいいですよ?」


 ねー?と挑戦者を一瞬でボコったユーリに言うとユーリは確かにと頷いた。

 此処で漸く師範が動く。木剣を横薙ぎに振り、私の顔面を的確に打ち抜こうとしたが、普通に起こりに殺気を乗せてるせいで見なくても解る。

 軌道から避ける様に重心を後ろに倒し、倒れる瞬間に顎を爪先で軽く蹴る。


「ガッ!?」

「これで満足でー?」


 気絶しない様に軽く蹴ったので師範は顎を真っ赤にしてその場に剣を取り落としただけだ。


「まーこんなもんですわ。

 やっすい挑発の意図を汲めば、そもそも攻撃を躱される事はない。

 怒りに身を任せても何も得は無い。一時的な力や無痛を得るが、力を得ても当たらねば意味がない。無痛を得ても傷が治る訳ではない。

 そもそも、怒りによってそれを得ている時点で下の下。

 精進が足りませんなぁ?」


 ハッハッハッと笑っておく。


「せっかくだから、全員ボッコボコにしよう。

 ユーリ、お江」


 2人に言うと2人は満面の笑みで自身の腰に下げている剣や刀を抜いた。


「私に傷一つでも付けたら願いを一つ叶えよう」


 武器として傍に立てかけてあった竹の棒を手に取る。

 その瞬間、ユーリとお江が前に出た。冷静沈着。お江ちゃんは自身がもつ最大の速度で居合。知らなければ初見では躱わせ無い。

 知っているから避けれる。


「速さはそこそこ。

 狙いも良し」


 お江ちゃんの一撃は私の胴狙いだったので竹の棒を使って刀を下から掬い上げて軌道をかち上げ、その流れで後ろ回し蹴り。


「でも、その程度だ」

「ぐっ!」


 お江ちゃんは後方に吹き飛ばされつつ、その陰からユーリが完全に気配を消して現れた。


「おー、気配のコントロールは漸く身になって来たねー」


 まぁ、それ以外はまだまだ余地がある。

 お江ちゃんより遅い剣を制する様に殺気を叩き込むと、本能が攻撃を防御に転換しようとし、それを再度理性で押し留めて攻撃を続行しようとした。


「まだまだですねー」


 その一瞬の隙は致命的だ。

 かち上げたままの竹の棒をユーリの脳天に叩き込む。しかし、その感触は可笑しい。


「ほう!」


 背後から薄らと気配を感じたので再度回し蹴り。するとユーリが居り、慌てて剣で私の回し蹴りを受け止めた。


「んー?」


 私がぶん殴ったユーリはグズグズと形が壊れ粘土状の物質になる。

 何だこれぇ?


「傀儡ガ一撃でヤラレタ!?」


 カタリナが嘘だろと叫んでいたのでどうやら錬金術らしい。成程、そもそも人間じゃないから気配が殆どないのか。


「成程なぁー

 作戦は良いですが、ユーリ本人の気のコントロールがまだまだダメですねー

 20点」

「くっそー!

 カタリナと頑張ったのに!」


 ユーリが本気で悔しそうに懐から何やら瓶を取り出した。


「私以外なら普通に傀儡?アレの段階で良いの入ったんじゃないですかねぇ?

 お江ちゃんももっともっと速く無いと私には効きませんがー此処の師範とかーユーリにボッコボコにされてる護衛程度の連中ならヨユーでやれると思いまーす」


 殿下を含めた残りの生徒達は最早雑魚のまとまりでしか無かった。

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